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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(9)気紛れ

 音楽教師の暴走からさらに三カ月が、新学期になってからで数えれば四カ月が過ぎていた。

 そんなある日の事、ミクはとある事情で学園にある一室を訪ねていた。

「ええと、すみません。ここが実行委員の部屋でしょうか?」

 妙に騒がしくしている生徒たちに引け目を感じつつ、とりあえず、近くにいた女子生徒を捕まえたミクがそう確認した。

「あー、はい。そうですよ。何かありましたか?」

「はい。クラス委員に頼まれて、届け物を」

「ん? 届け物? ・・・・・・ああ、これね。ご苦労様。私が預かっておくよ」

 ミクが渡した書面を見た女子生徒は、軽く頷きながらそう言ってくれた。

 

 それに安心したミクは、頷きながらその書面を女子生徒に渡した。

 これでミクの用事は終わったが、先ほどから気になっていたことを聞くことにした。

「随分と慌てているようですが、なにかあったのですか?」

「あ~。やっぱり分かる?」

 女子生徒は少しだけ騒がしくしている者たちを見ながら苦笑した。

「こんな時期になって、講堂の使用時間に空きがあることが分かってね。その時間をどうするかでいろいろと揉めているのよ」

 女子生徒の答えに、ミクは納得の表情になった。

 

 ミクが今来ている部屋は、学園の学園祭実行委員会が置かれている場所だ。

 たまたま用事で手が離せなかったクラス委員に代わって、ミクが必要な書面を届けに来たのである。

 普段はいまほど騒がしい場所ではないのだが、どう見ても誰もが慌てているように見えたために、ミクが気になって聞いたというわけだ。

 

 学園における学園祭は、新学期が始まってから四カ月程が経ってから行われる行事になる。

 そもそもは、学園ができてから十年が経ちそうなあるときに、考助が学園で学生が稼ぐ方法を学べる行事があれば面白いのにと呟いたところから始まっている。

 ただし、第一回の学園祭は、学生だけが集まってやりたいことをやるというちょっとしたお祭りの規模だった。

 ところが、その学園祭に来ていた父兄が、その出来を周囲に広めた結果、翌年からは一般に公開するようになったのである。


 学園側としては、余計なトラブルが増えるという懸念もあったのだが、それ以上に学生たちにとって身になる行事という側面があったために、無視できずに一般公開することになった。

 結果として、起こったトラブルよりも、得ることができた実績のほうが大きかったために、今でも続いている行事となっている。

 学園祭というのは、学生が主体となって開くお祭りだが、その中身はちょっとした店を開いて運営するということと変わりがない。

 それは、学生たちに実践を学ばせるという意味においては、これ以上ない機会だったのだ。

 勿論、学園祭で売られている物に関しては、学生が開いているお祭りということで、御祝儀的な意味合いでの金額ということもあるのだが、それはそれである。

 

 それはともかくとして、学生が学園祭で稼ぐ方法はいくつかある。

 たとえば屋台のような物を出して飲食物を出してもいいし、なにか手芸的な物を置いても良い。

 騎士の講義を受けている者たちは、演舞的なものを披露することもある。

 そんな中で、学園にある講堂は、人が一か所に集まってなにかを見せることができる場所として人気があった。

 そんな講堂に空き時間を作ってしまえば、委員会の汚点として残ってしまう可能性がある。

 学園祭の実行委員は一種のステータスにもなっているので、汚点になるような状況を作ってしまうということで騒ぎになるのは、ある意味当然なのである。

 

 

 女子生徒の話を聞いて状況を理解したミクは、以前に両親から言われたことを思い出していた。

 それは、何かちょうどいい条件があれば、そろそろ大々的に人前でストリープを演奏しても良いというものだ。

 今までのミクは、ミアが選んだパーティでしか人前では演奏したことがない。

 それを、この前起こった教師の暴走事件をきっかけに、そろそろ解禁しても良いだろうという話になっていたのだ。


 そのことを思い出したミクは、思わずその場でポツリと呟いていた。

「父と母の許可をもらえれば、私が出ることができるのですが・・・・・・」

 そのミクの呟きが聞こえた女子生徒が、フッと笑顔を浮かべた。

「貴方が? そうね。それで決まれば私たちも慌てなくて済むわね」

 その言葉は、明らかに貴方では無理と言っていた。

 これはある意味仕方ないことなのだ。

 

 学園祭で講堂を使用して行う演目は、それぞれが周囲から期待されているもので、普通に考えれば飛び込みでの申し込みなどほとんど受け付けられない。

 更に、女子生徒がミクのことを知っていれば話は別だが、残念ながら現人神の実子という噂は知っていても、ストリープのことまでは知らなかった。

 そのため、女子生徒の態度もごく普通の対応といえるのである。

 ミクもそのことを理解していたので、少しだけ誤魔化すような笑みを浮かべて、その場を去ることとなった。

 ところが、この話はここで終わりとはならなかった。

 

 

 ミクが委員会の部屋を出てすぐに、対応をしていた女子生徒に別の女子生徒が話しかけて来た。

「あら、あの子は・・・・・・何しに来ていたの?」

「え? ああ、この書類をクラス委員の代わりに、ね」

 ミクが現人神の実子であることはほとんどの生徒が知っていることなので、話しかけて来た女子生徒がミクのことを知っているのは別に不思議なことではない。

「なるほどね。でも、その割には少し話し込んでいたように見えたわよ?」

「ああ、それは、例のことを話したら、両親の許可が取れたら自分が出ても良いって・・・・・・」

「何ですって・・・・・・!!!?」

 実は後からミクに気付いた女子生徒は、親がラゼクアマミヤの中でもかなり高位の役職についている。

 そのこともあって、委員会の副委員という役職にもついている。

 

 その副委員の女子生徒の声に、騒めいていた室内が静まり返った。

 それほどまでに、副委員の声が大きかったのだ。

「え? どうしたの?」

「どうしたの、ではないわよ! 本当に、あの方がそんなことを言ったのですか!?」

 副委員の剣幕に、ミクの対応をした女子生徒が、少し引き気味に頷いた。

「え、ええ。でも、両親の許可が取れたら、と言っていたわよ?」

 言外に、そんな子に任せるわけにはいかないでしょうという意味を込めて言った女子生徒だったが、副委員はそれどころではない様子で、驚いていた。

 女子生徒が周囲を見れば、数人の生徒が同じような反応をしていた。

 

 副委員の女子生徒は、顔色を変えている生徒を見ながら指示を出した。

「す、すぐにお願いしてきてください! 駄目なら駄目で仕方ないけれど、こんなチャンスは滅多にないわ!」

「「わ、わかった!」」

 自分の指示に従って二人の男子生徒が部屋を出ていくのを見て、副委員は安堵のため息をついた。

「できれば上手くいってほしいけれど・・・・・・どうかしらね?」

 ミクのストリープ演奏は、かなり厳しく制限されていると聞いている。

 例え本人がやる気になっていたとしても、保護者の許可が無ければ人前で弾くことは許されていない。

 普通に考えれば厳しすぎる処置だが、一度でもあの演奏を聞いたことがあれば、そこまでする意味もよくわかる。

 

 副委員の指示を受けたふたりが慌てて出ていくのを見て、最初に対応した女子生徒が驚いた顔になって言った。

「い、一体、何が・・・・・・?」

 その顔を見ていた副委員の女子生徒は、どうやって説明しようかと頭を悩ませることになるのであった。

ごく一部にしか知られていないミクのストリープ演奏。

噂では聞いていても、実際に耳にしたことがあるのは、ごく一部の者達だけです。


※次回更新は7月10日です。

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