(3)ミクの場合
とある日の昼時。
セイヤとシアは、昼食を取る前に、別のクラスの男子生徒に呼ばれていた。
その様子を、クラスメイトの一部が見ていたのだが、何故だかその男子生徒は最後には肩を落として教室前から去っていた。
教室内に戻って来たセイヤとシアは、揃って何やら微妙な顔になっている。
その二人を、何人かのクラスメイトが不思議そうな顔をして見た。
「どうしたの? なんか二人とも変な顔になっているわよ?」
「だな。またシアが、告白でもされたのか?」
「あ~。いつも一緒のお兄ちゃんの許可を取って、ということ? 新しいパターンね」
何やらしたり顔で頷いているクラスメイト達に、セイヤとシアは慌てて首を振って見せた。
「「いやいや、違うから」」
声を揃えて反論したセイヤとシアに、周りの者たちは相変わらずだなと多少呆れた顔になった。
セイヤとシアが同調するのはいつもの事なので、女子生徒のひとりがすぐに復活して聞いて来た。
「それで? あの男子はなんの用事だったの? 同学年みたいだったけれど」
「あ~、うん」
女子生徒の問いに、シアがもう一度微妙な顔になる。
「告白は告白だったんだけれどな」
セイヤも同じ顔になってそう言うと、向かいにいた男子生徒が恐れおののいた顔になった。
「ま、まさか、シアにじゃなく、セイヤに、だったのか!?」
男子生徒がそう言うと、ほかの男子共が同じような恐れたような顔になる。
シアには、一部の女子生徒が目を輝かせているように見えたが、それは見なかったことにしておいた。
その反応を見て、セイヤが呆れたような顔になって否定した。
「違うから。どこをどう考えれば、そんな発想が出てくるかな?」
「じゃあなんだよ」
少し拗ねたようにそう言ってきた男子生徒に、セイヤがため息をついた。
「告白は告白でも、俺たちにじゃないから」
「「「「「・・・・・・あ~」」」」」
セイヤがそう言うと、ほかのクラスメイト達は、一瞬間を空けてから納得したような顔になった。
ひとしきり納得した女子生徒が、シアを見ながら確認するように聞いて来た。
「例の演奏からはもうだいぶ経っているのに、まだあるんだねえ」
「・・・・・・むしろ、減った分、想いが濃くなっている気がするわ」
「だな。俺もそう思う」
シアの言葉に、セイヤが付け加えるようにして頷いた。
例の男子生徒は、シア(やセイヤ)に告白をしに来たのではなく、ミクとの繋がりを求めて会いに来たのだ。
いきなり学年が違っているところに押しかけるよりも、同学年のセイヤとシアを訊ねた方が、渡りがつけやすいと考えてのことだ。
勿論、セイヤもシアも、速攻で断っている。
実は、学園祭以降、こうした申し出は、圧倒的に増えていた。
ミク本人に対してだけではなく、セイヤとシアに対しても、だ。
特に学園祭直後は頻発していたのだが、揃って断り続けていた成果があってか、徐々にその数は減っていた。
だが、未だにこうして、セイヤとシアに対して間接的に繋がりを求めてくる者がいるのである。
揃ってため息をついているセイヤとシアに、女子生徒が苦笑しながら言ってきた。
「まあ、あんな演奏を聞かされてしまえば、ねえ・・・・・・。むしろ、よくこの程度で済んでいると思うわ」
この女子生徒は、たまたま講堂に席が取れていて、ばっちりミクの演奏を直接聞くことが出来ていた。
あの時のことを考えれば、未だに勢いが衰えないどころか、むしろ増えているというのは納得できることではある。
勿論、ミクのことをこの中では誰よりもわかっているセイヤとシアも、そのことを否定するつもりはない。
「それはわかっているんだけれどね」
「・・・・・・相手がミクだと考えると、むしろ近寄っていく男が可哀想に思えて来て、な」
何とも微妙な顔でそう言ったセイヤとシアに、話を聞いていたほかの面々が不思議そうな顔になった。
「可哀想?」
そう言葉を出したのは女子生徒一人だったが、セイヤとシアを除いたほかの面々も女子生徒と同じような顔をしている。
それを確認したセイヤとシアは、顔を見合わせた。
そして、少しの間そのままでいた二人は、同時に頷いた。
「あ~、一応皆に言っておくけれど、ミクはやめておいた方が良いぞ?」
「兄姉である自分たちが言うのもどうかと思うけれどねえ・・・・・・。ミクはねえ・・・・・・」
セイヤに同調するように、シアが何度も頷きを繰り返しながらそう言った。
なにやら含みを持たせて言ったセイヤとシアを見て、同級生たちは意味が分からずに顔を見合わせていた。
「いや、それってどういうこと?」
「美人で性格も文句なし、あんな誰にもできないような演奏もできる」
「何が問題?」
外側から見ればもっともな疑問なのだが、ほぼ同じ時を過ごしてきたセイヤとシアには別の言い分がある。
一度だけため息をついたセイヤは、ぐるりとクラスメイトを見回して彼らの疑問に答えた。
「一番分かり易く言えば、ミクはストリープ馬鹿だ」
セイヤの言葉を引き継ぐように、シアが続ける。
「朝から晩までストリープ、ストリープ、ストリープ。時間さえあれば、ストリープ」
「学園に来る前はほかにもやっていることはあったけれど、今は休日以外はずっとストリープ」
「たまにある休日は、将来のためにと訓練、訓練」
「「そんなミクと付き合いたいと思う?」」
ピタリと揃って問われたクラスメイト達は、少しだけ間を空けてから首を左右に振り始めた。
少し時間が経って、女子生徒のひとりがシアに問いかけた。
「でも、訓練て、なんの? 二人みたいに精霊術?」
「あ~、いや、それは違うな」
「ミクに短剣持たせたら、私たちだと、まったく歯が立たないわよ?」
さらにもたらされた情報に、再びクラスメイトたちが固まった。
ちなみに、セイヤとシアは、精霊術さえ使えば、クラスの中では無敵と言われている。
そんなふたりが、一見しておっとりとした美少女であるミクに勝てないと言われても、嘘だと思うのは当然だった。
何とかフリーズから回復した男子生徒がセイヤを見た。
「なんの冗談だ?」
「いや、本当に冗談だったらいいんだけれどな。残念ながら本当の事だ」
「あの顔と体型で強いんだから、詐欺も良い所よね」
しみじみとした表情で語られた内容に、クラスメイトたちは、本当の事だと理解できた。
といっても、今まで持っていたイメージとのギャップがあまりにも強すぎて、顔を引きつらせることしかできていなかった。
それでもどうにか立ち直った女子生徒が、気遣わしげな様子でセイヤとシアを見た。
「えーと、そんなこと、私たちに言っても良かったの? 戦闘技術があることは隠しているんじゃ?」
「いや、そんなことはないよ?」
「そうね。別に隠しているわけではないけれど、あの容姿と性格で、わざわざ戦いを挑む人もいないでしょうからね」
基本的に戦闘力は、誰かと戦って初めてわかる。
そのため、戦闘力があるとまったく思われていないミクは、たとえ授業中であってもその実力を披露する機会はほとんどなかった。
今はまだ二学年で、実戦授業が少ないことも、それに拍車をかけていた。
「まあ、そういうわけだから、実力でどうにかする、というのも無理だと思うよ?」
「そうね。あともう一つ、大問題があるわね」
シアが重々しい表情でそう付け加えると、もうこれ以上は勘弁してと思いつつ、女子生徒が恐る恐る聞いた。
「大問題?」
「・・・・・・ミクは、私以上のお父さんっ子よ?」
シアがそう宣言すると、そこかしこから「あ~」という声が聞こえてくるのであった。
最後に「あ~」と言わせるためだけに、長々と続けてみました。
まあ、最後の台詞は、皆様も納得できたのではないでしょうか?w




