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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(4)森の仕掛け

 森に入って数時間。

 考助たちは未だに森の中を彷徨っていた。

「――――うーん。迷わされているという感覚はないんだけれど、なにも見つからないね」

 どこをどう見ても普通の木々のようにしか見えないため、これが神樹だと特定することができない。

 そもそもの根本的な問題に、考助は苦笑しながらそう言った。

 

 空から確認した結界(?)で覆われている範囲は、さほど広くはなかった。

 勿論、歩きだとかなりかかる範囲ではあるが、端から端まで半日もかからないくらいではあった。

 それだけの範囲の森であっても、実際に歩きで一つの木を探すとなれば、かなりの時間がかかることは予想していたが、根本の問題で躓いてしまった考助が、思わずぼやいてしまったのだ。

 そんな考助に、シルヴィアがふとなにかを思い出したような顔になって聞いて来た。

「神力をたどることはできないのでしょうか?」

「うーん。どうだろう? 誰のどういった神力かとわかればできると思うけれど、不特定の相手の神力は・・・・・・探せるかなあ?」

 シルヴィアの問いに、考助は、半信半疑といった顔でそう返した。


 神力の場合、○○の神が持っている(あるいは、使っている)力と考えることが普通なので、見たことがない相手の神力を探し出すことは難しいのだ。

 もっとも、普通は神やあるいは直接神力を使える人と対面するほうが珍しいので、考助のやり方は普通ではない。

 そういう意味では、考助よりも修行を積んでいるシルヴィアのほうが、神威に敏感であるとはいえるだろう。

 

 そう考えた考助は、シルヴィアを見て、そのままのことを聞いた。

「――というわけで、シルヴィアはどうなの?」

 考助がそう聞くと、シルヴィアは残念そうに首を左右に振った。

「今のところは、まだなにも・・・・・・」

「いや、別に落ち込む必要はないよ。そもそも神樹だからといって、本当に神力や神威を発しているのかも分からないんだし」

 考助はそう言いながら、コレットから聞いた神樹に関しての話を思い出していた。

 

 そもそも神樹というのは、神様の力を宿した樹のことを指すのであって、具体的にどの種が神樹であると決まっているわけではない。

 簡単に言えば、柳であっても桜であっても、そうした力があれば神樹になりえるのだ。

 それだけでもややこしいのだが、更に神樹探しを難しくしているのは、考助が言った通りに、神力や神威を頼りに探すことができないことにある。

 その理由は様々だが、例えば、過去に神(の意)が降りたことのある樹も神樹と呼ばれるが、そうした樹にはすでに神の力が残っていなかったりする。

 それでも神樹は神樹なので、そうなってくると考助たちには普通の木と見分けがつかない可能性があるのだ。

 

 やはり専門家も一緒に連れて来るべきだったかと考助が悩み始めた頃になって、先ほどから何やら考え込んでいたフローリアが口を開いた。

「そもそもの話に戻るが、ここに結界はあるのか?」

 自分では見つけることが出来ていないためにフローリアはそう質問したのだが、考助とシルヴィアは一度顔を見合わせてから同時に首を左右に振った。

「そんなものがあるようには思えないな」

「私も同じです」

 考助とシルヴィアは、神力を探す傍ら、結界についても注意をしながら探っていた。

 だが、今のところはまったくそれらしい兆候を掴めていない。

 それはミツキも同じようで、無言のまま首を振っていた。

 

 三者三様の様子を見て、フローリアは難しい顔になって言った。

「だとすると、最初から考え方を変えなければならないのではないか?」

「というと?」

 フローリアの言いたいことが分からずに、考助は首を傾げた。

「空から侵入は勿論、探すこともできないとなると、この辺りに何かがあるのは間違いない。それなのに、歩きだときちんと入れているのに、結界らしきものも見つからない。・・・・・・不思議だとは思わないか?」

 フローリアの疑問に、考助が確かにと頷いた。

 

 それを横で聞いていたシルヴィアが、恐る恐ると言った様子になって聞いて来た。

「実は最初から結界に惑わされていて、ここはあの辺りではない・・・・・・?」

「簡単にいえば、そういうことだな」

 フローリアがそう言って頷くのと、考助がある考えに気付くのはほぼ同時だった。

「・・・・・・あー。その話を聞いて、あまり考えたくないことを思い付いちゃったんだけれど?」

 考助のその言葉に、他の面々の視線が集まった。

 

 皆からの注目を浴びた考助は、現実にはそうであってほしくないと考えつつ、さらに続けて言った。

「実は、最初から結界の中に入っていたとしたら?」

 ここでいう最初からというのは、飛龍たちで降り立った場所からという意味だ。

 考助たちは、飛龍や浮遊島で侵入できない場所を優先して考えていたため、もしいま言ったことが正しいとなると、根本から考え直さなければならなくなる。

 何故なら、実は普通の森の中だと考えていた場所が、すでに結界の中にいたとすると、結界が無いように見せることは、容易に出来るのだ。

 

 十分に考えられる考助の意見に、しかしその場の全員が渋面になった。

 その理由は、もし考助が言ったことが正しければ、今まで森の中で彷徨っていた時間が、全て無駄になってしまうからである。

 とはいえ、一度その考えを思い付いてしまうと、それ以外には理由が無いようにも思えてくる。

 

 その場で立ち止まって少し考えていた考助たちだったが、やがて結論を出すことになった。

「・・・・・・仕方ない。楽をしようとしないで、きちんと森の端から入ってみようか」

「・・・・・・それがいいでしょうね」

 考助の言葉に、シルヴィアもわずかに渋い顔になりながら答えた。

 シルヴィアにしては珍しいことだが、もう一度森へ最初から入り直すとなれば、そうなってしまうのも仕方ない。

 フローリアが、はっきりと大きなため息をついているのだから、尚更だった。

 

 そんなふたりに、考助が仕方なしにさらなる爆弾を落とした。

「もっと面倒なことがあるんだけれど、こうなってくると、コーたちが例の場所にきちんと降りられるかどうかも不安があるんだよね」

 もし、本当に森全体に結界があるとなれば、その可能性もまったくないわけではない。

 ではなぜ最初のときに降りられたのかという問題が出てくるが、やりようによってはいくらでも方法があるのだ。

 そのことに気付けなかったのが、考助たちの敗因といえるだろう。

 

 そんなことを考えていた考助は、首を振ってから言った。

「いや、駄目だな。思考が悪く考えるほうに向きすぎている気がする。とりあえず、さっきの場所まで戻ろうか」

 考助がそう言うと、他の三人は黙って頷いていた。

 これまでの労力を考えると、無言になってしまう気持ちも分からなくはないのである。

 

 

 結局、考助が最後に考えた不安は当たらなかった。

 飛龍たちを呼ぶことはできたので、浮遊島へは無事に戻れた。

 その際に、各々疲労した顔をしている考助たちを見て、エイルが不思議そうな顔になっていたのだが、それはまた別の話である。

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