(8)最終判断
ピーチから話を聞いた翌日、ミアは早速トワを訪ねた。
ミアが直接動いても良かったのだが、とある事情により、きちんとトワを通した方がいいと考えたのだ。
その事情というのが、
「――というわけで、これから学園に行こうと思いますが、トビはどうします?」
ということだ。
学園ができたばかりの頃、トワが学園長に就任して問題を解決をするということをしていた。
いま考えると、フローリアも思い切ったことをしたと思えるが、当時はそれが当然だったのだ。
それに倣って、いまはトビが学園長代理という役職についている。
さすがのトワも自分の時と同じように、トビを学園長に就けるということはしてない。
とはいえ、トワの次の役職がトビになるのだから、権限的にはほとんど変わりがない。
そういう事情もあって、ミアは今回の件にトビも混ぜたほうが良いのではないかと考えた。
だからこそ、いきなり学園に突撃をすることなく、まずはトワに話を持ってきたのだ。
そして、ミアから話を聞いたトワは、顔をしかめてこめかみに手を添えた。
「セイヤやシアが入学しても大きな問題が起きていなかったので安心していましたが、やはり起こりましたか」
今回は生徒同士の問題というよりも、下手をすれば学園全体を巻き込むことになりかねない。
最近では、運営が安定していたからこそ大きな問題は起きていなかったのだが、だからこそ出て来た問題ともいえる。
ミアから話を聞いた時点で、子供側ではなく、教員側の問題だということが分かっている。
そのため、トワはため息をつきながら決断した。
「これが学生だけの問題であれば、トビに任せるのですが・・・・・・正式に任命するので、調査官として監査してきてもらっていいでしょうか?」
調査官という名前は、適当にいま決めたものだ。
要は、ミアが今回の件で、王の任命を受けて責任を担っているということが周囲にわかればいいのである。
ついでにいえば、権限もこの件に限れば、トビよりも上になる。
もっとも、トワの考えていることが分かっているミアは、余計な口出しをするつもりはない。
「わかりました。……トビを前面に出してもいいのですよね?」
きちんと自分の考えたことを理解してくれているミアに、トワは笑みを浮かべながら頷いた。
「そうですね。……いや、今回はミアに動いてもらったほうがいいでしょうか」
トワはそう言ってから考え込むような顔になった。
単純にミクの担当教師の暴走と断言できるのであれば、トビに任せてしまってもいいのだが、今はまだ詳細がわかっていない。
それならば、中途半端な情報で変な決断を下すことになるよりも前に、ミアと一緒に行動させたほうがいいかもしれない。
そう考えたトワは、一度首を振ってからミアを見た。
「やはり、最終判断をトビにしてもらうということでいいですか? 調査に連れまわすのは好きにしてもらっても良いです」
「わかりました。・・・・・・ところで、トビは授業を抜け出しても大丈夫なのですよね?」
ミアは、自分たちが学生だった頃は、成績優秀だったことはわかっているが、トビの成績までは詳しく知らない。
いくら王族教育の一環とはいえ、そのせいで学園の成績が落ちてしまっては、本末転倒になってしまう。
ミアの問いに、トワは安心させるように微笑んだ。
「それでしたら問題ありません」
「そうですか。わかりました。・・・・・・では、さっそく行ってきます」
そう言って立ち上がったミアに、トワはふと思い出したように付け加えた。
「そう言えば、ミアとの縁談の申し込みが・・・・・・」
「では、行ってきます!!」
ミアは、わざとらしく大きめの声を上げて、シュバッと素早い動きでドアに向かった。
その動きを見ていたトワは、ほかに誰もいないことを良いことに、ポツリと呟いた。
「・・・・・・やれやれ。もう少し塔以外にも興味を持ってほしいものですが・・・・・・今更言っても仕方ないですね」
ため息混じりに呟かれたその言葉は、諦めも混じっているのであった。
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結局、学園の調査は、ミアが中心になってトビがその後ろをついて行くという形で行われた。
王妹と王太子という組み合わせに逆らうような者が出るはずもなく、調査自体は数日で終わった。
実際には、話を聞くだけなら半日もかからずに終わるのだが、そこまで時間を掛けたのは、サキュバスたちの調査を待っていたためだ。
いくら王族という威光があるにしろ、話をしている相手が言い逃れをしたり嘘をつかないというわけではない。
そのため、裏付けとなる話もしっかりと集めていたのだ。
その結果は白。
考助たちが懸念したような、学園内の連絡の不備だったり、ミクに関しての話が伝わっていないということはなかった。
要するに、担当教師の半暴走だった。
その担当教師は、前任者からしっかりとミクには実技は必要ないと伝えていたにも関わらず、己の熱意(?)だけで授業を受けている以上は、きちんと演奏するべきだと主張していたのだ。
そのことを知った学園の関係者は頭を抱えていた。
なぜなら、ただ給料をもらって上役のいう事だけを聞いて仕事をしているよりも、遥かに教師らしい考え方を持っているともいえるからだ。
とはいえ、その教師に問題がないというわけではない。
講義を取っているにも関わらず、実技や講義を受けなくても良いという生徒は、事情があるからこそ、そういう措置が取られているのである。
それを、誰にも関わらず、自分の判断だけで生徒に押し付けるというのは、明らかな間違いだとしかいえない。
そこまでの説明を聞いた考助は、ミアを見て聞いた。
「それで? そこまでわかったんだったら、教師にも処分が下ったんだよね?」
「当然です。といっても、実際に処分が行われるのは、年度が変わってからということになりましたが」
一応、教師自身の熱意から出たことであったことと、ほかの生徒に迷惑を掛けることになるという理由で、学年途中での交代はなくなった。
処分としては、一年間の担当教諭としての資格のはく奪ということになる。
簡単にいえば、音楽教師として教壇に立つことができないというわけだ。
その処分が重いと考えるか、軽いと考えるかは、それぞれの判断によるだろう。
考助自身は、教師に対する処分はまったく気にしていない。
それよりも、考助には別に気になることがあった。
「その処分内容は、トビが考えたの?」
「そうですね。トビが大枠を決めて、最終的に兄上が許可を出しました」
「それはまた・・・・・・やっぱり王族って色々と面倒だねえ」
まだ子供と言っていい歳の子が、ひとりの人間を裁くための処分内容を決めるのだ。
考助の知っている常識からすれば、信じられないようなことだ。
だが、そんな考助に向かって、横で話を聞いていたフローリアが意味ありげな視線を向けた。
「一応フォローするが、トビがいちから全部決めたわけではないと思うぞ? だからこそ、ミアも傍にいたんだろうしな」
考助がミアに視線を向けると、コクリと頷いていた。
「あ~、なるほど」
トワの時も必ず何かの処分を決めるときは、誰か大人が傍についていた。
そういう者は、大抵トワやトビが決める処分がおかしなことにならないように見極めているのだ。
そうやって、周囲の助言(?)を聞きつつ、自分で決定をしていくことによって、徐々に最終的な判断ができるようになっていく。
結局は、地道な努力で培っていくものだとフローリアに言われた考助は、そういうものかと納得するのであった。
結局、最終的にはトビの教材になりました。
ミクはまあ、教師からの強制もほとんど気にしていません。
というよりも、むしろ教師の言い分が通って、授業中でもストリープが弾けるようになったほうがいいと考えていたりします。
残念ながらその夢はかないませんでしたがw




