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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(4)教育方針

 セイヤとシアからの報告に、ピーチが何度か頷いた。

「そうですかー。そういうことでしたら、ミアにもきちんと伝えておいてくださいね~」

 あっさりとそう言ってきたピーチに、セイヤが恐る恐る聞いた。

「あ、あの……。よかった、のかな?」

「ええっと? どういうことでしょう~?」

 本気で首を傾げているらしいピーチに、今度はシアが付け加えるように聞いた。

「私たちからミクの実力について話をすることになってしまったこと」

「ああ、そういうことでしたら、前も言った通り、問題ありませんよ~」

 相変わらずの調子でそう言ったピーチを見ながら、セイヤとシアは安堵のため息をついた。

 一応、事前の了承をもらっていたとはいえ、タイミングに関しては完全に独自の判断だった。

 それが適切だったかどうかが、多少なりとも不安があったのだ。

 

 そんなふたりの様子を見て、母であるコレットが、小さくため息をつきながら言った。

「貴方たちもそろそろ成人が近いんだから、きちんと自分たちが考えることをしなさい。・・・・・・まったく。トワたちだったら、貴方たちの今の年齢で、すぐにピーチの意図に気付いていたわよ?」

 子供時代は、やたらめったら他者と比べることは厳禁だったりするのだが、コレットは敢えてそう挑発をした。

 それは、こんなことを言っても大丈夫だという信頼に基づいている。


 そして、セイヤとシアは、コレットのその信頼に見事に応えることとなる。

「それは、どういうことでしょうか、母さま?」

 トワたちに対して、嫉妬をするでもなく、盲目的に尊敬するでもなく、ただ冷静に状況を分析しようとするそのセイヤの目に、コレットは密かに合格点を出した。

 隣に座っているシアも同じような顔をしているので、同じ評価を与えている。

 

 内心でそんなことを考えつつも、コレットは我が子たちを見ながら問いかけた。

「どうもこうも、そもそもなぜピーチは、ミクの実力のことを周囲に話していいと言ったと思う?」

 そのコレットの質問に、セイヤとシアは少しだけ黙り込んだ。

「・・・・・・もともとばれていいと考えていた?」

「ううん。既に、ばれているはずだと考えていた」

「それだったら黙っているよりも、こちらから話をしたほうがいいと・・・・・・?」

「でも、それはなぜ?」

「最初からばれているというのは、すでにミクの情報が知れ渡っているから。でも・・・・・・」

「それなら、ミクのストリープの実力が知れ渡っていなかったことはおかしい」

「つまり知っているのは、一部だけ、でもそれは逆に、ミクにとっては危ないと考えた?」

「全部に知らせるメリットは・・・・・・?」


 次々に繰り返される双子のやり取りを、コレットとピーチは黙って見ていた。

 セイヤとシアは、これまで何度も同じようなことをしているので、二人にとっては驚くようなことではないのだ。

 そんなことよりも、コレットとピーチにとっては、セイヤとシアがきちんと正解に辿り着けるかどうかのほうが重要だ。

 

「実力を知らせる方が、ミクの身を守ることになると考えた・・・・・・?」

「それは、なぜ? それだったら最初からそうしたほうがいい」

「学園祭がきっかけ・・・・・・?」

「それだけじゃない・・・・・・はず?」

 自信なさげに最後にシアがそう言ったところで、二人のやり取りはピタリと止まった。

 それが、考えがまとまったというわけではなく、行き詰ったからというのは、セイヤとシアの顔を見れば分かる。

 

 再び黙って悩み始めたセイヤとシアに、このくらいで十分かと助言を出すことにした。

「ふたりとも、さっきから大事なことを忘れていない?」

「大事なこと・・・・・・?」

「なに、それ?」

 揃って首を傾げるセイヤとシアに、コレットはどう教えたものかと少しだけ考えてから続けた。

「この場合、ミク個人の事だけを考えても仕方ないわよ?」

 コレットがそう言うと、セイヤとシアはまた考え込むような顔になった。

 

 とはいえ、今回はさほど時間を掛けずに二人は答えを導き出した。

「ミクだけに関わらないとなると、やっぱりピーチ母さまのこと、かな?」

「ということは、やっぱりサキュバスのことだと思うけれど・・・・・・なんで今更?」

 考助の嫁のひとりであるピーチがサキュバスであることは、既に公然の秘密となっている。

 実際にはサキュバスではなくさらに上位種になるのだが、それはいまは問題ではない。

 

 母親であるピーチがサキュバスという事は、当然ミクがその血を引いていることはすぐに分かることだ。

 ついでに、アマミヤの塔にサキュバスがいて裏の仕事をしていることも、その方面では知れ渡っている。

 そのことをセイヤとシアは、コレットやピーチからきちんと教えられていた。

 だからこそ、そのことが問題になるとは全く考えていなかったのだ。

 

 

 セイヤとシアが、揃って「ううーん」と首をひねっていたところで、ガチャリという音が聞こえて来た。

「ただいま」

 そう言いながらリビングに入ってきたのは、話題の中心であるミクだった。

 だが、そのミクは、部屋に入るなりその空気が微妙なものになっていることに気がついた。

 それでも、内心で首を傾げながらミクは、いつものようにセイヤとシアがいる所に近付いて行った。

 

 そんなミクに対して、いきなりシアが立ち上がって、

「ミク、助けて!」

 いきなりそう言ってきたシアに、ミクは目を白黒させた。

「ええと・・・・・・? いきなりすぎて、話が見えないのですが?」

 そのごく当たり前の返答に、コレットが苦笑しながらセイヤとシアを見た。

「こらこら。いきなり本人に答えを求めてどうするのよ?」

「ちぇっ」

「天の助けだと思ったのに・・・・・・」

 元から答えが得られるとは思っていなかったが、セイヤもシアもわざとらしくそう言って天を仰ぐのであった。

 

 

 セイヤとシアが悩んでいる間に、ミクがコレットとピーチからこれまでの話を聞いて頷いていた。

「なるほど、そういうわけですか」

 コクコクと頷いているミクだったが、ふと真顔になって言った。

「ですが、この答えをセイヤお兄様とシアお姉様が見つけるのは、少し難しいのでは?」

「あら、やっぱりそう思う?」

 ミクの言葉に、コレットが少しだけ渋い顔をしながらそう聞いて来た。

 コレットも少し前からそうではないかと思っていたのだ。

 

「はい。お兄様もお姉様も、エルフの里で育ったので、人の常識からは少し外れていますから」

 それだけ聞くとエルフが世間知らずと言っているようなものだが、コレットもそれを否定することはなかった。

 エルフの常識が外の世界と比べて外れていることは、実感として理解しているのだ。

「お兄様もお姉様も、学園に通って三年目になりますからだいぶましになっていますが、まだまだ策略に関しては・・・・・・」

 そう言いながら言葉を濁したミクに、コレットは大きくため息をついた。

 ミクの言葉は、まったくもって事実であり、否定することができないと判断したのである。

 いっそのこと学園でそうしたことを教えてくれればいいのにとも考えたが、流石にそこまで求めるのは酷だ。

 それに、貴族のような面倒なやり取りは、教科書から学ぶのではなく、自然に身に着けていくものなのだ。

 

 そろそろ頭から湯気が出てきそうな顔になっているセイヤとシアを見ながら、コレットはこれから先の教育をどうしようかと少し頭を悩ませることになるのであった。

果たして、ミクの実力を公表することになった理由とは!?


・・・・・・煽ってみましたが、大した理由ではありません。

詳しくは次話で。

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