(13)見覚えのある結界
第八十三層に植えた神樹の枝は、世界樹の時のようにいきなり大きくなるわけではない――と見込まれている。
これはコレットやエセナからの情報で、実際に確認したわけではないが、ほぼ間違いないだろうということだ。
だからといって、考助は何カ月もほったらかしにするつもりはないが、毎日のように通うつもりもない。
何がいいたいかといえば、枝が成長するまでの間に、もう一つ見つかっている結界を見に行くということだ。
神樹の枝が劇的な成長をしないのであれば、その間に残りの場所を確認しに行くことが出来る。
折角あと一つなのだから、さっさと探索を終わらせようというのが、考助たちの出した結論だった。
勿論、第八十三層に植えた神樹の枝は、完全に放っておくわけではない。
第八十三層には狼や狐がいるので、ワンリやナナが見回りに行くこともあり、何かがあればすぐに連絡をするようにと言ってある。
その連絡方法のために、通神具を用意してあるので、考助たちも安心して出かけることが出来るというわけだった。
――そんなわけで、考助は前回と同じメンバーで、南大陸にある最後の侵入不可領域へと向かった。
そして、浮遊島でその場所に着いた考助は、エイルを見ながら聞いた。
「ここがそう?」
「はい。今までで一番広い範囲ですが、どう頑張っても入ることが出来ません」
「あ~、なるほどね」
エイルの答えに、考助は頷きつつコレットを見た。
そして、考助から見られたコレットは、苦笑しながら頷いていた。
「多分、考えていることは一緒だと思うけれど、それで合っていると思うわよ」
「あ、やっぱり?」
コレットから答えを聞いた考助は、特に表情を変えずにそう答える。
その二人のやり取りを脇で見ていたシルヴィアが、訝し気な顔になりながら聞いて来た。
「ふたりはもうこの森がどんなところか分かったのですか?」
「わかったというか、見覚えがあるというか・・・・・・まあ、とにかくはっきりしたことを確認するから、まずは降りてみようか」
「そうね。そうしたほうが良いわ。降りてみたほうがはっきりするだろうし」
考助の言葉に、コレットがそう同意して来た。
何やら考助とコレットの間には、拍子抜けしたような雰囲気があることに、シルヴィアとフローリアは気がついていた。
それでも、その理由はよくわからないため、とりあえずは考助とコレットの後にしっかりと着いていくのであった。
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適当な空き地を見つけて飛龍から降りた考助は、ほかの面々が降りてくるを待ってから言った。
「とりあえず降りてみたけれど、やっぱり間違いないみたいだね」
「そうね。これで違っていたらむしろそっちのほうが驚きだわ」
考助に向かって頷きつつ、コレットがそう応じた。
浮遊島と同じやり取りをしている考助とコレットに、今度はフローリアが聞いた。
「降りて答えが確信できたのであれば、そろそろ教えてくれるか?」
「あー、うん。まあ、言ってしまえばすぐに分かると思うんだけれど・・・・・・ここ、エルフの里があるよ」
「勿論、世界樹も一緒に存在しているみたいね」
考助に続いてコレットがそう言うと、シルヴィアとフローリアの顔に理解の色が広がった。
これまで考助は、アースガルドの世界で二本の世界樹を見てきている。
そのたびに周囲の結界を見ていたわけだが、それらの結界とここにある結界は、ほとんど同じような作りになっているのだ。
当然ながら、完全に同じというわけではないのだが、それでも世界樹が作っている結界だろうということはわかる。
それはコレットも同じで、だからこそ二人は揃って断言するように言っているのだ。
森の中に入るための入り口を見ながら、考助は少しだけ首を傾げてからほかのメンバーを見た。
「というわけなんだけれど、どうする? 行ってみる?」
「世界樹の森だからといって、別に神樹が無いというわけではないわよ?」
世界樹があるのであれば、目的である神樹はないだろうと考えての考助の言葉に、コレットがそう言った。
「そうなの?」
「うん。むしろ世界樹が神樹を育てている可能性だってあるからね」
これまで見てきた二つの里では、残念ながら神樹はなかった。
ただ、エルフに神樹の話が伝わっている以上は、別に世界樹の森に神樹があってもおかしくはないというのが、コレットの考えだった。
コレットの言葉を聞いた考助は、少し考えてからフローリアを見た。
「というわけなんだけれど、どうする?」
「いや、なぜ私に聞く? コウスケが決めればいいのではないか?」
「そうなんだけれどね。多分、ここにエルフがいるのは確実だから、政治の話になると思ってね」
政治といっても、国同士の重く堅苦しい話ではなく、人里離れたエルフの里に考助たちが入って行けば、必ず何かしらの騒ぎが起こるだろう。
こうしたやり取りは、フローリアの得意分野だと考えての質問だった。
考助の問いかけの意図を理解したフローリアは、少しだけ考えるそぶりを見せてから答えた。
「そこまで難しく考える必要はないのではないか? 神樹を求めるのが駄目であれば駄目だと言ってくるだろうし、気にしない場合は普通に迎え入れてくれるだろう?」
最後はエルフの里について詳しいコレットに向けての問いかけだった。
「それはそうだけれど、そもそもエルフ以外を完全に排除しているみたいだから、話ができるかどうかも微妙よ?」
「そうなのか?」
「ええ。その辺は結界を見れば、何となく分かるしね」
コレットの答えを聞いたフローリアは、なるほどと頷いた。
「それならいかない方が無難といえば無難だがな・・・・・・一つ問題がある」
「問題? なにそれ?」
何が問題になるかが分からなかった考助が、フローリアに向かって首を傾げた。
「いや、簡単な話だ。エルフの里で問題が起こっていたとしたら、それも一緒に無視することになる」
それはあくまでも可能性のひとつでしかない。
エルフの里で問題が起こっているかを確認出来ているわけではないのだから、想像での話でしかない。
それでも起こり得る可能性をひとつでも拾い上げて対応するのが、政治の役目でもあるのだ。
エルフの引きこもり体質(?)を無視して進むか、それでも起こっているかも知れない問題を無視して戻るか、その二者択一の選択肢を考えていた考助は、途中で苦笑をした。
「何でこんなややこしい考え方をしているかな。要は自分が行きたいかどうかで良いよね?」
「まあ、最終的にはそういうことになるな」
考助の言葉に、フローリアも笑いながら頷いた。
どちらも選べない状態で、どちらかを必ず選ばなければならない場面は、どんな道を進んでいても出てくる。
特に考助の場合は、結局自分の好きな方を選択したほうが、いい結果になっているのだ。
それが、現人神だからいい結果を引き寄せている――のかどうかは、誰にも分からないのだが。
とにかく、そんなことを言った考助は、笑顔を浮かべてから言った。
「せっかくここまで来たんだから、とりあえず森の中に入ってみよう。その上でエルフたちが何かをして来たなら、その時々で対応しようか」
「それが良いと思うわ」
考助の決断に、コレットが同意したことで、今後の予定が決まった。
そして考助は、この世界で三つ目の世界樹の森へと足を踏み入れるのであった。
というわけで三つ目は世界樹の結界でした。
特に引っ掛けとかはありませんw




