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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(5)飛龍の拡散計画

 久しぶりに考助は、コウヒとミツキの三人だけで空の散歩を楽しんでいた。

 勿論、魔法や魔道具を使っているわけではなく、飛龍のコーたちに乗っている。

 出発場所に選んだのは、天翼族の浮遊島だった。

 考助は、たまに塔の階層ではなく塔の外の空を飛龍で飛んでいて、以前のときと違って、いきなり訪問するのではなく、浮遊島から出発していた。

 塔の階層と外の空ではやはり何かが違うのか、コーは機嫌よく飛んでる。

 ただし、塔の階層の空を飛ぶのに不満があるというわけではなさそうだった。

 要は、いつもと違った雰囲気に、浮かれているというのが正しい表現なのかもしれない。

 さすがにそこまでの感情を読み取れるわけではないので、本当のところはわからないのだが。

 

 それはともかく、十分に空の散歩を楽しんだ考助たちは、飛龍を駆って、再び浮遊島へと戻った。

 ここならば発着場として良いという場所を用意してもらっているので、そこへ着陸させた。

 きちんとコーが地面(?)についてから、考助はゆっくりと降りる。

 本当はコウヒやミツキのように、ひらりと降りたいのだが、性分と能力が相まって、やりたくても出来ない。

 今でも考助の身体能力は、さほど高いわけではないのだ。

 

 そんな考助たちの所に、エイルが近寄って来た。

 コウヒとミツキが考助の傍に寄るまで、決して来ようとしなかったのは、きちんとふたりの役割をエイルが心得ているからである。

「お疲れ様でした。さすがですね」

「ただいま。でも、流石って?」

 考助はエイルの背中に生えている翼を見ながら首を傾げた。

 エイルに限らず天翼族は、空を飛ぼうと思えばいつでも飛べる。

 さほど珍しいことでもないと思ったのだ。

 

 そんな考助に、エイルはわずかに微笑しながら答えた。

「普通に考えれば、飛龍に騎乗しようと考える者は、おりません。それを、いとも簡単に操っているところが、さすがコウスケ様だと思ったのです」

 そう言われてようやく考助は、飛龍に騎乗することが非常識の部類に入ることを思い出していた。

 何しろ考助に近しい者たちは、飛龍に乗れることが普通になっている。

 そもそも飛龍に乗って、気軽にどこかに行こうとすることもないので、すっかりそのことを忘れていたのだ。

 

 考助は、テコテコと近寄って来たコーの顎辺りを撫でてあげながら、答えた。

「うーん。別にそんなに怖がることはないと思うんだけれどね」

 初めてコーと出会ったときのことをすっかり棚に上げて、考助は怖くないよと言わんばかりに撫で続けた。

「それは、相手がコウスケ様だからです。現に、コウヒ様やミツキ様は、そこまで懐いているようには見えませんよ?」

「それはまあ、そうなんだけれどね」

 考助は、エイルの言い分に同意して、一度は頷いた。

 

 ただ、考助が言いたかったのは、そのことではないので、さらに付け加えて言った。

「コウヒやミツキは勿論、他の人だって乗ることが出来ているんだから、エイルにだって出来ると思うよ?」

「そうでしょうか?」

「うん。間違いなくね。……でも、天翼族には必要ないかな?」

 そう言いながら首を傾げた考助に、エイルは笑みを浮かべながら返した。

「そんなことはございません。いくら私たちでも、ずっと飛んでいれば疲れるのです。飛龍に乗って空を移動できるのであれば、それに越したことはありません」

 状況にもよるが、例えば遠くに移動して戦う必要がある場合などは、やはり自前で飛んで行くよりも他の手段が取れるのであれば、そちらを選択する。

 自前で空を飛べるというのは、確かに有利な点ではあるが、体力を消耗するという点では、他の行動となんの違いもない。

 

 エイルの答えにそれもそうかと頷いた考助は、ふと思い出したように言った。

「いっそのこと、飛龍に乗れるようになってみる?」

「えっ!?」

「いや、折角だから、天翼族の人たちにも、何人か乗れるようになってもらえたらいいかなと。それに、もしこの島で管理してもらえるんだったら、あり難いし」

 考助はそう言いながら、以前なんとなく話をしていた眷属たちの塔外進出について思い出していた。

 浮遊島は特殊な環境ではあるが、塔の外の世界であるということには違いない。

 もし、天翼族が、浮遊島で飛龍を繁殖させることに成功すれば、その目的も達成できることになる。

 

 それこそ思い付きで言ったことだったが、考助はそれが最善ではないかと思いつつあった。

 そして、その考助の思い付きを聞いたエイルは、初めは唖然とした顔になりつつ、すぐに真顔になった。

「……よろしいのですか?」

「うん。構わないよ。むしろ、塔の外に連れて来たらどうなるのかも見てみたいし。あとは、自分以外が育てたらどうなるのかも」

 もし天翼族が飛龍の眷属を浮遊島内で繁殖させるとして、第一世代はそのまま島の中に残るという確信が考助にはある。

 だが、第二世代以降は、本当に懐いたままになるのか、試してみないと分からない。

 それは、狼たちを渡してあるレンカにも同じことが言える。

 

 ただし、それを行うためには、エイルたちが飛龍のいる階層に来て、きちんと懐かせないといけない。

「もし時間があるのであれば、今から一緒に塔に行って、連れてきてみる?」

「それは、是非お願いします!」

 考助の提案に、エイルは食いつき気味にそう答えた。

 本当に飛龍を得ることが出来るのであれば、天翼族にとってもメリットが多くある。

 単純に移動手段とするだけでも、飛龍は優秀な騎乗動物になるのだ。

 その提案に食いつかないはずがなかった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 エイルは、適当に時間が空いていそうな他の二人の天翼族を連れて来た。

 一応、飛龍との相性もあるので、まずはエイルを含めた三人で試そうというわけだ。

 結果としては、なんの問題もなくエイルたちは飛龍と交流することが出来ていた。

 あとは、それぞれが慣れていくように、何度も空を飛んで訓練していくだけである。

 飛龍の繁殖については、結果論でしかない。

 どの個体がつがいになるかなんてことは、流石の考助も前もって分かるわけではないのだ。

 

 飛龍に乗りながら空を飛んでいるエイルたちを見ながら、考助が誰に言うでもなく呟いた。

「上手くいってくれるかな?」

「さて、どうでしょうか」

「今のところは大丈夫みたいだけれどね。そもそも、生まれた子供を自由にさせてくれるかどうかは、それこそ懐き度次第だと思うわよ?」

 コウヒとミツキの言葉に、考助もその通りだと思って頷いた。

 飛龍と感情のやり取りができるようになるためには、それなりにコツがある。

 それを上手く伝えることが出来るかどうかも、今後の天翼族の課題となるだろう。

 流石に考助がすべての天翼族に教えるつもりはないし、エイルもそんなことは考えていない。

 

 天翼族が飛龍の繁殖させることが出来るかどうかは、これからもいくつも壁が出てくるだろう。

 それでも、天翼族なら何とかしてしまうのではないかと、考助は淡い期待を抱いていた。

 別にそれは、現人神としての直感というわけではない。

 そもそも天翼族は、ゴブリンを使うことを知っていたので、その経験からどうにかするのではと考えただけだ。

 もっとも、ゴブリンにしているように、あまりに厳しい態度に出れば、その分飛龍も反発してくる。

 そんなことにはならないように、考助としてもある程度は経過を見守り続けるつもりであった。

飛龍は天翼族にお任せ!

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