11話 神与物
アースガルドの世界において、神の祝福を得た物・・・神与物はそれなりの数が確認されている。
歴史上、神の顕現と言うのが何度も確認されているので、その際に物を神から下賜されるという話も珍しくないためだ。
当然そう言った物は、神殿に集められている・・・と思いきや、全ての神与物が神殿と言う組織にあるわけではない。
何故かと言うと、神の祝福を得ている物は、所有者から強引に奪ったり手に入れたりすると、何らかの”罰”が与えられたりするのだ。
実際、過去に神殿側の者達が、そう言った神与物を強引に手に入れた際には、その者達に神罰が下ったという記録がいくらでもある。
それゆえに神与物は、正当な持ち主以外には、不可侵の扱いになっているのだ。
神与物の扱いになる物は、様々な物がある。
手のひらの中に納まるような小物から、武器防具の類、さらには神殿などの建物まで、多岐に渡っている。
共通しているのは、神が直接触れた物、あるいは、神の手ずから直接渡された物である。
現在、神与物と認められている物のほとんどは、神殿側が確認して認めていた。
勿論、神殿側は認めていないが、持ち主が神与物だと言い張っている物もあるが、そういった物はあくまでも仮扱いになっている。
中には神与物だと言い張って嘘を吐く輩もいるのだが、そういった者に対して神々が何かするということは無い。
まあ神々にしてみれば、そんな者にいちいち構っていられないという所だろう。
そう言った話はともかくとして、神与物として認められている物は、神殿という巨大組織でさえ迂闊に手が出せない物なのだから、その価値は計り知れない。
当然何とかして、所有者から正当に譲り受けようとする者が出てくるのは、ある意味で人として当然ともいえる。
仮令それが金銭のやり取りであっても、所有者さえ認めれば良いのだから、大金を積む者も出てくる。
こういった場合も両者の合意があるので、神罰と言ったことは起こらない。
詳しい線引きはよくわかっていないのだが、仮令契約と言う形をとったとしても、だまし討ちのような形での契約だと認められないこともある。
あくまでも基準は神の中にあると考えられているのであった。
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考助がエリス達を召喚して、庇護下に入るという形で祝福を与えられた第五層の神殿は、そう言った意味では紛れもなく神与物だ。
故に仮令神殿側と言えども迂闊に手が出せない物になった。
考助としても当然、そう言った狙いもあって今回の召喚を行ったのだ。
だが、今回のイベントの参加者たちはそれどころではなかった。
いや、新たな神与物が神からこの世に与えられた事も重要な意味がある。
だがそれ以上に、神与物が創られるきっかけになった過程が問題だった。
その過程とは考助の行った神威召喚である。
歴史上初めて、人の手によって、人の意思で神が現世に呼び出されたのだ。
これが騒ぎにならないはずがないし、当然すぐに世界中に噂として広まっていくだろう。
仮令緘口令を敷こうとしても無意味だ。
誰が緘口令を出すかも問題だが、実行した側の考助が、その噂を止めるつもりがないのだから。
これ以上ない程、数多くの目撃者がある中で行われた召喚である。
神殿側が神与物として認めないといくら言い張ったところで、神殿という組織の権威を失墜させることにしかならない。
それ故に神殿側としては、今回の召喚と合わせて、第五層の神殿は神与物として認めるしかない。
召喚時に現れた三柱の神々は、紛れもなく本物だと分かっていた。
それ自体を疑ってしまえば、神殿及び高位の聖職者としての意義がなくなってしまう。
あれが偽物だと言ってしまえば、最悪神の信徒としての力さえ失ってしまうことになりかねない。
聖職者としてそれは、一番起こってほしくないことなのだ。
そして、第五層の神殿を神与物として認めるということは、当然神殿側としては何としても関与しておきたい建物になる。
これで今まで行っていた方針は、転換するしかなくなった。
積極的に頭を下げてでも、第五層の神殿に神官や巫女を滞在させるしかなくなったのだ。
そうしなければ、人々からなぜ祝福を得た第五層の神殿に、神官や巫女を派遣しないのかと言う問い合わせが殺到するのが目に見えている。
塔側にも当然そう言った問い合わせは行くだろうが、おそらく神殿側が受けるほどではないだろう。
塔側にしてみれば、たとえ問い合わせがあったとしても、神殿側から打診がないという一言で済むのである。
三柱の神が去って、会場では流石に事の大きさにざわめきが起こっていた。
その中でローレルは、今までの神殿の策が全て無に帰せられたことを理解した。
そして、今後のことを思ってため息を吐いた。
事ここに至って、神殿としてはもう神官や巫女の派遣を行わないという事は出来ない。
だが、塔側にしてみれば、別に第五層の神殿の管理は神官や巫女でなくてもいいのだ。
神与物である第五層の神殿の管理は、あくまでも所有者である考助の元で行うことになる。
その考助が、別に神官や巫女でなくてもいいと言えば、別にわざわざ神殿側の息のかかった神官や巫女を使わなくてもいいのだ。
第五層の神殿を訪れる人々も、神威召喚を行った考助のその言葉を受け入れるだろう。
あくまでも第五層の神殿の価値は、神与物としてというのが第一にあるのだから。
少なくとも第五層の神殿においては、三柱の神が召喚され、その三柱の神が祝福を与えたという点が重要なのであって、その中身に関しては二の次なのだ。
「・・・策士、策に溺れる、と言ったところかしら、ね」
周囲の聖職者たちがいまだに呆然としている中、一瞬だけ他の二神殿の神官長と視線を交わしたローレルは、そう呟いた。
ローレルの心情としては、もはや諦めの境地に至っている。
何とか塔にある利権の一部でもあやかろうと策を弄してみたが、その策ごと吹き飛ばされてしまった。
三柱の神を召喚した考助は、神殿関係者にしてみれば、神の御使いであるコウヒと同じような扱いにするしかない。
すなわち触らぬ神に祟りなし、である。
当然相手は同じ人間なのだから色々とやりようはないわけではない。
だが、考助の傍にはコウヒが常に控えている。
考助を刺激すれば、コウヒが出てくる上に、今回の事で考助自身も力があることが露呈した。
下手な対応をすれば、神殿側の権威が失墜するどころでは済まなくなる結果が見えている。
これから先のことを考えて、大きなため息を吐いてしまうローレルだった。
周囲のざわめきを聞きながら、ライネスは隣に座っていた忠臣のリックに問いかけた。
「・・・・・・本物か?」
ライネス自身は、商人としては超一流だが、魔力や聖力には疎いところがある。
その身で受けた感覚あるいは本能は、目の前に現れた三柱の神は、紛れもなく本物の神だと訴えていたが、自分よりはるかにそう言ったことに詳しいリックに確認を取った。
リックは、そう言った方面に詳しいからこそ、ライネスの補佐的存在として今まで役立ってきたのだ。
「・・・・・・・・・・・・紛れもなく・・・」
リックはようやくと言った感じで、そう言葉を絞り出した。
まともに三柱の神々の神気を受けたおかげで、未だにその影響が落ちていないのだ。
「そうか・・・・・・」
ライネスはそう言った後、目を閉じた。
今一度、考助のことを考えた。
一柱の神を召喚するだけでも歴史的偉業となるだろうに、今回行った召喚は三柱の召喚だ。
その圧倒的な力量は、あっという間に今回招待されている冒険者たちの間に広まるだろう。
冒険者は、その依頼内容のおかげで、他者の力量と言った話には敏感だ。
依頼内容によっては、敵対することもあり得るのだから当然である。
強者の噂を知らない冒険者ほど、無謀な挑戦を行い散っていくのだから。
そのために、今回のこの召喚は冒険者達の間で広まっていくだろう。
時に力の信奉者ともなりえる冒険者たちのことだ。
益々クラウンの冒険者の在籍数は増えると考えるのは、自然なことだ。
今現在でもそうなのだが、さらに手が付けられない組織になっていくのだろう。
そこまで考えたライネスは、これからのクラウンとの関係を考えて身震いするのであった。
前作活躍しすぎたので、今作は出番なしの主人公ですw
2014/6/7 建物としての神殿と、組織としての神殿で表現を若干変更
2014/6/27 誤字訂正




