(1)いつものやりとり
ここから第13部 第7章になります。
くつろぎスペースで、わざとらしく「うむむ」とうなり声を上げている考助に気付いたフローリアが、仕方ないという顔で話しかけた。
「先ほどから何を唸っているんだ?」
こういうときの考助は、誰かに話を聞いて欲しくて、あえてそうしているのだ。
もし、この場にコウヒとミツキしかいない場合は、どちらかが聞いていただろう。
残念なことに(?)、今はフローリアがいたので、考助に問いかけるのは彼女の役目となっていた。
ちなみに、考助はきちんと女性陣が暇なときを狙ってやっているので、呆れられはしても嫌われるところまではいかない。
どちらかといえば、お決まりのやり取りのようなものである。
というわけで、当然のように唸り声を止めた考助は、フローリアを見ながら答えた。
「この数日、改めて考えていたんだけれどね」
「うむ」
「塔の管理が惰性に任せすぎて、ほとんど進展がないのが気になって来たんだよね」
「・・・・・・なるほど」
考助の言葉に、フローリアは一瞬の間を空けてから頷いた。
考助の言い分は勿論わかるが、そもそも塔の管理が今の状態になっているのにはわけがある。
「アマミヤの塔もそうだが、私のところの塔でも、いろいろと試してはいるんだがな・・・・・・。上手くいかないというのが、現状じゃないのか?」
別に考助たちは、忙しさにかまけて塔の管理をおざなりにしているわけではない。
勿論、最初の頃のように、塔にかかりっきりになっているわけではないが、それでも時間を見つけてはいろいろなことを試していた。
その中には、時間がかかるようなことも行っていて、それらは気長に結果が出るのを待っている状態なのだ。
ただし、それらが狙い通りの結果が出るわけではない――というよりも、ほとんど結果が出ていないのが今の状態である。
フローリアの問いかけに、考助が大きく頷いた。
「その通り! ・・・・・・というわけで、少しばかり考え方を変えようかと思ってね」
「ほう? というと?」
「塔のシステムにある既存のアイテムを使って駄目なら、外から持ってきてみてはどうかなってね」
以前、考助はアマミヤの塔に、フリエ草を持ち込んで繁殖させるという方法を成功させている。
それは塔の運営に直接役に立ったわけではないが、外部の物を持ち込んでいい結果につなげた好例だといえる。
そのことを思い出した考助は、今の状況を変えるために、外部の物を使って現状を打破できないかと考えたのだ。
考助から説明を受けたフローリアは、なるほどと頷いてしばらく考え込むように俯いた。
そして、三十秒ほど悩んだフローリアだったが、一度頷いてから考助を見て言った。
「確かにそれはありかもしれないな。だが、塔に役立ちそうなアイテムを、どうやって探し出す? やみくもに持ってくるのも良いかも知れないが、それを全部試すとなると、とんでもない時間がかかるぞ?」
時間に関しては、あまり心配をしなくてもいいのだが、そもそもの発端がのんびりしている現状を変えたいということなので、外部でのアイテム捜しに時間をかけては意味がない。
フローリアの言うことは、考助もきちんと認識していた。
「そうなんだよね。結局そこが問題で悩んでいたんだ」
「なるほど。そういうことか」
ここでようやく先ほどの唸り声の意味が分かって、フローリアが納得顔になった。
いちいち外で採取したものを持ち帰って登録するとなると、その作業だけでも膨大な時間がかかる。
それを考えると、考助が悩みまくるのは、当然だろう。
「それで? 具体的に、私に何を聞きたいんだ?」
「いやー、何か塔に役に立ちそうな自然物とか知らないかなーって」
「それは聞く相手を間違っていないか?」
ジト目でそう言ってきたフローリアに、考助は両手を前に持ってきてストップという仕草を見せた。
「いや、そうなんだけれど、一応この考え方が間違っていないかも確認したかったし」
「それならまあ、納得するが・・・・・・まあ、とりあえず自然物に関しては、私ではなくコレットに聞くのが一番だろうな」
フローリアがそう答えると、考助はそれもそうかと頷いた。
考助は、元からそのつもりだったのだが、折角フローリアがくつろぎスペースで暇そうにしていたので、自分の考えを聞いて欲しかったのだ。
ひとりで悩んでいてもどうしようもないということは十分に理解しているので、相談に乗ってほしかったということもある。
お陰で、方向性は間違っていないということがわかった。
あとは、フローリアからも言われた通り、専門家に聞くのが一番だと考助はそんなことを考えるのであった。
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子供たちを学園に送り出したあと、管理層に遊びに来たコレットは、昼食時に早速考助から質問をされていた。
「――はあ。それで私に話を聞きたいわけね」
「そう。なにか知らないかな?」
「なにか、前もこんなやり取りしたことがあったような気もするけれど、そうそう簡単には・・・・・・」
思い付かないと答えようとしたコレットだったが、ふとなにかを思い出したかのような顔になって言葉をとめた。
その顔を見た考助とフローリアは、少し驚いた様子で同時に顔を見合わせた。
ふたりとも、いくらなんでもそんな簡単に答えが出てくるとは思っていなかったのだ。
考助とフローリアがこそこそと視線を交わし合っていると、コレットが少しむくれながらふたりを交互に見た。
「むう。なにをふたりで見つめ合っているのよ。しかも私をだしにしながら」
コレットから見れば、そう見えても仕方ないかも知れない。
そう考えた考助は、慌てて手を振った。
「いやゴメン。そういうわけじゃなくて、前にこの話をフローリアとしたときに、そんな簡単に見つかるはずがないって言っていたんだ」
「ああ、そういうこと」
考助の言い訳に、コレットはすぐに納得した顔になって頷いた。
元からそんなに怒っていたわけではないのだ。
そんなことよりも、今は考助から聞かれた自然物のことである。
「今更だけれど、いくつか心当たりがあるわね。といっても、詳しい場所までわかっているわけではないけれど」
「おおっ! さすがコレット!」
「褒めても名前くらいしか情報は出せないわよ?」
苦笑しながらそう念を押してきたコレットに、考助はコクコクと頷いていた。
そんな考助に、コレットは思い付いたいくつかの自然物の話をした。
その中で、考助が一番惹かれたのは、とある樹の存在だった。
「うーん。神樹か。確かに名前からして、役に立ちそうな気がする」
「神そのものが宿っているとか、神が宿ったことがあるとか色々言われているけれど、実際に見たことがある者はいない・・・・・・はずよ」
実際には、コレットは以前に神樹と呼ばれるものを見たことがあるが、それはこの世界の樹ではないので、見てないのとほとんど変わらない。
考助にもそのことを話してあるが、その後のことで記憶が塗り替えられているのか、すっかり忘れてしまっているようだった。
コレット自身も、この世界には関係がないことと、頭の中からすっかり忘れ去っていたのだ。
「確かに探し出すのは骨が折れそうだけれど、なにも情報がない状態よりは、遥かにましだね」
「そうだな」
考助の言葉に、フローリアが同意した。
なにしろ、考助たちには、よく当たる占い師という強い味方がいる。
コレットも、ここ最近ずっと一緒に行動することになっているその人物を頭に思い浮かべるのであった。
神樹の話は、10月発売予定の書籍版で出てきます。是非、そちらでご確認を。(宣伝w)
その話自体は、本編にはあまり関係していないので、こちらで先に出してしまいました。




