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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(14)セイヤとシアの能力(前)

 学園の廊下を歩いていたセイヤとシアは、ふと同時にその場で歩みをとめた。

「・・・・・・あれ?」

「あ、やっぱり兄さまも感じた?」

「まあ、あれだけはっきりと動けばな」

 そう言って頷くセイヤに、シアはやっぱりと続けた。


 その二人とは対照的に、前後に着いて来ていた友人たちは、首を傾げている。

「ねえ、シア。二人で分かり合ってないで、なにがあったのか話して」

「えー・・・・・・っと。口で説明するよりも、その場所に行ったほうが早いんじゃないかな?」

「そうだな」

 シアの言葉に、セイヤもその通りだと頷く。

 

 二人が口下手・・・・・・というほどではないにしろ、言葉での表現を若干苦手としていることは、友人たちもよくわかっている。

 特に、感覚的な出来事の場合は、上手く伝えられないのだ。

 今回もそれに該当すると察した周囲は、二人が歩き始めた方向に向かって着いて行くことになった。

 

 

 セイヤとシアが向かったのは、学園の施設のひとつとして用意されている訓練場だった。

 学園にある訓練場は、低学年の者が見学できるように、結界の外側から見ることが出来るようになっている。

「あー、いたいた」

 いくつかある訓練場を覗いていたセイヤは、ある訓練場の前で止まってシア以外の面々を見てそう言った。

 

 訓練場の中では、何人かの生徒が魔法の訓練をしているようだった。

 だが、訓練場を使って魔法の訓練をするだけなら、特に珍しい風景でもないので、友人たちは首を傾げていた。

「先輩たちのようだが・・・・・・これがどうかしたのか?」

 先ほどのセイヤとシアの反応と、この訓練場での訓練が結びつかなくて、意味が分からないのだ。

 

 そんな友人たちに、今度はシアが説明を加えた。

「あの訓練をしている人たちの中で、精霊使いがいるのよ」

「「「・・・・・・はい?」」」

 友人たちは、少しだけ間を空けてから今度は別の意味で首を傾げた。

 その顔は、不思議がっているというよりも、驚きのほうが強い。

 

 そういう反応が返って来るだろうとある程度予想していたセイヤが、少しだけ苦笑しながら続けた。

「流石にここまで近付けば皆も分かると思うけれど・・・・・・ああ、ほら。あそこの先輩だ」

 セイヤがそう言って示した方に、皆の視線が集まった。

 そこでは確かに、一人の先輩が精霊術らしきものを使っていることが確認できた。

「なかなかいい腕をしているみたいね」

「そうだなあ」

 シアの感想に、セイヤがのんびりと頷いていた。

 

 だが、周囲にいる友人たちはそれどころではない。

「いや、ちょっと待てって。お前ら、あんな場所からあの先輩が精霊術を使うところが分かったってのか!?」

 セイヤとシアを除く全員の感想だったが、あっさりと当人たちは頷いた。

「まあ、そうなんだけれど・・・・・・いや、微妙に言うと違うのかな?」

「そうよね。別に術自体を見抜いた・・・・・・わけではないかな?」

 なぜか後半は首を傾げながらそう言ってきたふたりに、友人たちはますます意味が分からなくなったような顔をした。

 

 一同揃ってどういうことだという顔をする友人たちに、セイヤとシアは顔を見合わせてから説明を続けた。

「だからなんというか、術そのものじゃなくて、動いている精霊の気配を感じたというか・・・・・・」

「術者の命令に従っている精霊たちは、独特の動きをするから・・・・・・」

 どうにかわかってもらおうと言葉を重ねるふたりに、何人かの友人が諦めたようにため息をついた。

「もう、わかったわ。これ以上細かく説明されても、私たちには分からないということが」

「そうね。とりあえず、いつものように精霊の気配を感じた。それでオーケー?」

 あまりにもざっくりとした結論だったが、先ほどよりはましな答えだったので、セイヤとシアは頷いた。

 

 

 エルフ(仮)であるセイヤとシアの精霊に対する感覚が、普通ではないことは既に友人たちは知っている。

 そのため、驚くことはあっても、それだけだった。

 以前は、そんなことがあるわけないじゃないかと突っかかって来る者もいたのだが、それは自然に淘汰されていってしまった。

 別にはなから疑ってかかって来るような相手との付き合いを、無理やりに続けるつもりが無いセイヤとシアから、勝手に離れて行ったのだ。

 ・・・・・・というのがセイヤとシアの認識だが、事実はふたりが近寄らなくなって、徐々に接点が無くなっているというのが本当の所である。

 現在残っている友人たちはそのことに気付いているが、今のままでも別にいいだろうと放置しているのだ。

 

 友人たちは、セイヤとシアの反応が気になっただけで、理由さえわかれば模擬戦自体はほとんどどうでも良かった。

 これが、学園でも有名な者たちによって行われている戦闘であれば、多少は興味を引いたのかもしれないが、そういうわけでもない。

 自然と「そろそろ戻ろうか」という声が上がるのは当然のことだった。

 

 だが、それを許さない者が、目の前に立つことになった。

「おい、ちょっと待てよ」

 そう言ってきたのは、セイヤたちとは少し離れた場所で、同じ模擬戦を見ていた者たちのひとりだった。

「なんでしょうか、先輩」

 こういったときは、セイヤとシアは前に出ずに、他に慣れた者が対応するというのがセイヤとシアのグループの暗黙の了解だった。

 一緒に行動するうちに、そうしたほうがいいと自然と身に付いていった行動様式である。

 

 物腰穏やかな友人が話しかければ、相手が突っかかって来ていても、大抵は収まってくれる。

 ところが、今回はそういうことにはならなかった。

「遠く離れた精霊の動きを感じた? なんでそんな嘘を聞かされて、お前らは納得しているんだ、馬鹿馬鹿しい」

「どうせ、まともに精霊術の講義も受けていないんだろうぜ」

 小ばかにしたように追随して来た別の男の言葉に、セイヤとシアたちは、困惑したような表情を浮かべた。

 

 セイヤとシアの学年では、既に精霊術の基礎は学んでいる。

 そのため、目の前にいる先輩たちが、自分たちを小ばかにするためにそう言っていることは理解していた。

 だが、そのことに怒りを覚えるよりも先に困惑が来ているのは、セイヤとシアのことを知らないというのが珍しかったからである。

 二人のことは、学園の中でも噂として広まっている。

 一番目立つ身体的特徴である長い耳も隠してはいないので、普通はすぐに理解されるはずなのだ。

 

 対応していた友人が、どう対応しようかと悩んでいるうちに、調子に乗ったふたりがそら見ろと言わんばかりにさらに言葉を重ねて来た。

 二人が言いたいことをまとめてみると、要するにエルフだからといって、精霊術に関してすべてを信じてどうするのかということだった。

 そのこと自体は別にいいのだが、一同にとって信じられなかったは、目の前の二人が、セイヤとシアのことを本当に知らなそうだとわかったことだ。

 セイヤとシアが学園に通い始めて既に三年が経っている。

 その間に、珍しいエルフの双子についての噂が、学園には広まり切っているというのが、友人たちにとっての常識だったのである。

 

 それらの反応が予想外だったのか、二人の先輩はますますいきり立つような顔になって、さらに続けようとした。

 ところが、今度は別の方向からまた別の声が聞こえて来た。

「何をしているんだ」

 そう言いながら新たに現れた人物を見て、セイヤとシアは、これは面倒なことになりそうだと内心で大きくため息をつくことになるのであった。

セイヤとシアは、上の兄弟とミクたちほど噂が浸透しているというわけではありません。

というよりも、他の兄弟が異常なだけで、二人も普通ではありえないほどに多くの学園生に知られています。


(後)で終わればいいな・・・・・・。

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