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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(10)結界の中央へ

 考助たちは、何度か休憩を取りつつ結界の中央へと進み続けていた。

 直進すれば半日で着く距離を既に二日もかけていることから、どれほど面倒なルートを通っているのか分かるというものだ。

 ただし、そのルートを外してしまえば、余計に時間がかかるので素直にそのルートを通るしかない。

 そうだとわかっていてもイライラしそうな作りに、流石の考助も苦笑するしかなかった。

 現にフローリアなどは、不満げにため息をついている。

「――わかってはいるが、つい真っ直ぐに進みたくなって来るな」

 同じような風景が続いているだけに、彼女のイライラもだいぶたまって来ているように見える。

 もっとも、それは敢えて見せているということもある。

 コレットはともかくとして、シルヴィアは自分の不満を表に出しにくい性格をしているので、その代わりを務めているのだ。

 そうでなければ、忍耐強く交渉をしなければならない女王の地位には就けないはずだ。

 あえてフローリア自身が適度に不満を発散することで、パーティの雰囲気を悪くなり過ぎないようにしている。

 女王という立場にいたフローリアであれば、そのくらいのことはやってのける。

 

 そんな意外な(?)フローリアの特技に感謝しつつ、考助はまあまあと宥めていた。

「そろそろこの苦行も終わりそうだからね。今日中・・・・・・は無理だとしても、明日の午前中にはいよいよご対面ということになるんじゃないかな?」

「そうなのか?」

 フローリアは、そういって首を傾げながらコレットを見た。

「そうねえ。大体それくらいだと思うわ」

 考助のように結界そのものではなく、コレットは森を見てそう答えた。

 コレットは考助ほどに結界のことに詳しいわけではないが、結界の中央と今までの道のりから考えて、大体の距離を出している。

 どちらにしても、目的地にかなり近付いてきていることだけは確かだった。

 

 ここまでのルートは、森の新陳代謝(?)が以前の森と比べて激しいのか、そこまで古い樹が立っているということはなかった。

 その代わりに、以前の森に比べて、若々しい森という印象を与えてくれている。

 両方を見てきた考助たちにとっては、どちらが良いということはなく、どちらも森としては素晴らしい印象を与えてくれている。

 そして、肝心のコレットは、注意深く森を観察しつつ、感心した表情で見て回っている。

 そのコレット曰く「人の手が入っていないのに、これほどまでに整然と木々が育っているのは、何かの意思が働いているお陰」ということらしい。

 考助から見れば、どこがどう違うのか全く分からないのだが、専門家がそう言うのだからと「なるほど」と答えていたりする。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 そんなやり取りを経て、考助たちは予定通りに結界の中央へと着いていた。

 そして、そこには――、

「ははあ。なるほどねえ。これがそうなのか?」

 考助は目の前にある樹を見て、そう聞きながらコレットを見た。

「確かにこれほどの大きさであれば、神樹といってもいいでしょうねえ」

 聞かれたコレットも感心した顔で、そう答えていた。

 

 今、考助たちの目の前には、一本の巨木が立っていた。

 その大きさは、世界樹ほどではないにせよ、今まで考助が見てきたどの樹よりも大きく育っている。

 その樹を見て、ただの樹だというものは誰もいないと断言できるほどの大きさだ。

 

 念のため考助は、その巨木に対して、左目の力でステータスを確認してみる。

 すると確かに称号の欄に、《神樹》という項目があった。

「うん。確かに神樹みたいだけれど・・・・・・果たして、どういう種類の神樹なのかな?」

 コレット曰く、神樹は神樹でも様々な種類があるようなので、目の前にある樹がどの成り立ちでなった神樹なのかが、考助としては気になるところだ。

 そして、その考助の言葉に続けるように、フローリアが言った。

「私としては、以前から二人が言っていた何者かの意思とやらが気になるのだが?」

 

 考助とフローリアの問いに、コレットが少し考えてから答えた。

「フローリアの質問への答えは、間違いなくこの神樹の意思ということになるのでしょうね。でも、私たちみたいにはっきりとした意思があるのかと言われれば疑問でしょうけれど」

「・・・・・・どういうことだ?」

 そう言って首を傾げたフローリアに、コレットが困ったように首を傾げて、考助が助けるように答える。

「なんといったらいいのかな。確かにこの樹には、神樹としての役目はあるのだろうけれど、どちらかといえば、この結界内の森全体が神樹のようなものなんだよね」

「・・・・・・ふむ?」

 それでも分からなかったフローリアが、頭上に「?」を飛ばしながら首を傾げた。

 

 さすがにわかりにくかったかと反省した考助は、さらに説明を加えた。

「結界内の木々は、お互いにつながっていて、それぞれの小さな意思を集約して存在しているのが、この神樹なんだよと言ったら理解できるかな?」

「あ~・・・・・・うむ。なんとなくだが・・・・・・」

 微妙な表情で頷いたフローリアに、考助は笑いながら続けた。

「まあ、それでいいと思うよ? 僕だって、そうなんだろうなと感じていることを口にしているだけだから。いま言ったことが百パーセントの答えだとは思わない方がいい」

「そうね。私もそう思うわ」

 考助の言葉に同意するように、コレットも頷いた。

 

 考助もコレットも、そうなんだろうなという予測の元に話をしているだけである。

 実際にそうなんだという答えを出すには、きちんとした調査をしなければならないだろう。

 その調査をするためには、やはり結界内の森をある程度調べなければならないわけで、それをするためには相応の時間がかかるということになる。

 さすがのコレットも、このややこしい森で、そんな調査をする気にはなれなかった。

 

 コレットが正直にそう言うと、シルヴィアが珍しい物を見るような顔で聞いた。

「貴方のことだから調べたいと言い出すのかと思っていたのけれど・・・・・・?」

「確かにそうしたいのは山々だけれど、時間がかかりすぎるわよ。いくらなんでもそんなに長い時間、里を放置しておけないわね」

 苦虫を噛み潰したような顔になって答えたコレットを見ながら、フローリアが不思議そうな顔をして考助を見た。

「そんなに時間がかかるのか?」

「そりゃあね。一か所調べるのに、何度も森を出たり入ったりして、同じようなルートを何度も通ることを考えたら、僕としては気が遠くなるよ。ちゃんと全体像をつかむとなったら、早く見積もっても数年、下手をすれば十年単位の調査になるんじゃないかな?」

 考助がそう答えると、コレットは重々しく頷いて、フローリアとシルヴィアは「うわあ」という顔になっていた。

 そんな地道な作業に十年以上も掛けるとなると、コレットが嫌そうな顔になるのも当然なのだ。

今回は素直に(?)見つけました。

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