(7)狩り
翌日、考助たちはテイマーギルドへと顔を出していた。
せっかく登録を済ませたのだから、この機会に依頼でもこなそうかと考えたのである。
テイマーギルドの依頼は、普通の冒険者ギルド(クラウン含む)と違って、少し特殊な方式が取られている。
考助たちの場合、テイマーとしての実績は皆無に等しいが、冒険者としての実績はある。
そのため、戦闘と採取に関しては、クラウンに即した依頼が受けられるようになっているのだ。
その他の細かい規定もあるが、考助たちに関しては、それだけを押さえておけば問題ない。
テイマーギルドの依頼には、ほかのテイマーの飼っている従魔の世話など、少し趣の変わった内容のものもあるが、それらはランク相応のものしか受けられない。
簡単に言えば、依頼の中で『テイマー専用』とされているものが、テイマーギルドのランクに即したものしか受けることができないのである。
最初からテイマーとしての実績を上げる積もりがほとんどない考助たちは、町の周辺を確認するついでの討伐系の依頼を受けることにした。
この辺りは魔獣系のモンスターが出てくるようで、それらの討伐の依頼が多くあった。
中には、増えすぎて困るようなモンスターの間引きを狙っているような依頼もある。
考助たちは、効率のいい依頼などを狙っているわけではないので、それをひとつ受けることにして受付に持って行った。
考助が差し出した依頼票を見た受付嬢は、考助の顔と依頼票を見比べつつ首を傾げた。
「スピードモールの討伐ですか・・・・・・。よろしいのですか?」
スピードモールはその名の通り、すばしっこいモグラである。
あの体型でどうしてと思うほどスピードを出して逃げるので、意外に討伐に苦労するモンスターだ。
「ええと・・・・・・? 別に規定には触れていないはずですが?」
「ああ、いいえ。そういう意味ではありません。貴方たちのランクでは、もっと上の依頼もこなせるはずですが?」
そう聞いて来た受付嬢に、考助は、アアと頷いた。
受付嬢が言っていることは、間違っていない。
それに、依頼の適性を見極めて助言をすることも職務のうちに含まれているのだから、むしろ正しい助言をしてきたともいえる。
その受付嬢に、考助は何ということはないという顔で、その依頼を選んだ理由を話した。
「今回は登録に来ただけで、長期滞在するつもりはありませんから、比較的簡単そうな依頼を選んだのですよ。一応、消化できていない依頼を選んだつもりですが・・・・・・」
テイマーギルドに限らず、どのギルドでも所持しているランクから外れた依頼をこなすのは、良い顔をされない。
それがそれぞれのランクにいるメンバーを守ることになるのだから当然だ。
若干不安そうな顔になった考助に、受付嬢は少し慌てた様子で首を左右に振った。
「いいえ! そういうことではないです。この依頼を消化してくれるのであれば、こちらにとってはとても助かります」
実際、考助たちが選んだ依頼は、ひと月以上消化されずに残っていたものだった。
スピードモールの討伐は、金額の割には手間がかかるとされている依頼の中でも、五本の指に入るくらいは敬遠されているのだ。
その依頼をひっこめられては困ると、受付嬢は慌てた様子で続ける。
「別にお金に困っているようにも見えませんでしたから・・・・・・」
「ああ、それでね」
受付嬢の言葉に、考助は苦笑しながら頷いた。
こうした塩漬けにされている依頼は、受付嬢が言った通り、お金に困った者たちの最後の手段とされることが多い。
そのため、受付嬢がそう考えるのは不思議なことではなかった。
「余計なことを言ってすみませんでした」
そう言って頭を下げた受付嬢に、考助たちを顔を見合わせて笑顔を浮かべた。
「いえいえ。それがあなたの役割です。別に怒るようなことはしませんよ」
「そうだな。・・・・・・まあ、中には怒るような輩もいるのだろうが、な」
フローリアも頷きつつ、そう付け加えつつ苦笑した。
プライドを刺激されて、受付嬢の忠告に反感を持つ者も少なくないのだ。
考助たちの答えに安心したのか、受付嬢はもう一度だけ、軽く頭を下げた。
「では、改めてこちらの依頼を受理させていただきます。討伐部位は忘れず持ってきていただくようにお願いいたします」
「わかりました」
受付嬢の言葉に丁寧に返答した考助は、処理をした依頼票を受け取って、シルヴィアとフローリアたちと共に外へと出るのであった。
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スピードモールが面倒な相手とされているのは、モグラなだけあって地中に生息しているためだ。
まず目視で相手を探すことができないために、探し出すのに経験が必要になる。
スピードモールはさらにそれだけではなく、自分の位置が特定されたとわかったとたんに、その名の通りあっという間にその位置から逃げ去ってしまうのだ。
普通の手段では、まず捕まえることすら難しいのである。
そんな相手に考助たちが取った手段は、いつも通り(?)のごり押しである。
そもそもナナの鼻に頼ると、地中にいたとしてもほぼ特定してしまう。
それに、いくらスピードモールが速いといっても、狼たちに敵うはずもない。
問題は、どうやって地上に出して討伐するかということだが、これは折角三体いる狼を使うことで解決した。
早い話が、追い込み漁的にモグラを追い込んで、地上に通じている穴まで誘導するようにしたのだ。
一度やり方さえ見つけてしまえば、あとは早かった。
三体の狼たちは、考助が指示を出さなくても同じ方法を繰り返して、あっという間に指定討伐数の五体をクリアしてしまった。
指定場所に来てから、討伐が終わるまで一時間もかかっていない。
「さて、随分と早く終わってしまったが、もう町に戻るのか?」
既にその言葉自体が否定しているように聞こえたが、考助は首を振りながらフローリアにむかって否定した。
「流石にこれじゃあ運動にもならないからね。もう少し狩っていくよ。ナナたちも物足りないだろうし」
考助がそう言うと、しっかりと話を聞いていたのか、ナナが「ウオン!」と返してきた。
そのナナの首筋を撫でながら、考助はさらに続けた。
「それに、上限数もなかったはずだから、いくら狩っても問題ないはずだよ」
「そうですね。基本的に害獣の部類ですから、狩りすぎて怒られるということはないはずです」
考助の言葉に同意するように、シルヴィアもそう言ってきた。
勿論、フローリアも二人の言葉を否定するつもりはない。
シルヴィアとフローリアの言葉に同意するように、三体の狼たちも期待するように考助を見ていた。
それを理解した考助は、すぐに決断した。
「よし。それじゃあもう少し狩ろうか。というわけで、行ってこい!」
考助がそう号令を掛けると、待ってましたと言わんばかりに、ナナたちが駆け出して行った。
それを見送った考助たちは、他のモンスターが出てこないかと警戒しつつ、ナナたちが結果を出すのをその場で待つのであった。
たまにはナナの狩りシーンを。
・・・・・・と思ったのですが、相変わらず長続きはしません。
折角なので、元気にしているということだけでもわかって頂ければw




