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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(5)孤児院の話

 考助たちは、道行く地元民を捕まえて孤児院の場所を聞いて、気になる屋台を見つけて寄り道をしながら目的地に着いた。

 その孤児院は、比較的運営が上手くいっているらしく、少なくとも外から見た感じでは、ぼろぼろで雨風を防ぐのがやっとという感じではまったくなかった。

 孤児院長だと紹介されたシスターの話を聞いた限りでは、王のおひざ元ということで、王家からの寄付が必要十分にあるらしい。

 といっても、王家から来る寄付は、建物などのメンテナンスに関してだけで、日々の食費などはほかの寄付に頼っているのだ。

 なぜそんな面倒なことになっているのかといえば、過去にちょっとした問題が起きたためだという。

 以前は、王家が過不足無いようにすべてを寄付で賄うようにしていたそうだ。

 

 ある時、王よりも強い権力が宰相の座に就いたときに、無駄を省くという理由で王家の寄付を切られたそうだ。

 ついでに、王の慈悲だけではなく、ほかの貴族たちの寄付も受け付けるようにしなければ、平等にならないという理屈もあったそうな。

 その結果、少なくとも宰相が権力を握っている間は、孤児院は各方面からの寄付で潤沢な経営ができていたらしい。

 それで話が済めば良かったのだが、問題になったのは、その宰相が下手をやらかして権力の座から追われたときだ。

 宰相の関心を買うために、それまで寄付をしていた貴族たちは、めっきりとその数を減らして、たまに忘れたころにやって来る程度に減ってしまった。


 それでもまだまだ贅沢さえしなければ、なんとかやっていける程度までは寄付があったのだが、それも年を追うごとにどんどん減って行くことになる。

 流石に今の状況では不味いと、宰相の影響力が減ってホッと一息つけた王が、建物のメンテナンスだけは王家で賄うと宣言したそうだ。

 ここですべてを賄うことにしなかったのは、以前と同じ轍を踏まないようにするためだ。

 王が人気取りのために孤児たちを養っているという、割とどうでもいい批判でも、ときには足元をすくわれることになるのが王であり王家なのである。

 当時の王は無念そうな顔で、そのときの孤児院長に謝罪までしたそうだ。

 

 ――というのが、今考助たちの目の前にいる孤児院長の大雑把な話の内容だった。

「実際には、本当に謝罪があったのかどうかまではわかりませんが、少なくとも王家の寄付があって助かっていることは事実です」

 孤児院長は、そう言ってニコリと笑顔を浮かべていた。

 一国の王たるものがそうそう簡単に謝罪などすることはなく、たとえ作られた美談だとしても、それをどうこう言うつもりはないという意思が見て取れた。

 別に考助たちもそのことにどうこう言うつもりはない。

「確かに、住むところの心配をしなくていいというのは、安心できますね」

 孤児院長の言葉に、シルヴィアが頷きながらそう言った。

 

 実際、衣食住のうち「住」のことを心配しなくても良いというのは、孤児院を運営していくうえで、十分安心できる材料になる。

 なんだかんだで住む場所というのは、突発的に大きなお金がかかってしまう。

 切り詰めた生活をしている場合には、そんな出費がとてつもなく重荷になるのである。

 

 

 そこまで話をしたところで、孤児院長がはたと何かを思い出したような顔になり、次いで頬に手を当てながら言った。

「あら。ごめんなさいね。ここで過ごしていると、こんな話をする機会もほとんどないものですから」

「いいえ、とんでもございません。とても参考になりましたわ」

 孤児院長の謝罪に、シルヴィアが首を振りながらそう答えた。

 そもそもこんな話になったのは、シルヴィアが自身も孤児たちを預かって施設を運営しているという話をしたからである。

 それを受けて、話好きらしい孤児院長が、これまでの経緯を話し出したのだ。

 勿論ここまで話が続いたのは、考助たちにとっても聞いていて意味のある話だったので、敢えて止めなかったという事もある。

 

 言葉には出さなかった考助とフローリアが頷いているのを確認した孤児院長は、安心したような顔になった。

「それで・・・・・・ゼロのことでしたか。確かに、ゼロはこの院におりますよ」

「そうですか。もうこちらには長いのでしょうか?」

 シルヴィアがそう問いかけると、孤児院長はコクリと頷いた。

「そうですね。確か彼が五才か六才くらいの時でしたから、そろそろ五年くらいになるはずです」

 父親と母親をほぼ同時期に亡くしたゼロは、孤児院に来た当初は、ふさぎ込んで周囲と溶け込むこともなかったそうだ。

 それが改善したのは、卒業生であるテイマーが、院を訪ねて来たときだそうだ。

 その卒業生が連れていた従魔に懐かれたゼロは、そこから他の子供たちとも話をするようになっていったのである。

 

 もっとも、きっかけが従魔だったということは別にして、そうした話は孤児院ではよくあることだ。

「中にはふさぎ込んだまま立ち直れない子もいるのですが、あの子はそうでなくて安心しました」

「そうですね」

「ここには他にも・・・・・・って、あら、いけないわね。また話が脱線するところでした」

 孤児院長が、そう言いながらおっとりとした表情で頬に手をやるのを見て、考助はまた話が長くなるところだったと内心で安堵のため息をついていた。

 

 そんな考助の様子には気付いた風もなく、孤児院長は期待するような顔で考助たちを見た。

「それで、わざわざこちらにいらしたという事は、ゼロの身受けを・・・・・・?」

「残念ながらまだそうと決めたわけではありません。まずは、きちんと話を伺ってからと思いましたので」

 シルヴィアがきっぱりとそう答えると、孤児院長は残念そうにため息をついた。

「そう、そうよね。嫌だわ、私ったら。早とちりすぎるわね」

 孤児院を運営している立場上、孤児たちがしっかりとした身元の者たちに引き取られることは、寂しいという感情は湧いても邪魔をすることはない。

 それが子供たちの将来にとって、一番いいことだとわかっているためだ。

 

 ただし、考助たちはふらりとこの街にやって来た風来坊であるので、しっかりとした身元であると証明するのは難しいだろう。

 孤児院長は、そのことをわかったうえで、敢えてこういう言い方をしているのだ。

 考助たちは考助たちで、こうして話を聞くことでゼロの人となりを確認しているのだから、どっちもどっちといえる。

 というよりも、そうした積み重ねがあって初めて、孤児の身受けができるのだ。

 いくら相手が貴族であっても、来てすぐにはいどうぞと子供を渡してしまうような孤児院長だと、逆に信用などできるはずもない。

 

 

 結局、この後はいくつかお互いに雑談をして、考助たちは孤児院長室から出て行った。

 そして、考助たちが部屋から出て行ってしばらくして、普段孤児院長の補佐をしているシスターが部屋に入って来た。

「どうでしたか?」

 孤児院長の短い問いに、シスターは笑顔のまま答えた。

「特に問題はなかったです。子供の扱いにも慣れているようでした」

「そう。・・・・・・連れてきていた従魔は?」

「そちらも問題ありませんでした。最初から子供たちには近付かないように言っていたのもあるのでしょう」

 考助たちは、孤児院長室に入る前にナナたちを外に置いていた。

 

 いくら大人である考助たちに言われたからといって、子供たちがその言いつけをしっかり守ったということが信じられないのだが、少なくとも怪我人などは出ていないことに、孤児院長はホッとしていた。

 よほどしっかりとした躾がされている従魔でないと、多くの子供を前にした時に、ちょっとした事故が起こることはあるのだ。

 そうしたことも、考助たちの人となりを見ることに一役買っている。

 結果としてそれらの問題はクリアされたと、孤児院長は頭の中でそんなことを考えているのであった。

余りはなしの本筋には関係ない孤児院の話でしたw (コラコラ)

基本的に寄付で成り立っている孤児院は、こうした問題も往々にして起こりうるでしょうということで。

それでも、きちんと建物のメンテ代だけでも出している王家は、ましな方です。

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