(1)セイヤの状況
※ここから第13部第5章になります。
学園の講義が終わって、自宅に帰ろうとしていたセイヤは、前方を妹が歩いているところを見つけた。
時間的にも方角的にも、同じように帰ろうとしていることが分かったので、話しかけることにした。
「ミク、今帰り?」
背後から話しかけて、姿は見られていなかったはずなのだが、ミクは驚いた様子もなく振り返って頷いて来た。
「はい。そうなんですが・・・・・・」
「?」
「シアお姉様はどうしたのでしょう?」
ミクからそう聞かれたセイヤは、思わず苦笑を返した。
学園に入学したときから常にシアと一緒に行動をしていたセイヤは、少しでも離れて行動すると周りから不思議そうな視線を向けられる。
そのことはきちんと気付いていたし、実際に大体シアと一緒に行動しているので間違ってはいないのだから、文句を言うつもりはない。
だが、ミクにまで同じようなことを言われるとは思っていなかった。
「前に、シアは友達と一緒に趣味活動をするようになったって、言ったじゃないか」
「あっ、そう言えばそうでした」
セイヤの言葉に、ミクはポンと両手を打った。
確かに、シアがそんな話を夕食時にしていた覚えがある。
ミクがそのことをすっかり忘れて聞いたのは、あまりにもセイヤとシアが一緒に行動している時間が長いからである。
むしろ、学園の生徒たちよりも、家族であるミクのほうが、そのイメージが強い。
そのため、先ほどの質問へと繋がるのだ。
ミクの仕草に、更に苦笑を深くしたセイヤだったが、それ以上突っ込むのはやめておいた。
下手に話を続けても、藪蛇にしかならないことは、経験上よくわかっているのだ。
「それで、話を戻すけれど、一緒に帰ろうか」
「はい。それは勿論かまわないのですが・・・・・・」
少し言い淀んで自分を見て来たミクに、セイヤは首を傾げた。
それを見たミクは首を左右に振った。
すぐに思いついた言葉は、胸の中に閉まっておく。
(セイヤお兄様と一緒に帰ると、いろいろと面倒に巻き込まれそうですが、まあ、たまにはいいでしょう)
と、やや上から目線の考えを持っていたが、それを口にすることはしない。
そんな言葉をわざわざ言葉にして敵を作るつもりはないし、何よりも事実であることには間違いない。
そんなことを考えていたミクは、そっと周囲の気配を確認してみた。
(・・・・・・最低でも四~五人くらいはいるでしょうか。さすが、セイヤお兄様です)
セイヤとミクが連れ立って歩いているのに合わせて、それくらいの者たちが、様子を窺うようについて来ている。
その者たちは、以前のような危険な輩というわけではなく、間違いなく学園の女子生徒だ。
なぜ、ついて来ているかといえば、勿論セイヤの後について来ているのだ。
セイヤの隣を歩いていたミクは、そっと兄の顔を盗み見た。
美貌のエルフであるコレットの血を引いたセイヤは、上流階級の者たちが集まっていると言われている学園の中でも、はっきりと美形といえる容姿をしている。
学園に入学したころの人を寄せ付けないような雰囲気をしているならともかく、それなりに人付き合いを覚えて来た現在のセイヤは、異性からの人気も出ているのだ。
今、セイヤの後をついてきている女子生徒は、あわよくばお近づきになりたいという願望(欲望?)を持っている乙女たちなのである。
ミクが少し悩むような表情になっていることに気が付いたセイヤは、少し声を落として聞いた。
「――何かあった?」
「ああ、いいえ。なんでもありませんよ」
ミクのその答えに、セイヤはジッと見返した。
その顔には、嘘は許さないと書いてある。
それに気付いたミクは、少しだけ苦笑を見せながら首を左右に振った。
「本当に何でもないのですよ。少しだけ、あの方たちについてのことを考えていただけです」
ミクは、そう言いながらストー・・・・・・もとい、ついて来ている女子生徒のひとりに視線を向けた。
その視線の意味に気付いたセイヤは、そちらの方を見ないように気を付けながら、なるほどと頷いた。
「シアと一緒にいるときにはそうでもないんだけれどね。ひとりになると、どうしてもね」
そのセイヤの答えを聞いたミクは、きちんと気付いていたのかと納得すると同時に、あることに気が付いた。
セイヤと同じように、ミクは母親の容姿を深く引き継いでいる。
それが、今回のような場合にはとても役に立つのだ。
「お兄様。私を虫よけにするつもりでしたね?」
ジト目を向けてそう言ったミクに、セイヤは否定せずに曖昧な笑みを浮かべた。
その表情がすべてを物語っている。
セイヤの顔を見てため息をついたミクは、一度頷きながら言った。
「仕方ありません。八鳳亭のクッキーで我慢します」
「ちょっ!? 八鳳亭って、どう考えても無理じゃないかな!?」
ミクの出してきた条件に、セイヤは慌てた様子でそう答えた。
八鳳亭は超人気店で、その中でもクッキーは、すぐに売り切れてしまうことで有名だ。
学生であるセイヤが、そうそう簡単に手に入れることができるようなものではない。
そのことが分かっていてあえてその名前を出したミクは、わざとらしくもう一度ため息をついてから譲歩する条件を出した。
「わがままですね、お兄様は。それでは、ミツキ様のクッキーで」
「・・・・・・よりハードルが上がった気がするんだけれど?」
「気のせいですよ、きっと」
お澄まし顔でそう言ってきたミクに、セイヤは盛大なため息をついて見せた。
「仕方ないなあ。今度、父さま経由で頼んでみるよ」
「流石セイヤお兄様です」
そう言いながら笑って頷くミクを見て、セイヤは随分としたたかになったなあと思うのだが、すぐに心の中でそれを否定するのであった。
考えてみれば、昔からこうだったかもしれない、と。
いつもよりも短いですが、きりがいいので今話はこの辺で。
次話は、「シアの状況」かな?




