(6)テイマーとは
孤児院を出た考助たちは、ナナたちと合流してから、今日泊まる予定の宿屋へと向かっていた。
その道すがら、フローリアが考助に問いかけて来た。
「それで? 話を聞いてどうだった?」
「どう、とは? ゼロのことについて? それもあの孤児院について?」
「ああ、済まなかった。少し省略しすぎたな。勿論、ゼロについてだ」
フローリアの言葉に、考助は首を傾げながら少しだけ唸った。
「うーん、どうかな? 確かに一般人よりはテイマーとしてやっていけるとは思うけれど、才能があるかどうかと言われると・・・・・・」
考助はそう言いながら、テイマー施設でみたゼロの様子や孤児院長から聞いた話を思い出していた。
その考助の姿を見て、今度はシルヴィアが首を傾げながら聞いて来た。
「少なくとも、従魔に嫌悪していないことや懐かれるような要素はあるようですが?」
「ああ、うん。それは否定しないよ。でも、だからと言ってテイマーとして高い能力があるかとなると別だからなあ・・・・・・」
「そうなのか?」
考助の説明に、フローリアが目を丸くして驚いていた。
シルヴィアが上げた様子は、普通に考えればテイマーとしての才能といわれてもおかしくないものなのだ。
考助もシルヴィアやフローリアが言いたいことは理解できているので、頷きながらさらに説明を加えた。
「うん。ふたりに分かり易いように説明するとすれば・・・・・・ああ、そうか。リクのことを思い出せばいいか」
「うん? どういうことだ?」
そう言いながら首を傾げているフローリアに、考助は少し笑いながら言った。
「だって、リクはあれだけ眷属たちに懐かれているのに、テイマーかと言われたら違うと答えるよね?」
リクが考助の眷属たちに非常に懐かれていることは、管理層に出入りしている者たちなら誰でも知っている事実である。
だからといって、リクがテイマーだと言う者は、誰もいないだろう。
その考助の言葉に、フローリアがますます意味が分からないという顔になった。
「いや、それはそうだが、あれは単にテイマーとなることを選択しなかっただけでは?」
「そうだね。それも勿論あると思うよ。でも、一番重要なところはそこじゃない」
考助がそう断言すると、シルヴィアもフローリアと同じように不思議そうな顔になって首を傾げた。
「どういうことでしょう?」
「うーん。なんて言えばいいのかな・・・・・・」
シルヴィアとフローリアから同時に疑問を向けられた考助は、そう言いながら空を見た。
歩きながらの仕草なので非常に危ないが、誰も注意することはなかった。
考助の場合はよくあることなので、今更注意をしても仕方ないとわかっているのである。
何かに躓いてスっ転ぶことはなく、やがて考助はシルヴィアとフローリアを交互に見て聞いた。
「ひとつ質問だけれど、レンカはテイマーになると思う?」
そのごく単純な質問に、シルヴィアとフローリアは同時に言葉に詰まった。
それを確認した考助は、ふたりが何かを言うよりも先に続けた。
「僕だって、レンカがテイマーになれるかと聞かれたら迷わずなれると答えるけれどね。テイマーになるかと聞かれたら、多分ならないと答えるよ。それはふたりも同じだよね」
考助のその言葉に、シルヴィアとフローリアは黙ったままだったが、それがそのまま答えになっていた。
従魔を飼って馴らすことと、職業としてのテイマーはやはり別なのである。
ただし、一般の者たちから見れば、従魔を飼って従えている時点でテイマーだと答える。
なぜなら、そこまで厳密にテイマーかどうかなど、普通は考えていないからである。
そういう意味では、テイマーギルドの基準も同じである。
シルヴィアやフローリアもテイマーギルドに登録しているが、本職からテイマーかと聞かれれば違うと答える。
言葉遊びのようだが、本当の意味でのテイマーとただ従魔を飼っている者には、やはり差があるのだ。
少しの間、考えるような顔をしていたフローリアは、ため息をつくようにして答えた。
「言いたいことはわかるが、そんなことを言ってしまえば、本当の意味でのテイマーなど数えるほどしかいないのではないか?」
その括りで考えれば、考助もテイマーかと言われれば微妙なところになるだろう。
「まあ、そうなんだけれどね。結局のところ、ひとりの子供を預かるのに気が引けて、いろいろな理由をつけて拒否しようと考えているのかもしれないね」
「それはあり得ません」
「そうだな、無いな」
多少おどけて言った考助に、シルヴィアとフローリアが間髪入れずにそう断言した。
何とも息の合ったふたりに、考助は思わずため息をついた。
「いや、そんなところで息を合わせなくてもいいのに・・・・・・」
「仕方ありません。余りにあり得ないことでしたから」
考助の言葉に、シルヴィアがあっさりとそう言ってきたかと思えば、フローリアが頷きつつ続けた。
「そうだな。そもそも自分の目的のために、孤児のための施設を作るのが考助だぞ? 今更、ひとりくらい増えたところで大した違いはないだろう?」
「それはそうなんだけれどね。何だろう、このやりこめられている感・・・・・・」
考助はそう言って嘆くように首を振ったが、それに同情してくれる者は、この場には誰もいなかった。
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そんなこんなでいつも通りのやり取りを含みつつ、考助たちは宿屋へと着いた。
結局ゼロをどうするかは、結論が出ないままだ。
考助が泊まることになった宿屋は、ナナたちも一緒の部屋に入ることができる。
これはこの町では珍しくなく、むしろ従魔同伴不可の宿のほうが少ない。
勿論、従魔が嫌だというお客も少なくないので、そうした宿もあるのだが、やはり従魔を連れている冒険者が多いことから、従魔の同伴が許されている宿のほうが多いのである。
とはいえ、従魔に関しての取り決めが緩いというわけではない。
たとえば、連れている従魔が何か問題を起こせば、当然その責任は飼い主が負うことになるし、その金額なども相応の額になる。
従魔にとっては優しい面はあっても、決して甘くはないのだ。
ともあれ、考助たちにとってはなんの問題もないので、空き部屋があることを確認して、すぐに部屋に入った。
人は三人しかいないが、連れている狼が三体いるので、部屋は少し大きめの部屋になった。
金額は少し高めになったが、それについては文句はない。
そもそも他の町で従魔を連れて宿に泊まれば、別料金で馬房などに入れることもあるのだから、文句など出るはずがない。
というわけで、無事に二泊分の清算も済ませた考助たちは、宿で出された食事も済ませて、その日の残りはまったりと過ごすのであった。
いろいろと理屈をこねる考助でした。
そんな厳密な差なんてどうでもいいじゃん! と言い(書き)たくなりましたが、どうやら譲りたくない一線があるようです。




