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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(10)選択

 町に入った考助たちは、テイマーギルドでスピードモールの討伐証明部位を渡して依頼の処理を行った。

 スピードモールは、特に現金に換えられるところがないので、余計に狩った分は余計な仕事となる。

 もっとも、狼たちにとってのストレス発散にはなっているので、完全に無駄だったというわけではないのだが。

 付け加えれば、クラウンに持って行っても二束三文でしか買い取ってもらえないため、アイテムボックスに死蔵することになる。

 現地に置いてこずにわざわざ持っていているのは、貧乏性なきらいがある考助が、研究のためにと保管しているのだ。

 シルヴィアもフローリアもそのことには既に慣れているので、特になにも言ってこない。

 それどころか、考助と同じように何かに使えるのではないかと考えている始末だ。

 二人とも、考助と出会う前はそんなことを考えたこともなかったので、間違いなく考助の影響である。

 

 それはともかく、考助たちは翌日の午前中には、再び孤児院を訪ねた。

 用件は、勿論昨日のうちに思いついた内容を話すためである。

 そして、考助から話を聞いた孤児院長は、目をパチクリとさせてからしばらく固まっていた。

「――――――――はい?」

 長いこと孤児院長をやっているが、こんなことを提案されたのは初めてだった。

 そのため、思わず思考が停止してしまったのである。

 

 孤児院長の様子に気付いていながら、考助は何の気なしに話を続けた。

「ゼロが優秀・・・・・・かどうかは、一目見ただけではわかりません。ですので、少しずつこちらから課題を与えながら、育てて行こうかと思います」

「うむ。指導はこちらで行うが、衣食住に関しては、今まで通りこちらで面倒を見てもらいたい」

「勿論、きちんと見極めが出来るまでは、こちらに寄付という形で援助をするつもりでいます」

 考助に続いてフローリアがそう言い、さらにシルヴィアが補足するようにそう続けた。

 

 考助たちの再度の説明に、孤児院長は少し慌てた様子で言った。

「それは、要するに、ゼロのための職業訓練をそちらで行ってくれるというわけですか? しかも、寄付を頂いたうえで?」

 そんなわけがないだろうな、という顔で言った孤児院長に、考助は虚を衝かれた顔になった。

「ああ、なるほど。確かにそういう見方もできますね。こちらとしては、あくまでも今までの生活の延長のほうがいいと考えていただけなのですが」

 考助たちにとっては、いきなり一人の子供を預かるよりも、寄付を払って今まで通りの生活をさせた方がいい。

 勿論、これからいろいろな課題を与えることになるので、昨日までのような小遣い稼ぎができる時間は減るだろう。

 だが、それはあくまでもゼロが選ぶべき問題であって、考助はあくまでも提案をする側である。

 それを受け入れるかどうかは、孤児院長と本人ゼロの問題なのだ。

 

 何とかいつもの調子を取り戻しつつあった孤児院長は、少し首を左右に振ってから返答した。

「流石に、前例がない提案なので色々と検討してみないといけません。規則としては問題ないと思いますが・・・・・・。それに、本人の意思も確認しなくては」

「それはそうでしょうね」

 孤児院長の言葉に、考助も同意するように頷いた。

 考助は、自分の提案がいきなり受け入れられるとは考えていない。

 前回会ったときと同様に、何度か顔を合わせて信頼を得てからでないといけない。

 こうして提案だけしに来ているのも、そのための一環である。

 

 考助の顔からそのことが分かったのか、孤児院長は小さくため息をついた。

「・・・・・・あなたはどうされたいのですか?」

「はい?」

 問われた意味が分からずに、考助は小さく首を傾げる。

「どうもこうも、こちらからの提案は既に済ませています。あとは、そちら側の判断だと思いますが?」

 そう言った考助に、孤児院長は首を左右に振る。

「そういう事ではないです。あなたは、いえ、あなた方は、ゼロの将来をどうしたいと考えているのでしょうか?」

 

 孤児を引き取りに来る者は、それぞれ事情があるが、そのほとんどは目的が決まっている。

 たとえば、子のない夫婦が引き取りに来たり、単純に労働力として引き取ったりなどだ。

 それは、はっきりと引き取った孤児の将来を決めてしまう行為である。

 ところが、今回の考助の提案は、あくまでもゼロの選択を重要視している。

 それは、子供ゼロの為ともいえるのだが、見ようによっては、子供の将来に責任を負わない無責任な提案ともいえる。

 それこそ子供たちの将来を背負っている孤児院長が、考助に対して僅かなりとも不信感を抱くのは当然と言えた。

 

 そのことが分かったからこそ、考助は困ったような顔になった。

 考助の感覚では、自分の道は自分で決めるという感覚が染みついている。

 それは、子供(特に長男)の仕事は親が用意するということとは、相反するような考え方だ。

 既に成人近い自分の子供を片手に余るほど見て来た考助だからこそ、その感覚のずれはよくわかっている。

 

 そして、そのずれがわかっているのは、何も考助だけではない。

 だからこそ、孤児院長と同じ巫女であるシルヴィアが、補足するように付け加えて言った。

「孤児院長、何も私たちは、無責任にもゼロ君を放り出すつもりはありません。あくまでも、選択の余地を残してあげたいと考えているだけです」

「選択・・・・・・」

「そうです。今回私たちは、ゼロ君に研究者という道を提案しました。ですが、成人に近付けば、冒険をしたいと考えるようになるかもしれません。あるいは、ギルドの職員という道もあるでしょう。それを最初から縛って決めてしまうのではなく、複数の道を用意しておくのも大人としての責任ではありませんか?」

 そのシルヴィアの説明に、孤児院長は虚を衝かれたように、両目を見開いた。

 その顔には、そんなことは考えたこともなかったと書いてある。

 

 孤児院長の驚きを理解できたシルヴィアは、一度頷いてから続けた。

「研究者としての適性があるならそれも良し、無いのであれば、今まで通りの生活に戻って、将来を考え直せばいいのです」

「適性・・・・・・」

「そうです。才能はともかく、本人のやる気がないのに、そのまま継続させてもどちらにとってもよくはないですから」

 駄目押しするようにシルヴィアがそう言うと、孤児院長は考え込むように黙り込んだ。

 

 その孤児院長の顔を見た考助は、シルヴィアの言葉を引き継ぐように言った。

「いきなりの提案でいろいろと考えることもあるでしょうから、ゆっくり考えてください。・・・・・・といっても、何カ月も待たされるのは困りますが」

「いえ、流石にそれは・・・・・・」

「そうですか? それでしたら、決まった時点でクラウンに連絡をください。料金はこちらで払っておきますから」

 クラウンでは、対象の冒険者に言伝のようなものを伝えることができるシステムがある。

 手紙の簡易版のようなものだが、手紙よりも料金が安くて、よく利用されているのだ。

 

 考助の言葉に、孤児院長は快く頷いた。

 あまりにも突拍子もない提案で、時間がもらえるのはあり難かった。

 それに、ゼロにとっても時間が与えられることは嬉しいはずだ。

 退出するための挨拶をしてくる考助たちを見ながら、孤児院長はそんなことを考えているのであった。

どこかで似たような話を書いた気もしますが、孤児を育てている巫女様にちょっとした教えを与えましたw

「職業選択の自由」


まあ、それが実るかどうかは微妙なところですがw

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