(7)引継ぎ問題?
その日、ミクからある報告をされたピーチは、珍しくため息を大きくついた。
ミクの報告は、以前からあり得るだろうと予想されてはいたが、まさかの相手だったことに呆れるしかなかったのである。
そのピーチの様子を見て、勘違いをしたミクが申し訳なさそうな顔になって謝って来た。
「お母様、ごめんなさい。騒ぎを起こしてしまって・・・・・・」
「ああ、それはいいのですよ~。いえ、良くはないのですが、この場合はミクは悪くないから」
ピーチがそう答えると、ミクがホッとした顔になった。
そのミクの顔を見ていたピーチは、脳内でこれからどうするべきかを考えていた。
ミクから受けた報告というのは、学園で起こったとある問題に関してのことだった。
その問題というのは、ミクが学園の授業でストリープを演奏するようにと教師から言われたことだ。
ミクの演奏に関しては、基本的に大人たちの許可が無いと人前で弾いては駄目だとしている。
そのため、学園で行われている音楽の授業でも、ミクがストリープを弾かなくてもいいようにと、特別な対応がされていた。
ミクが一年生の時の担任は、そのことが徹底されていたのか、一度もミクに対してストリープを弾くようにと言ってくることはなかった。
ところが、学年が変わるとともに変わった担当教師が、ミクにも授業に出る以上は、きちんとストリープを弾くようにと言ってきたのだ。
ミクに関しての引継ぎがきちんとされていないのか、単にその教師の方針なのかはわからないが、ピーチにとっては頭が痛い問題だった。
安心した顔になっているミクを見たピーチは、
「それはお母さんがどうにかするから、とりあえずミクは宿題をやって来なさい。今日もあるのですよね~?」
「は~い」
ピーチの言葉に、ミクは少し慌てた様子で自室へと向かった。
その顔には、宿題のことなどすっかり忘れていたと書いてあった。
それを笑いながら見送ったピーチは、いままで黙って話を聞いていたコレットを見て言った。
「ごめんなさい。ちょっと話をしてきます~」
「出来るだけ早い方が良いから、そのほうが良いわね。――行ってらっしゃい」
そう言いながら頷いたコレットは、ピーチに向かって軽く右手を振るのであった。
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管理層のくつろぎスペースに向かったピーチは、そこにミアがいるのを見つけて、内心で安堵のため息をついていた。
ミクの学園での話は、考助にもするつもりはあったが、すぐに対応ができるのはミアが一番なのだ。
「ミア、お話があるのですが~」
「あれ? 私ですか? ・・・・・・ああ、ミク関連ですか」
部屋に入って来るなりそう言ってきたピーチに、ミアが首を傾げた。
ピーチがミアに用事を持ってくるなんてことは、ミクに関することしかない。
ミアは、表舞台におけるミクの後見人をしているのだ。
そのミアに頷きながら、ピーチは考助にも視線を向けた。
「一応、コウスケさんにも話を聞いておいてもらいたいのですが~?」
「うん。それは勿論構わないけれど・・・・・・何があったの?」
考助がそうピーチに問いかけると、ミアも同じような視線を向けて来た。
それを確認したピーチは、先ほどミクから聞いた話をそのまま話し始めた。
ピーチの話を聞き終えたミアは、大きくため息をついた。
「はあ~。初年度は何事もなく終わったので安心していたのですが、そんなに甘くはなかったということですか」
「まあ、人が変われば対応も変わるだろうからね」
ミアの様子に苦笑しながらも考助は、そう答えた。
「それにしても、話を聞く限りでは、引き継ぎもまったくしていないように思えるけれど、どうなっているんだろうね?」
考助が小さく首を傾げながらそう言うと、ミアは首を左右に振った。
「どうなっているかはわかりませんが、そもそも引継ぎがされていなければ、それはそれで大問題です」
「そうだろうねえ」
いくら担当が変わったからといって、まったく一からやり直しになれば、前年度の講義が無駄になってしまう。
ただし、授業の内容が固定されていて教える内容に問題がないとしても、それ以外の部分での引継ぎがないというのは、やはり問題といえるだろう。
ミクの話を聞いただけでここまで考えるのは、少しやりすぎかもしれないなと思い直した考助は、ふと別の疑問が湧いて来た。
「そういえば・・・・・・ミクがストリープを演奏できない理由は、話しているんだよね?」
「それは当然です。単位に関わることですから」
いくら考助の関係者とはいえ、なんの実績や実力もなしに、単位の取得が認められるはずがない。
ミクは、実際に社交界などで演奏をして、周囲から認められているからこそ、実技はしなくていいと免除されているのだ。
ミアの答えを聞いた考助は、少し考えるように顎を撫でてから、再度聞いた。
「それって、教師たちにはどう伝わっているんだろうね?」
「えっ?」
少し目を見開いて首を傾げたミアに、考助は頷きながら続けた。
「いや、もしかしたら、引継ぎがされていないんじゃなくて、もともと伝わっている情報が少ないのであれば、こういうことも起こるかなって思ってね」
考助がそう言うと、ミアも同じように考え込むような顔になった。
考助が言っていることは要するに、教師陣に伝わっている情報が少ないがために、新年度になってより真面目な教師が、不正は駄目だと張り切っている可能性があるということだ。
仮にも身分によらない平等な学園を謳っている場としては、現人神の実子だからといって特別扱いは許さないというわけだ。
それなら、ミクに対する教師の態度も理解することができる。
むしろ問題なのは、きちんとした情報が教師たちに伝わっていないことだろう。
そう考えれば、ミクが一年生の時に担当した教師は、上から言われたままのことを単に実行しただけということになる。
教師としてどちらが良いのか悪いのか、非常に微妙なところだろう。
考助が言いたいことがすぐに理解できたミアは、わざとらしく頭に手を置いた。
「・・・・・・きちんと調べたほうがいいですね」
「だろうねえ。少なくとも、端からその教師を疑ってかからない方がいいかもしれないね」
考助がそう答えると、ミアはこれ見よがしにため息をついた。
「ハア。まったく・・・・・・どうしてこう問題がでるのでしょうか」
「何を言っているんだ。其方たちが入学をしたときも、同じようなものだったじゃないか」
そう言って話に割り込んできたのは、今まで黙っていたフローリアだった。
ミアたち兄弟が学園に入学したときも、様々な問題が出ていた。
勿論、できたばかりだったからということもあったが、それらの問題の中心にいたのは、大体がミアたちだった。
そして、それらの問題に最終的に対処をしてきたのがフローリアなのである。
否定できない事実をフローリアから突っ込まれたミアは、視線を彷徨わせてからニコリと笑った。
「ま、まあ、とにかく、きちんと事実を調べないことにはどうしようもありませんから、少し待ってください。ピーチ母上、ミクには、先生から要求されても断っていいと伝えておいてください」
「わかりました~」
ミアの言葉にピーチが頷いたところで、一旦このことに関する話は終わった。
ミアに対する突っ込みはどこからも起こらなかったのだが、ミアを除く全員が笑いをこらえるような表情をしていたので、皆がどう思っていたのかは一目瞭然なのであった。
ミクが演奏すると他の生徒に多大な影響を与えるので、授業で弾くのは厳禁としています。
ただ、その処置が問題を起こすこともあるようで・・・・・・。
ということで、この話は次話に続きます。
(何気にミアの登場が久しぶりで、作者のテンション↑↑)




