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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(4)シュレインの悩み

 考助とフローリアがトワたちについての話を終えてからすぐに、次は自分だとシュレインが考助を見た。

「私も話があるのじゃが?」

「シュレインが? 珍しいね。勿論いいけれど?」

 シュレインから相談を持ち掛けられることは、大抵契約の儀式に絡んだ魔道具関連になる。

 だが、いまはシュレインも子育て中で、以前のように古い儀式を甦らせる作業は行っていない。

 そのため考助は、シュレインから相談されることがほとんど思いつかなかった。

 

 その考助の顔を見たシュレインは、苦笑を返した。

「なんじゃ、その顔は? 私だって、初めての事態には思い悩むことだってあるのじゃ」

「初めての事態?」

 意味が分からずに首を傾げた考助とは対照的に、フローリアが納得した顔で頷いた。

「あのな、コウスケ。シュレインが、いま初めて行っている事なんて、子育てくらいしかないだろう」

「あ~、なるほど」

 フローリアの言葉に、考助は少し気まずい顔になった。

 

 王城で育てなければならなかったトワたちとは違って、シュウの場合は、考助が頻繁に里に行ったり、シュレインが管理層に連れてきたりしている。

 ただし、考助にとっての常識的な一般的な家庭ほど子供に構っているわけではないので、引け目も感じていたりするのだ。

 もうすでに九人目の子供だというのに、未だにそんな感じなのは、やはり以前の世界での記憶を引きずっているからだ。

 シュレインを始めとした嫁さんズは、さほど気にしていない。

 なぜなら、自分たちも乳母に任せっきりなところがあるためであり、自分がしていないことを考助に押し付けるような性格をしていないためでもある。

 

 考助の顔を見たフローリアは、苦笑しながら言った。

「あのな、コウスケ。いい加減慣れろとは言わないが、諦めが肝心だと思うぞ?」

 こういうときは、シュレインは言葉は出さない。

 何かを言ったところで逆効果になると、フローリアたちのときに学習しているのだ。

 何事も役割分担が重要なのだ。

「あ~、いや、うん。わかっているんだけれどね。・・・・・・つい」

「まあ、コウスケの中に根付いている価値観だから仕方ないのかもしれないがな」

 フローリアも、考助が思わず反応してしまっただけということはわかっているので、それ以上は言わなかった。

 

 そもそも、考助が無理を言えば、管理層で子供たちを育てることはできるのだ。

 それをしていないということは、きちんとこの世界の常識に合わせようとしているためである。

 いまだに価値観の違いが出ていることが、考助にとっていいいことなのか悪いことなのかは、誰にもわからない。

 文字通り、アスラにさえわからないのだから、ほかの者たちにとっても同じことだ。

 だからこそ、嫁さんズも考助には強く改善するようにと言ったりはしていない。

 

 それはともかく、何となく微妙な空気になってしまったので、シュレインは話題を変えるためのも本来の話に戻すことにした。

「シュウのことじゃが、これからどう育てて行けばいいのかと悩んでいての」

「なるほど。親としての永遠の悩みだな、それは」

 シュレインの言葉に、フローリアは一瞬で理解できたようで、すぐに同調するように頷いた。

 

 逆に、考助は首を傾げながらシュレインを見る。

「どう育てるって、今まで通りのびのびとさせるんじゃないの?」

「あのな。のびのびさせるにも程度があるじゃろう? 奔放とわがままは、まったく別物じゃぞ?」

 なかには表裏一体という者もいるかもしれないが、少なくともシュレインは違うと考えている。

 人の性格は、個性によって変わるのだからそれは当然のことだ。

 

 考助は、シュレインの言葉を聞いてもなお、首を傾げたままだった。

「いや、それはわかるけれど・・・・・・。乳母さんは、きちんとシュウをしつけているように思えるけれど? それとも、なにか問題があるのかな?」

「ああ、いや、そういうことではなくての・・・・・・」

 考助にどう説明したものかといい淀んだシュレインに代わって、今度はフローリアが説明した。

「コウスケ。そなたもよくわかっていると思うが、この世界には立場というものがあり、責任もしっかりと決まっている。シュウの場合は、里を率いる者としてのものだが、それをどう負わせていいものかと、シュレインは言っているのだ」

 そうフローリアが説明したが、まだ考助はわかっていないような顔をしていた。

 その考助の顔を見たシュレインとフローリアが、同時に顔を見合わせて、説明を始めた。

 

 現在、ヴァンパイアの里の者たちは、ラゼクアマミヤというよりも外の世界に対して、中途半端な立場を貫いている。

 仲間を探すために外の世界に出ることはあっても、それはあくまでもヴァンパイアとしての都合であって、外と交流をするためではない。

 里と外との交流は、イグリッドが作った特産物や温泉宿としての観光地があるが、それは一部であってすべてのヴァンパイアやイグリッドがそうであるわけではないのだ。

 それは、どちらの種族も過去の経験があってのことなので、容易に変えられるものではないし、そもそも変える必要があるかもわかっていない。

 

 シュレインの場合は、過去の経験や考助たちとの付き合いで、ある程度の距離を保って里の運営をしている。

 ところが、最初から塔の中の里で生まれて育ったシュウは、そこでの環境しか知らないのだ。

 いくら大人たちが、ヴァンパイアに被った出来事を語ったとしても、それは遠い過去のことでしかない。

 そうした知識だけを植え付けられて育てるのか、あるいは外の世界もしっかりと見せて育てるのか、シュレインはそこを迷っているのだ。

 

 もしかするとシュウは、長としての立場を選ばないかもしれない。

 それはそれで構わないと考えているシュレインだが、シュウが将来長として立つことを選んだ場合には、外とのかかわり方によって、里の方針が大きく変わる可能性がある。

 普通に考えれば、里に閉じ込めて育てても碌なことにはならないともいえるのだが、エルフの里を見ていればそう簡単に結論を出していいことでもない。

 それゆえに、シュレインは悩んだうえで、考助に相談したのだ。

 

 

 シュレインとフローリアから交互に話を聞いて理解できた考助だったが、少し考えたあとに軽い調子で言った。

「うーん。そこはそんなに悩んでも仕方ないと思うんだけれど?」

「コウスケ?」

 あっさりと言ってきた考助に、シュレインが少し驚いたような顔になった。

「いやだって、セイヤとシアだって、結局は学園に通うことを決めたんだよ? 勿論、僕らの影響はあるだろうけれど・・・・・・それならそれで、どう教育しても外に出たがるということにならない?」

 エルフの里で育ったふたりの実例を出されたシュレインは、思わず言葉に詰まってしまった。

 

 そして、それにはフローリアも苦笑しながらも頷いた。

「まあ、コウスケが言ったことは少し極端だとは思うが、いまからそんな心配をしても仕方ないというのは同意する。なんだかんだありながらも、トワたちだってしっかりと育ってくれたしな」

 周囲の声というのがあったのも確かだろうが、結局トワは王太子としての義務を負ったまま育ち、いまでは立派に国王を勤めている。

 勿論、最初からそのつもりで育てていたということもあるのだが、それだけではないというのもフローリアの中には実感として存在している。

 結局、子供がどう育つのか、親が完璧にコントロールするなんてことは、不可能なのである。

 

 考助とフローリアから話を聞いたシュレインは、悩みながらも頷いていた。

 それを見ていた考助とフローリアは、苦笑しながらもそれ以上はなにも言わなかった。

 なぜなら、子供が育っていく中で、親もまた成長をしていくのだということを、これまでの経験でよくわかっていたからである。

うだうだ書いてしまいましたが、結局結論は出ず。

子育てなんてそんなものでしょうということでお願いします。(えっ!? 駄目?)


次は・・・・・・なんの話を書きましょうか。


※次回更新は7月3日になります

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