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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(6)最近の日常

 シルヴィアが百合之神社で儀式を行っていたその頃。

 考助はといえば、のんびりと始まりの家の周辺にある畑を耕していた。

 初期に作った畑のほとんどは、いまではスライムが管理している。

 考助がいま耕している場所は、そのスライムの手(?)が入っていない限られた場所だ。

 そんな畑を残しているのは、完全に考助の趣味である。

 自分の力だけで作り上げた畑が、どう成長していくのか、見るのが楽しみなのだ。

 それに、畑に関しては、神としての権能が出ていないので、変な意識をしなくても済む。

 別に魔道具作りに変なプレッシャーなどを感じているというわけではないのだが、ときには息抜き(?)もしたいのだ。

 

 そんな考助が鍬を振っている近くでは、つなぎのような服を身にまとい、ほっかむりのような布を頭に巻いた女性が同じ作業をしていた。

 もし第三者がその姿を見れば、農婦が必死に自分の畑を耕しているように見えたことだろう。

 同時に、身内の者が見れば、なにをしているのかと呆れるはずである。

 その女性とは、前ラゼクアマミヤ女王であるフローリアだった。

 

 何も考えずに鍬を振っていたフローリアは、ふと鍬の柄の部分に体を預けるようにしながらホッと息をついた。

「うむ。ときにはこうして何も考えずに単調な作業をするのもいいな」

「でしょう?」

 専業農家の方が聞けば怒りそうなフローリアの言葉に、考助も同意するように頷いた。

 考助とフローリアにとっては、農作業は息抜きや趣味であって、本業ではない。

 現に、一度この畑から収穫をした作物は、ごく普通の物であり、特別に優れている物ができたというわけではない。

 すぐ傍で、青々と茂っているスライム管理の畑とは、まったく別物なのだ。

 

 そもそも始まりの家で畑を作ったのは、考助の気紛れが始まりだ。

 別に専業農家と張り合うつもりもなければ、スライムが結果を出したのもただの偶然の産物でしかない。

 そのため、スライムが手を出していない畑は、いまでは申し訳程度の収穫物しかとれていない。

 それは、畑というよりも、どちらかといえば家庭菜園と言ったほうが正しいのだろう。

 

 そんな周囲の女性陣の評価にもめげず、考助が畑をいじり続けているのは、いまフローリアが言ったことが大きい。

「家に籠り続けているのが駄目だからっていうのもあると思うけれどね」

「それは・・・・・・今更ではないか?」

 始まりの家を得る前の考助は、ほぼ管理層に引き籠っているのが常だった。

 ときには長期の旅に出たりすることもあったが、基本的には管理層で過ごしているため、フローリアの言葉は間違っていない。

「それはいいっこなし」

 考助もそのことが分かっているので、敢えてそう答えてフローリアから視線をずらした。

 

 フローリアもそのことを突っ込むつもりはなかったのか、フッと笑った。

「そうか。まあ、それは良いが・・・・・・次はあの辺りをやればいいのか?」

「うん? そうだね。お願い」

「わかった。それじゃあ続きをやるか」

 フローリアがそう言って鍬を構えて、また作業をし出した。

 それを見ていた考助は、なにも言わずに同じように作業を開始するのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 適当なところで作業に見切りをつけた考助とフローリアは、始まりの家へ戻った。

 道具を片付けて、魔法を使って軽く汗を流してから家の中に入る。

 すると、リビングにはシュレインを除く女性陣が揃っていた。

 流石に小さい子を抱えているシュレインは無理だが、コレットやピーチも子供が大きくなって手がかからなくなっているので、始まりの家に来ることも多くなっている。

 

 考助とフローリアがリビングに顔を出すと、シルヴィアが立ち上がって言った。

「お帰りなさい。風呂沸いているけれど、どうしますか?」

 考助はフローリアと顔を見合わせてから頷いた。

「そうだね。先に入るか」

 魔法で簡易的に落としているとはいえ、完全に落ちているというわけではない。

 農作業を行ったあとは、大体風呂が先になり、一緒に入るのも定番である。

 別にエロ目的ではなく、そのほうが余計な土ぼこりなどが家の中を汚さなくても済むのだ。

 ちなみに、始まりの家の風呂は、考助の趣味もあって、十分な広さがある。

 

 

 フローリアと一緒に風呂から上がった考助は、既に夕食ができていると言われて食堂の席に着いた。

 勿論、女性陣も全員が同じ席に着いている。

 子供たちの食事は、セシルとアリサが面倒を見ている。

 子供がいないふたりは、ときどき考助の子供たちの面倒を見てくれているのである。

 別に考助が押し付けたわけではなく、二人の側からコレットやピーチに話をしてきた結果である。

 

 そんなわけで、大人たちだけでの夕食では、最近の近況の報告をそれぞれしていた。

 この日もシュレインがいなかったが、全員が揃って食事をすることなどほとんどない。

 子育てをしていれば、そうなるのも当然であり、考助たちもそれに不満があるわけではない。

 それに、近況の報告といっても特別ななにかがあるわけではない。

 日常で起こったちょっとしたことを話すくらいだ。

 

「それにしても、最近はあまり大きな出来事はないわね」

 なぜか考助に含みのある視線を向けながら、コレットがそう言ってきた。

 それに対して考助が反論するよりも先に、フローリアが反応した。

「まあ、基本的に塔の管理と畑いじりだけだからな。以前のように魔道具も派手に作っているわけではないから、こんなものではないか?」

 別に魔道具を作っていないわけではないが、噂になるような物は最近は手を出していない。

 折角あまり目立つような物は表に出さないと決めたので、その方針に従っているのだ。

 

 コレットとフローリアの言葉に、考助が少し不満そうな顔になった。

「別に、騒ぎを起こしたくて起こしているわけではないんだけれど?」

「そんなことはわかっている。考助の場合は、騒ぎの方から近寄ってきているからな」

 そう納得するような顔でフローリアが言えば、

「そうかな? 自分から突っ込んで行っていることも多々あると思うけれど?」

 と、コレットが言う。

 シルヴィアやピーチは、ふたりの言葉に笑っているだけだった。

 

 これには反論できないと悟った考助は、別に切り口から攻めることにした。

「それはそうかもしれないけれど、騒ぎの半分は皆のせいもあると思うけれど?」

 その考助の反撃に、集まった女性陣は全員考助から視線を逸らした。

 それぞれが、反論できないという自覚があるのだろう。

 考助が騒ぎの中心になることが多いのは確かだが、きっかけを持ってくることの半分くらいは、嫁さんズが引き金になっていたりするのだ。

 

 お互いに自覚を促したところで、突っ込みが止まった。

 ほぼいつも通りのやり取りなので、喧嘩するところまでは行かないようになっているのだ。

 もし誰かがそのときの気分で突っ込みすぎたとしても、別の誰かが途中で間に入ったりする。

 これが、考助たちの日常なのである。

いつもの繰り返しのような話ですが、たまにはこういうのも必要かと思いまして。

色々変わっていることもありますが、変わっていないこともあるのです。

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