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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(11)噂の元

 トワがミアからの報告を受けてから早三日。

 この日の夕食後、トワは息子であるトビからの報告を聞いていた。

 内容は勿論、学園内でのミクの噂についてだ。

「――なるほど。どこから結婚の話が混じったかは結局わからなかったということかな?」

 そう聞くトワの目は、優し気だった。

 普段、ラゼクアマミヤの国王としてではなく、あくまでもトビの父親として話を聞いているのだ。

 トビは普段、ダニエラを筆頭に、王太子としての厳しい教育を受けている。

 そのため、王であるトワは、優しく接しようと決めているのだ。

 最初からダニエラと話をして決めたわけではなく、自然とそうなっていた。

 ちなみに、トワの場合も、厳しい母親と優しい父親の両親の元に育っているが、あくまでも偶然である。

 

 トワに問われたトビは、コクリと頷いた。

「ハイ。勿論、学生全員に聞けたわけではないですが、何か別の噂と混ざって結婚という言葉が出て来た可能性はありそうです」

「うーん。そうか・・・・・・」

 そう言ったきり黙り込んでしまったトワを見て、トビは不安そうな顔になった。

「あの、何かあるのでしょうか?」

「いや、何かというか、ね。その別の噂って、どんな噂だった?」

「え?」

 そこを突っ込まれると思っていなかったトビは、少し慌てたように聞き返した。

 

 その様子を見てやっぱりと思ったトワは、少しまじめな顔になって言った。

「トビ。こういった話の調査の場合は、それだけを調べても意味がないよ? 噂というのは、伝言ゲームで伝わるうちに、大抵別の物と混ざってしまうことがほとんどだからね。その別の噂を辿ってみたら、意外な発見があるかもしれない。まあ、ないかも知れないけれど」

 最後にニコリと笑って言ったトワを見て、トビは少しだけ俯いてしまった。

 自分が中途半端な仕事をしてしまったと理解できたのだ。

「・・・・・・ごめんなさい」

 そう言って頭を下げたトビに、トワは少しだけ苦笑した。

 自分も過去に同じような経験をしたことを思い出したのだ。

 

 そして、トワはすぐに首を左右に振った。

「謝る必要はないよ。仕事っていうのは、失敗しながら覚えて行くものだからね」

 あっさりとそう言ってきたトワを見て、トビは少しだけ驚いたような顔になった。

「もしかして、父上も?」

「勿論だよ。何度もやらかして、そのたびにフローリア母上に叱られていたよ。・・・・・・ああ、その母上の言葉だけれどね――」

 そこまで言ったトワは、一拍置いてからまたすぐに話し始めた。

「失敗して覚えた仕事は、次回に同じことを繰り返さないことが大事なんだそうだ。私もその通りだと思うね」

 失敗してもかまわない、でも繰り返しは駄目だ、という言葉は、トワが何度もフローリアから聞かされていたものだった。

 まさか、自分も同じことを子供に言うとは思っていなかったトワだったが、やはり親から受けた教えというのは、身に沁み込んでいるものなのだろう、なんてことを考えていた。

 

 

 反省を促しつつ次の時には同じ失敗をしないように言ったトワは、トビが出て行った部屋の中で別の報告書を見ていた。

 こちらは、本職であるサキュバスたちが手に入れた情報をもとに作られているものだ。

 当たり前であるが、闇の者であるサキュバスは、ミク以外にも何人かの学生を学園に通わせている。

 社交界と同じように、学園で手に入れることができる情報は重要なものが多かったりするので、以前からその体制を維持しているのだ。

 

 その報告書を見終えたトワは、大きくため息をついた。

「やっぱりというべきか・・・・・・恋愛感情が絡むと面倒なことになりますねぇ」

 誰もいない部屋でそう呟いたトワは、少しの間考え込むような顔になっていた。

 そして、しばらくしてなにかを決断するような顔になったトワは、そのまま部屋を出ていくのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 トワが自室を出て向かった先は、ラゼクアマミヤ王国の討伐隊が普段執務を行っている場所だった。

 ラゼクアマミヤには、王家や貴族を守る親衛隊や町を守っている衛兵隊、それに普段は魔物を相手にしている討伐隊がある。

 その代わりに、国外の勢力から攻められることはほとんどないので、軍隊というものは存在していないのだ。

 討伐隊はいくつかの数があるが、そのうちの一つである二番隊長の元をトワは訪ねていた。

 

 いかに討伐隊の隊長といえども、国王であるトワと直接話す機会などほとんどない。

 そんな相手が、いきなり訪ねて来たのだから二番隊長であるカルタスは、泡食ってトワを出迎えていた。

 カルタスは、いかにも実直といった見た目の通りに、着実に仕事をこなしていくと部下にも慕われている。

「・・・・・・それで、突然いかがなさいましたか?」

「いえ。少し貴方の息子のことで話がありまして」

「息子・・・・・・というと?」

 カルタスには息子が三人いる。

 三人ともにトワと直接関わるようなことはなかったはずなので、カルタスが首を傾げるのは当然といえるだろう。

 

 

 不思議そうな表情を浮かべているカルタスに、トワが報告書を持ちながら今回の件について話をし始めた。

 すると、最初は戸惑っていたカルタスの顔が、途中で段々と青くなっていき、最後には白くなるところまで変わっていた。

 そして最後までトワの話を聞いたカルタスは、恐る恐る問いかけて来た。

「あ、あの・・・・・・このせいで神の怒りを買うなんてことは・・・・・・」

「ああ、それは大丈夫ですよ。あくまでも対象になっているのは、ミクであって、現人神そのものではないですから」

 トワがそう答えると、カルタスはあからさまに安堵の表情を浮かべていた。

 

 そのカルタスに、トワは釘を刺すように言った。

「ですが、これだけの騒ぎを起こしてしまえば、やはり何もしないでおくというのは無理なのですよ」

「それは当然です。あのバカ息子には、厳しく言い聞かせておきますので・・・・・・」

「それなんですが、少し提案があるのですよ」

「提案?」

 いきなり何を言い出すのかと、カルタスは首を傾げて問いかけた。

 

 トワが提案した内容は、すぐにカルタスに受け入れてもらえた。

 どんな厳しい罰を与えればいいのかと考えていたカルタスにとっては、トワの提案は渡りに船だったのだ。

 内容的には甘くはなく、むしろ厳しい罰となっているのだが、それをあっさりと受け入れたカルタスを見て、トワはやはり噂通りの人物だったなと思いつつ、カルタスの部屋を後にするのであった。

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