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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(14)ミクの思い

「ハハーン。なるほど。それで、珍しくむくれているわけだ」

 学園で起こった騒動の顛末を聞いた考助は、何度か頷きながら傍にいたミクを見た。

「・・・・・・別に、むくれてはいません」

 誰がどう見ても不機嫌です、という顔をしながら、ミクはプイと横を見た。

 自分で言っていて説得力が無いことは、良くわかっているのだ。

 

 そんなミクを見て、考助はクスリと笑った。

「そう? それならいいけれど。その話をしたのは、聞いてもらいたかっただけ?」

 考助が敢えてそう聞くと、ミクはわざとらしく頬を膨らませた。

「むう。お父様が意地悪です」

「ハハハ。ゴメンゴメン。でも、本当にミクが何を聞きたいのかはわからないよ?」

 ミクが何かを聞きたくて、自分に話をしに来たということはわかっている。

 だが、具体的なことがわからなければ、考助も答えようがない。

 

 考助の問いかけに、ミクはしばらく黙ってから、やがて口を開いた。

「・・・・・・やっぱり私は、お母様と同じようになるのは無理なのでしょうか?」

「うーん・・・・・・」

 ある意味で、思春期の子供らしい問いかけに、考助は考え込むような顔になった。

 本当であれば、まったく同じ人間になることは出来ないし、する必要もないと答えるのが正しいのだろう。

 ただし、それはミクが求めている答えではないということも、考助はわかっていた。

 

 ミクが小さいときからピーチを目指して頑張っていたことは、考助はよく知っている。

 勿論、その目指しているというものは、闇の者としての力のことだ。

 その目標が無ければ、ミクもここまでの成長をすることは出来なかっただろう。

 ピーチという高い目標があったからこそ、ミクはこれほどまでに成長することが出来ていた。

 だからこそ、安易に同じになる必要はないという答えは、すぐに出せなかったのだ。

 

 しばらく考えていた考助は、まっすぐにミクを見ながら聞いた。

「ミクはなぜ、ピーチと同じようになりたいと思っているの?」

「え、それは勿論、お母様がとっても素敵だから?」

 そこでなぜか首を傾げたミクに、考助は思わず吹き出してしまった。

「お父様、ひどい」

「ゴメンゴメン。でも、そこで疑問になるミクもおかしいよね?」

「・・・・・・むう。でも、言葉にするのは難しいです」

 ミクがピーチに抱いている気持ちは複雑で、言葉に出して表現するのはとても難しい。

 それをどうにか一言で表そうとしたのが「素敵」という言葉だったのだが、それだけでは無い気がしたので疑問形になってしまったのだ。

 

 厳しい顔になって考え込んでいるミクに、考助は笑いながら言った。

「うん。それでいいんだよ」

「え?」

「だって、人が受けている印象なんて、それぞれで違っているんだから」

 同じ人間であったとしても、それぞれの見る立場や環境によって、受ける印象はまったく異なっている。

 

 考助とミクから見たピーチの印象は、全然違うのだ。

 それを言葉で表現をして、他人にわかってもらおうというのは、非常に難しいだろう。

 これは、考助の個人的な感想であって、真理というわけではない。

「ああ、そうか。ミクの場合は、ストリープを演奏しているのが同じ人であっても、聞く人によって聞こえてくる印象は違うよね?」

 多少強引な理屈ではあるが、考助はそう言ってミクに理解させようとした。

 

 そのストリープの例えが良かったのか、ようやくミクは納得できたような顔になった。

「それはわかりましたが、それと私がお母様を目指すというのは、別のような?」

「それはそうだね。でも、今の話で分かることもあるよ?」

 考助がそう言うと、ミクはまた首を傾げた。

「ミクが頑張ってピーチと同じような人になるように目指したとしても、周りの人は同じだとは考えないってこと」

 ごく当たり前のことだが、その説明にミクはハッとしていた。

 

 そのミクの顔を見た考助は、ここが重要だという顔になってさらに続けた。

「だからね。ピーチと同じになることを目指すのではなくて、目指す方向を同じにすればいいと思うよ?」

 その説明は、言葉遊びのようだったが、今までの話で納得できたのか、自分の中に何かがストンと入り込んだような感覚をミクは受けていた。

「同じになるのではなく、方向性を揃える・・・・・・」

「そう。まあ、結局、今まで通りということになるんだけれどね」

 ミクはピーチの指導を受けて、闇の者としての技術を身につけている。

 それ自体が、既に考助が言った「同じ方向を目指す」という事に合致している。

 

 考助の言葉で、そのことに気付いたミクは、何かに気付いたような顔になった。

「お父様が言いたいことはとてもよくわかったのですが、結局それって、今までと同じということですね?」

 多少がっかりしたような顔になったミクに、考助は首を左右に振った。

「いや、そんなことはないよ?」

「・・・・・・どういうことですか?」

「だって、ミクは今までそのことに気付かないまま、言われるままに訓練をしていたんだよね? だったら、これからのミクは何をすればいい?」

 考助がそう問いかけると、ミクはジッと考え込むような顔になった。

 

 そして、少し経ってから、ミクは少しだけ硬い表情になって、考助を見た。

「・・・・・・私なりの成長先を見つけて、訓練をすること?」

 ミクが見つけだした答えに、考助は言葉では何も言わずに、ニコリとだけ笑った。

 今回の場合は、答えがひとつだったわけではない。

 考助にとっては、ミクが自分で考えて答えを見つけることが重要だったのである。

 

 考助のその笑顔を見たミクは、ホッと安心したようなため息をついた。

 自分でもいろいろと考えたうえで、最高ではなくても、最善の答えを言えたと考えている。

 そのため、顔や態度には出ていないが、ミクの中では気分が非常に高揚していた。

 その気持ちを表に出さないように苦労しながら、その後のミクは、取り留めない話を考助とするのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

「――というわけで、そんな話をしたのだけれど、余計なお節介だったかな?」

「いいえ、そんなことはありません。ありがとうございます~」

 ミクがいないところで、考助はピーチにミクと話したことを教えていた。

 ピーチにとっては、いずれは教えなければならないと思っていたことだが、それが一番いい形で収まったことに喜んでいた。

 出来れば、ピーチから言うのではなく、ミクが自分自身で気付いてほしかったのでこれまで教えていなかった。

 だからこそ、考助との話でミクが得たものは、とても大事なものになるだろうとピーチは確信していた。

 

 ミクのこれからについて考えを巡らせたピーチは、遠くを見るように目を細めながら言った。

「これから、ミクはまだまだ伸びる・・・・・・といいですね~」

「あら。そこは言い切らないんだ」

「人生は、なにが起こるかわかりませんから~」

 何やら真面目くさってそんなことを言ってきたピーチに、考助は少しだけ首を傾げた。

「妙に実感が伴っている気がするんだけれど?」

「それはそうですよ。実体験をもとに言っていますから~」

 ピーチはそう言いながら考助の胸を、人差し指でちょっとだけ押した。

 

 その仕草で何を言いたいのかを理解した考助は、苦笑しながら答えた。

「別に、狙っていたわけではないんだけれどね」

「コウスケさんは、それでいいのだと思いますよ~」

 何とも甘ったるい空気が両者の間に流れたが、この場には他に誰もいなかったので、砂糖を吐くような思いをしなくて済むのであった。

何となく久しぶりに書いてみたかったピーチとの××でしたw

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