(9)研究者として?
考助が思いついたことは実に単純なことだった。
「・・・・・・何?」
その思い付きを聞いたフローリアは、少しだけ驚いたような表情になったが、すぐに納得の表情になる。
「なるほど、確かに・・・・・・いや、しかし、行けるのか? いや、行けるかもしれないな」
「あ、よかった。ただの思い付きだから、実際にどうなるかは不安だったんだよね」
考助の考えはあくまでも机上の空論であり、実際に上手くいくかはわからなかった。
それが、フローリアから行けるかもしれないという言葉を引き出せただけでも、十分に考える余地がある。
もしこの段階で、無理だと否定されていれば、考助はあっさりと諦めるつもりだったのだ。
考助が考えた思い付きというのは、簡単に言えばゼロにスライムに関するレポートを書いてもらうという事だった。
本来であればそうしたレポートは、正規のテイマーギルド員になってから提出すれば点数になりランクも上げられる。
だが、まだ年齢的にギルドに所属できないゼロは、いくらそんなものを書いても何にもならないのである。
それどころか、下手にそんなものを書けば、誰かに握りつぶされるか、あるいは勝手に奪われてしまう可能性だってある。
そんな目に遭うくらいなら、今の生活を続けてもらって、きちんとギルドに登録を済ませてから提出させた方が早いのだ。
だが、その方法だと、折角のゼロの才能が孤児であるからという理由で潰されてしまうこともあり得る。
そのため考助が保護をするのが早いのだが、いくらなんでも会って二日の子供を引き取るのは、少しばかり責任が重すぎる。
金銭的には何ら問題ないのだが、やはり人の人生を背負うのは、そう簡単に結論を出せるようなものではない。
あるいは、嫁さんズ全員が子育てを終えているのであれば、養子として引き取る可能性はあったかもしれない。
ただ、それはあくまでも可能性であって、絶対でもないのだ。
そんなわけで考助が思いついたのが、ゼロにレポートを提出させるということだった。
ゼロは孤児なので、まずは文字を書けるかどうかから確認しないといけないが、もし書けない場合は文字を教えることから始めないといけない。
さらにレポートの書き方まで教えないといけないが、それらは必要経費だと割り切る。
なぜ考助がそこまでするのかという疑問が湧くが、そこはただの趣味の範囲だとしか言いようがない。
考助としては、気になってしまったのだから仕方ないと割り切っているので、そんな疑問は既に振り切ってしまっていた。
シルヴィアとフローリアも、考助のそんな考えは既にわかっている。
だからこそ、考助が考えた抜け道を実践できるかを真面目に考えて、答えたのだ。
そして、フローリアは彼女なりの答えを出した。
次は、シルヴィアの番だった。
少し安堵の表情を浮かべている考助に、シルヴィアが疑問に思っていることを聞いた。
「コウスケさんがレポートを引き受けて、それに対して対価を与えるのは良いとして、そのレポートはどうされるのですか?」
「勿論、テイマーギルドに提出するよ? 僕の名前も併記したうえで」
見ようによっては考助が研究を奪っているともとられかねないが、ギルドにも登録されていない少年の名前で出すよりははるかにましになる。
それに、そもそも考助自身に、ゼロの研究成果を奪うという意思がまったくないので、外野がなにを言おうと気にすることはない。
そのことは、ゼロにわかってもらえればいいだけだ。
それは、シルヴィアも良くわかっているので、そんなことが聞きたかったわけではない。
「その名前は、コウスケ様としてですか、それともコウスケさんとして、ですか?」
シルヴィアがそう問いかけると、フローリアもハッとした表情になって考助を見た。
普段からシルヴィアの呼び方に慣れていないとわからない微妙なニュアンスの違いだが、そこには分厚い壁としての大きな差がある。
シルヴィアの問いは、現人神としてゼロのバックアップをするのか、あるいは単にテイマーとして助けるのかを聞いているのだ。
「うーん。まあ、いずれは神としてでも良いかも知れないけれど、とりあえずはテイマーとしてでいいんじゃないかな?」
シルヴィアの重めの問いに対して、考助は比較的軽めに答えた。
そもそも、もしゼロの才能が本物であるならば、わざわざ考助が現人神として名を出さなくても、勝手にひとり立ちしていくだろうと予想しているのだ。
考助の答えに、シルヴィアは安堵したようにため息をついた。
「そうですか」
「あれ? そこまで安心するようなことかな?」
「コウスケ。そなたはあまり真面目に考えていないようだが、神としての名はそう簡単に使わない方がいいと思うぞ?」
そう釘を刺してきたフローリアに、考助は苦笑を返した。
「いや、それはよくわかっている・・・・・・というか、普段の行動で分からないかな?」
そもそも考助は、引きこもりと言われてもおかしくないほど、普段は人前に出ないように籠っている。
それを考えれば、シルヴィアやフローリアの懸念はいささか過剰といえるだろう。
だが、そう言ってきた考助に、シルヴィアとフローリアは、一度顔を見合わせてから答えた。
「いざとなれば何をするかわからないですから」
「普段の行動の結果から考えているのだがな?」
「ウグッ」
ほぼ同時に二人からそう言われた考助は、反論することができずに言葉を詰まらせた。
考助の思いや考えはともかくとして、結果が神としての行動になっているのは、否定することができない事実である。
シルヴィアとフローリアからジッと見られた考助は、即座に反論することを諦めた。
「ま、まあ、それはそれとして、まずはゼロに打診してみればいいかな?」
そのあまりにもあまりな誤魔化し方に、シルヴィアとフローリアはもう一度顔を見合わせてからすぐに頷いた。
「それでいいのではないでしょうか?」
「そうだな。取り敢えずは、文字が書けるかどうかだろう」
いくらなんでも、子供にいきなりレポートを出せなんて無茶を言うつもりはない。
まずは文字を書けるかどうかを見て、それから丁寧にレポートの書き方を指導していくつもりだった。
ある程度方針さえ決まってしまえば、考助たちが動き出すのは早い。
この日は既に遅い時間になっているので、翌日に孤児院へと訪れることになるのであった。
いきなりテイマー登録は無理なので、まずは研究者として、というところでしょうか。
子供がまともなレポートを書けるのかという問題はありますが、そこは当然考助の指導が入ります。
結局子供を一人抱えることになっているのでは、という指摘はとりあえず聞こえないことにしますw
※次回更新は7/24になります。




