(4)才能ある者?
職員が考助の言葉に渋々とはいえ頷いたのには、きちんとした理由がある。
職員もゼロもまったく気付いていなかったのだが、考助は狼以外にも従魔を連れていたのだ。
それがスライムで、長いこと施設で働いて来てスライムを多く見て来た職員も見たことが無い種族だったことが、決め手になった。
施設内にはいろいろな種類のスライムがいるが、それはあくまでも種類が多様であるということを示しているだけであって、底辺モンスター(従魔)であるという認識には変わりがなかった。
それが、考助が連れていたスライムは、単に珍しい種というだけではなく、戦闘においても低ランクモンスターを圧倒できるというのだから驚かないはずがない。
職員は、考助が嘘をついているという可能性も考えてはいたが、そんな嘘をついてもすぐにばれるので、嘘ではないと判断した。
まあ、実際に戦ったわけではないので、あくまでも職員が考助を信じたというだけの事なのだが、考助にとってはそれで十分だった。
職員が考助を信じたのは、今までの対応があったからということも含まれていたことも、言うまでもない。
ゼロはまだこれから仕事があるという事で、逃げるようにして考助たちのところからいなくなった。
その様子を考助が興味深そうに見ていた。
「なんだ、気になるのか?」
考助の様子に気付いたフローリアが、意味ありげな視線を向けた。
「ああ、そうだね。彼、このまままっすぐに成長したら、間違いなくテイマーになれるよ」
「ほう。やはりか」
考助の言葉に、フローリアが納得の声を上げた。
すぐ傍にいるシルヴィアも頷いてはいるが、驚いてはいない。
逆に、職員はそれどころではないという様子で、両目を見開いていた。
「ほ、本当ですか、それは!?」
「本当だとしたら、どうするつもりかな?」
考助からそう聞かれた職員は、慌てた様子で答える。
「それは勿論、テイマーとしてギルドに登録をさせて・・・・・・」
「いや、それは無理だから」
「・・・・・・はいっ?」
言葉の間に割り込むように言ってきた考助に、職員は目を丸くした。
その職員に、考助は言い聞かせるように、敢えて多少威圧的になるような言い方で続けた。
「今言ったのは、あくまでも可能性があるという話であって、必ずテイマーになれるという事じゃないんだよ? そんな人間、しかも子供をギルドが育てることができるの?」
テイマーギルドは、テイマーになっている者を登録して仕事を斡旋するという組織であって、テイマーを育てるわけではない。
考助が言った通りに可能性があるというだけで子供をテイマーとして育てると、周囲から反発が起こるだろう。
なぜ、あの少年だけ特別扱いするのだ、と。
ゼロがテイマーになれる可能性があるというのは、考助の感想であって、客観的事実に基づいてのものではない。
確実にゼロがテイマーになれると証明ができれば、反発する者も減るだろうが、そんなことは考助にもできない。
ましてや、ゼロがやっていたことを気付いてもいなかったギルドが、その責任を負うことは出来ないだろう。
考助の説明に、職員は少し慌てた様子で返してきた。
「で、では、このまま見過ごすと?」
「さあ? それはテイマーギルド次第じゃないかな? このまま作業員として雇い続けていたら、いつかテイマーとして施設のモンスターと契約出来るかも知れないし」
突き放すような考助の言葉に、職員は残念そうな顔になった。
「あの子は孤児ですから、もし才能があると証明できればいいのですが・・・・・・」
「そんなことができるのであれば、もっと他の国でもテイマーの数は増えているだろうね」
テイマーになれる可能性があるかどうかなど、普通は見て分かるようなものではない。
言外に無理だと言ってきた考助に、職員は大きくため息をついた。
テイマーギルドに勤めている以上、そんなことは百も承知なのである。
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残念がる職員とともに施設を見終わった考助たちは、建物を出て町の中を歩いていた。
そして、施設から十分離れたところで、シルヴィアが意味ありげな表情を向けて来た。
「このまま見過ごすのですか?」
「うん。今のところはね」
「フフフ。今のところは、か」
考助の答えに、フローリアも笑みを浮かべてそう言った。
なにやら含みのあるシルヴィアとフローリアの笑顔に、考助は肩を竦めながら続けた。
「本当に今のところは手を出すつもりはないよ。孤児とはいえ、ゼロにだってこれまで積み重ねてきた生活もあるだろうしね」
たとえ周りから見て貧しい生活だとしても、当人がそう思っていなければ、ただの余計なお節介でしかない。
ゼロと直接話をしたのは少しだけだったが、変に卑屈にもなっておらず、倒れるほどに栄養が得られていないということもなかった。
それならば、今の時点で考助が口出しをするのは、逆に良くないと考えている。
考助のそうした考えを見抜いたうえで、シルヴィアが頷きながら言った。
「確かにそのとおりですね。この町にも孤児院はあるでしょうし・・・・・・」
「それもそうだな」
シルヴィアの言葉に同意したフローリアだったが、ここで意味ありげな笑みを浮かべた。
「ところで、折角初めての町に来たのだから、孤児院の様子でも見に行くのはどうだ? 塔の孤児施設の参考になるかもしれないだろう?」
「そうですね。それはいい考えです」
フローリアの提案に、シルヴィアがこれ幸いとばかりに乗った。
その息の合ったふたりのやり取りに、考助は苦笑を返すことしかできなかった。
「まあ、それは別にいいんだけれどね。・・・・・・言うまでもないけれど、孤児たちの今の生活を壊すような真似は駄目だからね」
そう釘を刺した考助に、シルヴィアとフローリアは揃って真顔で頷いた。
「勿論です」
「当然だな」
こうして、考助たちの次の目的地が決まったのである。
いつもよりも短いですが、きりがいいので今日はここまで。
次は孤児院訪問になります。
(この話で孤児院まで行ってしまうと、中途半端なところで区切られてしまうので)
というわけで、ゼロの運命やいかに!
・・・・・・この時点でフラグ立ちまくり、という突っ込みはなしで。
※次話更新は7/17になります。
 




