(3)何気ない日常
現在考助は、アマミヤの塔の第八十三層で狩りを行っていた。
本来の目的は、第八十三層に植えた神樹の枝の様子を見に来ていたのだが、ついでなので魔道具の材料を取りに来たのである。
狩りのお伴は、転移門から出てきた考助に突撃して来たナナと護衛よろしく後ろに控えているコウヒである。
最初の時と違って、この階層に居てもコウヒが手を出すことはしない。
というよりも、考助は妖精に作ってもらった結界に守られたままナナの狩りを見守っていた。
妖精たちも成長著しく、この階層に出てくる程度の魔物では、その結界が破られることはない。
そのため、考助は勿論、コウヒも楽をしているというわけだ。
それはともかく、ナナの活躍を見守っていた考助は、ポツリと呟いた。
「もしかしなくてもナナ、また強くなってる?」
「・・・・・・なっていますね」
珍しいことに、考助の問いにコウヒは少しだけ間を空けて答えた。
質問をした考助と同じようにコウヒもまた、ナナの成長を驚いているのだ。
そのナナは、考助と一緒に狩りに来れたのが嬉しいのか、張り切って三体の魔物を相手にしている。
「うーん。これ以上の成長はないと思っていたんだけれどなあ。どこまで伸びるんだろう?」
「どうでしょう? もしかしたら、考助様の力が伸びられるのと同じように伸びていくのかも知れませんね」
「え? そんなことあるの?」
「ナナは、眷属の上に加護まで持っていますから。無いとは言えないと思います」
コウヒの言葉に、考助はうーんと唸った。
眷属はたくさんいるのに、ナナだけこれだけの進化を果たして、さらに実力を伸ばしているというのが、信じられないのだ。
勿論、ナナが努力(?)をしてここまできていることは、十分に理解をしている。
それが、自分の加護のお陰だと言われても、納得が出来ないだけである。
ナナの中にある自分の加護のことはきちんと把握できているが、それが実力アップに繋がっているようには感じられないのだ。
首を傾げて考えている考助に、コウヒがクスリと小さく笑った。
「考助様は眷属にたくさんの加護を与えていますが、ナナほどに成長をしている個体はまだ他に見ていません。これから数が増えてくれば、それも実感できるようになるのではありませんか?」
「あー、なるほど。それはあるかも」
神としては新米の考助は、加護を与えた相手がどんな成長をして行くかと見抜くことはできない。
それは、様々な経験や過去の事例から推測するからこそできることなのだ。
ナナが今のところのトップであれば、前例がないことだけに、実感が湧かないのも当然かも知れない。
コウヒはそういうことを言いたいのだ。
そろそろ最後の一体に止めを刺そうとしているナナを見ながら考助は何度か頷いていた。
ナナが考助の加護を与えた眷属として、最速の成長を見せる限りは、どれだけ伸びるかも予測することは難しい。
あるいは、本当のこの世界で最強の神獣となる可能性だって十分にある。
コウヒの言葉は、そういった意味も含まれていた。
だからといって考助は、当たり前だがナナを見捨てるつもりは全くない。
そんなことを考えていた考助の元に、ナナが尻尾を振りながら駆け寄ってきた。
張ってある結界は、ナナが通れるようにしてあるので、問題なくすり抜けてくる。
そして、考助の足元に止まったナナは、尻尾を振りながら見上げてきた。
さらに、時折視線を自分が倒した魔物に向けていることに、考助はすぐに気付いた。
「あー、あれは皮が欲しいから肉は狼たちで処理しちゃっていいよ」
考助がそう言うと、ナナは嬉しそうにさらに激しく尻尾を振る。
「とりあえず、この場で血抜きをするから、ちょっと待っていてね」
今回ナナが相手をしていたのは、体長が三メートルほどになる蛇型の魔物だった。
考助は、それらの皮が必要で、ここまで来たのである。
コウヒに手伝ってももらいながら考助は蛇たちを処理していった。
既に何度も行っている作業なので、考助の手つきにも戸惑いはない。
さらにいえば、魔道具に加工するための事前処理も同時作業で行っているので、素材としては最高級品となる。
もし魔道具職人がそれを見れば、どんなことをしてでも欲しがることだろう。
もっとも、考助はその素材を売る気はなく、全て自分で使うつもりなので、これらの素材が表に出ることはないはずだ。
・・・・・・考助の気紛れが発動しない限りは。
手早く処理を終えた考助は、蛇たちをアイテムボックスにしまってから拠点へと向かった。
ナナもアイテムボックスのことはきちんと理解しているので、獲物がその場から姿を消しても騒いだりはしなかった。
そして、拠点についたナナは、一鳴きしてから狼たちを集めた。
そのナナの声で、それまでどこに隠れていたんだというくらいの狼が集まって来た。
今回その狼たちは、考助に突進してくることはなかった。
すでに一度突撃を行っているので、十分に満足しているのである。
その狼たちに、考助は下処理を済ませた蛇の肉を出した。
ただし、それを見ても狼たちが騒ぎ出すことはない。
それだけを見ていれば、よくしつけられた犬たちが、御主人からの「よし」の声を待っているかのようだった。
そして、それは事実その通りで、ナナが考助を見上げてきた。
その意味をきちんと理解していた考助は、狼たちに向かって一言だけ言った。
「よし。皆で食べちゃっていいよ」
考助がそう言うと、狼たちは蛇の肉へと群がり始める。
ただし、こういう場だからこそか、きちんとした上下関係がある狼たちは意外に落ちついて獲物に食いついている。
現に、優先順位が低い狼は、遠巻きにそれを見守っていた。
ちなみに、この順番は純粋に強さだけではなく、妊娠している母狼や子狼が優先されていたりする。
父狼は、この場で餌にありつけなくても自分たちで狩りに行けるだろうという配慮からである――と考助は勝手に解釈している。
考助が出した蛇の肉は、小一時間もせずに狼たちの胃袋の中へと消えて行った。
なんだかんだ言いながら、この階層では蛇の肉はご馳走の部類に入るのだ。
時間に余裕があった考助は、それを最後まで見守ってから戦利品の皮を持って管理層へと戻るのであった。
皮、ゲットだぜ!
ちなみに、剥いだばかりの皮にしっかりと下処理ができている素材は、超高級品です。




