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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(2)ワンリの生活

今回は、超短編二本立てです。

 現在、塔の管理層に出入りしているメンバーで、忙しく動いているのが誰かといえば、間違いなくワンリがあげられるはずである。

 狐たちがいる階層の見回りから始まって、百合之神宮や狐の宿屋に出入りしている狐の管理、最近は落ち着いているが、考助の子供たちに着いている狐の管理など、多くの仕事を抱えている。

 勿論、全てをワンリが回しているわけではなく、それぞれに統括しているリーダー狐がいるのだが、それでもワンリが忙しく各所を見回っているのは事実である。

 そんなワンリが、久しぶりに管理層に顔を見せると、転移門の付近で膝を抱えて座っている者がいた。

「・・・・・・ソル? こんな所でどうしたのですか?」

「むっ。ワンリか。いや、ちょっと失敗をして反省中だ」

 同じ眷属仲間という事で、ワンリとソルは仲がいい。

 そのため、管理層にいる中では、ワンリは珍しくソルが敬語を使わない相手になっていた。

 

 膝を抱えているソルを見て、ワンリは小さく首を傾げた。

 ソルが失敗したと思っていることでも、大抵は大したことがないこともあるが、何となくそれらの時とは雰囲気が違っている気がしたのだ。

 これはちゃんと話を聞いたほうが良いかなと思ったワンリは、ソルのいる所に近付いて行った。

「失敗って、どんなの?」

「・・・・・・塩を買って来るべきところを、間違って砂糖を買ってきてしまったのだ」

 その答えを聞いたワンリは、内心で安堵のため息をついていた。

 第一印象ではもっと大きな失敗でもやらかしたかと考えていたのだが、大したことがないとわかって安心したのだ。

 

 ただし、砂糖があまり流通していないこの世界では、そもそもの値段がまったく違うので、どうして間違えたのかは不思議だった。

「なぜ、そんな間違いを?」

 ワンリがそう聞くと、ソルはわずかに間を空けてから答えた。

「・・・・・・玉子焼きに使うためと仰ってな」

「あー・・・・・・なるほど、ですね」

 ソルの答えを聞いたワンリは、納得顔で頷いた。

 

 管理層では、玉子焼きは、塩を入れて作るときと砂糖を入れるときの両方がある。

 考助は両方好みなので、そのときの気分によって変わって来るのだ。

 ところが、ソルの感覚では、玉子焼き=砂糖という図式が成り立っているので、迷わず砂糖を買ってきてしまったというわけだ。

 今回は、たまたま考助の気分でしょっぱいほうを食べたかったのだ。

 

 とはいえ、確かに砂糖を買ってきたソルは間違っているが、話を聞く限り全ての責任があるとは言えない。

「最初にきちんと確認しなかったソルも悪いと思いますが、お兄様もはっきりとは言っていなかったのですよね?」

「まあ、そうなのだがな。コウスケ様もそう仰って慰めてくれた・・・・・・」

「あれ? だったら、そこまで反省する必要はないのではありませんか?」

 ワンリが不思議そうにそう聞くと、ソルは緩く首を左右に振った。

「いや。この場合は、コウスケ様ではなく、私自身の欲望(?)に従ってしまったのが問題なのだ。コウスケ様の優しさに甘えるわけにはいかない」

 ソルがきっぱりとそう言い切るのを見て、ワンリは内心で「そうですかー」と考えていた。


 同時に、どうやらこのまま放っておいても大丈夫だと判断して、ワンリはその場を離れることにした。

「反省するのもいいですが、ほどほどにしておきましょうね。いくら見えないところでやっているとはいっても、何となくわかってしまうものですよ?」

「ああ、それはわかっている」

 反省することは大事だが、他人にとっては小さいことでいつまでも反省しっぱなしというのも、鬱陶しいものがある。

 そのことを良くわかっているソルは、そうワンリに答えながら頷いていた。

 それを見たワンリは、今度こそ転移部屋を出て、考助たちがいるはずのくつろぎスペースへと向かうのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 くつろぎスペースに入ったワンリは、部屋の中央でウゴウゴとうごめいている物を見て、首を傾げた。

「スーラ? ・・・・・・ではなさそうですね。また新しいスライムを飼うことにしたのでしょうか?」

「いや、あれは、どこからか入り込んだのか、いつの間にか管理層に住み着いていた奴だな」

 ワンリの呟きに答えたのは、すぐ後にくつろぎスペースに入って来たフローリアだった。

「フローリアお姉様。住み着いたって・・・・・・駆除はしないのですか?」

「うむ。そういう話も出たのだがな。スーラは良くて、あれが駄目なのかという意見が出てな」

 どこから出た意見であるのかは、フローリアの顔を見てワンリは悟ってしまった。

 何となく甘ったるい空気が漂っているのは、ワンリの気のせいではないだろう。

 

 そのことを指摘しても仕方ないので、ワンリは首を傾げてスライムを見た。

「それはわからなくはないですが・・・・・・増えすぎないのですか?」

「流石に増えすぎたときは駆除をするということになっているのだが、不思議なことに、今のところその気配は全くないな」

 まだ名もなきスライムは、管理層で見つかって以来、分裂をした様子をまったく見せていなかった。

 そのため、管理層の住人たちは、割とのんびりとそのスライムの動向を見守っているだけだった。

 

 スライムは、生活がある程度安定していれば、すぐにでも分裂をするものだと思っていたワンリは、目を瞬いた。

「そんなこともあるのですね」

「うむ。あるいは、スライムが分裂をするのは、種を残す本能のようなもので、完全に安定した環境では分裂しないのではないかという話も出ていたな」

「そうなのですか?」

「いや、流石にそれは考えすぎだと、私も思うがな」

 スライムは会話をすることが出来ないので、本当の所どうなのかは、誰も確認できていない。

 唯一確認できるとすれば、常に考助の傍にいるスーラくらいだろう。

 

 感心した様子で頷いているワンリに、フローリアがさらに続けて言った。

「私としては、スーラ辺りが隙を見て話をしたのではないかと疑っているがな」

「ああ、それはありそうですね」

 一番納得できそうな理由に、ワンリは納得の声を上げた。

 ほぼ完全に考助の意図を読み取っていると思われるスーラであれば、その程度のことは簡単にやってのけるだろう。

 管理層の中では、スーラは対スライムに関しては、万能だという説が流れていたりするのだ。

 

 事の真偽はわからないが、とにかく一匹のスライムが分裂せずに管理層に住み着いていることだけは確かである。

 特に害があるわけでもないので、管理層の中では動く観賞用の生き物として定着しつつあった。

 そんなスライムを見ながら、ふとワンリが思いついたように言った。

「・・・・・・もしかして、管理層の監視用として、スーラの分身だということはないですよね?」

 ワンリとしては、不意に思いついたことを言っただけだったが、フローリアは呻き声を上げた。

「・・・・・・考えられなくはない、な」

 そうだとすれば、スーラは思っている以上にいろんなことができて、さらに万能感が増すことになる。

 あり得ないことではなさそうだと思わせるところが、スーラにはあった。

 

 何となくそれ以上のことを追及すると、恐ろしい事実が判明しそうになったので、ワンリとフローリアはそれ以上は話さなかった。

 世の中には、放っておいたほうがいいことがあると、色々な意味で実感するワンリなのであった。

久しぶりにワンリが主役の回でした。

続いている話のようにしていますが、実際は日にちが違っています。


※甘い派、しょっぱい派を争わせるつもりはありません。

 ちなみに、私はどちらでも行ける派ですw

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