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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(6)狼たちの変化

 考助は、全ての始まりの地へと来ていた。

 ・・・・・・というと大げさだが、要するに、第七層の狼たちのいる拠点を訪ねていたのだ。

 ただし、始まりの地というのは、別に嘘でもなんでもない。

 第七層に灰色狼を召喚したのが初めての眷属であり、考助にとってはとても思い入れがある階層になっている。

 第七層は、第五層とはまた別の意味で、絶対に忘れることがない階層なのだ。

 

 そんな第七層を久しぶりに訪ねた考助は、いつも以上に狼たちの襲撃を受けていた。

「うわっぷ。ちょっ、ちょっと待って。そんなに勢いよく来られたら・・・・・・」

 その言葉を最後に、考助は狼たちに飲み込まれていった。

 流石のフローリアも唖然とした様子で、それを見ていた。

 

 そして、すぐにハッとしたフローリアは、隣に控えていたナナを見た。

「・・・・・・助けなくても大丈夫なのか?」

「ウオン!」

 この程度の事であれば、フローリアでも意味は分かる。

 なんの心配もないとわかったフローリアは、ホッと安堵のため息をついた。

 

 ナナからお墨付き(?)を貰って安心を得たフローリアは、幾分冷静に狼の山を見る。

 すると確かに、何やら殺気立っているようには見えるが、どことなく軽い調子も見て取れた。

 それを見る限りでは、確かに考助に甘えたいがために集まっていることが何となくわかった。

 

 それよりも、冷静になったフローリアは、今までとは少し様子が違う場面に気がついた。

「なあ、ナナ。あっちで遠巻きに見ているのはなんだ?」

 フローリアがそう言って見ていたのは、考助に戯れている狼たちを、少し引き気味に見ている別の狼の集団だった。

 同じ階層にいて大人しくしている以上は、眷属だということは分かるが、これまで無かった行動にフローリアが首を傾げた。

 

 フローリアの問いに、少し困ったようなナナの「ウオン」という答えが帰って来た。

 流石にそれが何といっているか、フローリアには詳しくはわからなかったが、それでも分かったことがある。

「いや、考助に何かするとは思っていないからな? 一緒に来ているミツキもそれはわかっているだろう?」

 フローリアが敢えてそう水を向けると、ミツキは言葉では返さずに、ただ頷いていた。

 もし、あの遠巻きに見ている狼たちが、少しでも敵意を向ければ、間違いなくミツキは動いているはずだ。

 というよりも、そもそもナナがそんなことを許さないだろう。

 

 そういう意味では安心して見ていられるのだが、やはり今までとは違うパターンに、戸惑うところはある。

 結局、ナナが何を言いたいのかフローリア(とミツキ)には分からないまま、考助が狼の山から脱出して来た。

「あー。えらい目に合った。んで? どうしたの、この微妙な空気」

 いつもと違った雰囲気に、考助が首を傾げながらそう聞くと、フローリアは視線だけで未だに遠巻きに見ている狼たちを示す。

「ああ、あれか」

「なんだ。考助はどういうことかわかっているのか?」

「それは、まあね。別に難しく考える必要はないよ。召喚陣から直接召喚された眷属じゃなくて、何世代か経っている眷属たちだよ、あれは」

 眷属たちは、自然交配によっても増えている。

 そのため、召喚陣から呼ばれた眷属を第一世代とすると、既に第三世代や第四世代まで生まれてきているのが現状だった。

 そうした眷属たちは、初めのうちはどちらかというと遠慮するように遠くから観察するように見てくるのだ。

 

 初めてそうした行動をした狼が出て来た時は考助も首を傾げていたが、そんな狼たちが増えて来て、今ではそれがわかっていた。

 ついでに、慣れてさえ来れば、第一世代の狼たちと変わらない行動をするようになる。

 その辺りは、普通のテイマーのしつけと変わらないのではないかと、考助は考えている。

 そもそも、第一世代が最初から懐いていることのほうが、普通で考えれば異常なのだ。

 まあ、召喚ということを考えれば、当たり前のことでもあるのだが。

 

 さらに付け加えると、世代を重ねた狼がすべてそういう行動を取るわけではなく、考助の感覚としては半々といったところだ。

 実際どうなのかは、名前などで詳しく識別しているわけではないので分からないが、大幅にずれているという事はないと考えている。

 ――なんてことを考助がフローリアに話すと、なぜか寂しい顔をしていった。

「そうか。変わらないと思っていた眷属たちも、少しずつ変わっていくのだな」

「うーん。どうだろう? 本質的にはあまり変わらないと思うよ?」

「なぜだ?」

 何か確信めいた顔をしてそう言った考助を見て、フローリアが首を傾げた。


 そのフローリアを見て、考助は笑いながらナナを指した。

「だって、ずっとナナが面倒を見続けるんだよ?」

 その説得力のある言葉に、フローリアはなるほどと笑った。

 確かに、ナナがいる限りは、フローリアが想像した悪い方向に進むことはないと確信できる。

 まあ、悪い方向に進むというのは、フローリアの杞憂でしかないのだろうが、それでもナナの存在はとてつもない安心材料だ。

 

 笑いを収めたフローリアは、ナナを見ながら考助に聞いた。

「そう言えば、以前から聞きたかったんだが、ナナの寿命はどうなっているんだ?」

 考助がこの場所に初めて眷属を召喚してから既に二十年近く経っている。

 残念だが、魔物との戦闘ではなく、寿命で亡くなっている個体も出ていた。

 残念ながらそれは、進化している個体や未進化の個体に関係なく起きている。

 

 ただし、ナナの場合は神獣となっていることから、通常の寿命ではないことは想像できる。

「さあ? エリスあたりに聞けば答えを教えてくれると思うけれど、どうかな? 少なくとも、フローリアやシルヴィアと同じくらいは生きられると思うけれど?」

「・・・・・・そうか」

 ハイヒューマンと同じ位は生きられると聞いたフローリアは、ホッと安心したようにため息をついた。

 

 それを見た考助は、少し不思議そうな顔になった。

「それがどうかした?」

「いや、何。私は、周りの人が先に逝くことは覚悟ができているが、ナナまでとなると少し想像ができなくてな」

 フローリアがそう返すと、考助はグッと言葉に詰まった。

 別に避けているわけではないが、進化をした時からそうした寿命の話は何となく避けていた。

 それでも、そろそろ真正面から向き合う時が来たのかもしれないと、そう考えてしまったのだ。

 

 その考助の顔を見て、思うところがあったのか、フローリアが慌てて手を振った。

「いや、すまん。別に自分の寿命がどうこうという事ではなくて、な」

 珍しく奥歯に物が挟まったような言い方をしてきたフローリアに、考助はピンと来た。

「僕の事だったら気にしなくていいよ。・・・・・・というのは無理かもしれないけれど、少なくとも神域に行けばいつでも会える存在はいくらでもいるんだから」

 考助が優し気にそう言うと、フローリアは少しだけ黙って「そうか」とだけ返すのであった。

狼たちの変化にかこつけて、そろそろ触れたくないけれど、触れておきたい話題に。

といったところでしょうか。

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