(3)トビの真価
来たときに比べテンションは下がっていたが、それでもまだ希望はあるということで、機嫌が直ったトワはルカとトビを連れて城へと戻った。
それを見送った考助とフローリアは、揃って始まりの家のリビングへと戻った。
どちらかが言い出したことではないが、なんとなく考助は、フローリアが始まりの家で話したがっていると察したのだ。
いまの管理層のくつろぎスペースだといろいろな人が出入りするので、秘密の会話をするのには適さなくなってきているのだ。
もっとも、現在でもくつろぎスペースに出入りする者は、考助たちの会話を漏らすようなことはしない。
どちらかといえば、夫婦のプライベートな会話をするために、始まりの家を使っているというほうが正しいかも知れない。
そんなわけで、リビングにあるソファに腰を掛けた考助は、たまたま休みに来ていたシュレインを横目で見てから、フローリアに向かった。
「――それで? なにか話したいことでもあるんだよね?」
「うむ。コウスケには隠し事ができないな」
そんなことを言いつつも、フローリアは笑顔を浮かべている。
なにも言わなくてもわかってくれているというのが、嬉しかったのだ。
そんな考助とフローリアを見て、シュレインはなにかがあったのかと内心で首を傾げていた。
シュレインはトワたちの話をまったく聞いていないので、くつろぎスペースでなにがあったのかはわかっていない。
ただし、フローリアの言動を見れば、これから話が出てくることはわかっているので黙っていた。
考助が先を促すような顔になったので、フローリアはシュレインの様子に気付きながらも話を続けた。
「トビが学園を卒業するまでと言っていたが、そんなにかかるのか?」
「ああ、そのことか」
フローリアの問いに、考助は納得した顔で頷いた。
元女王としては気になることがほかにもあるということはわかっていたので、何が最初に聞きたいことなのかが分からなかったのだ。
それに、フローリアが疑問に思うことは当然だと考助も考えている。
「まあ、最大かかってそれくらいだろうということだね。実際にはもっと早く作れるんじゃないかな? ・・・・・・トビが開発に飽きたとかならなければ」
そもそもトビは、魔道具の開発だけに時間を使っているわけではない。
フローリアの子供たちは全員そうだが、学園生時代はそれこそ王族の一員として、様々なことに時間を使っていたのだ。
それを考えれば、トビが魔道具の開発以外に興味を向けることは当然だと言える。
問題なのは、そのことを親がきちんと理解して、トビを導くことができるかどうかである。
女王という立場に着いていて、子育てのほとんどを侍女に任せていたフローリアだが、任せっきりにするのではなく、きっちりと方針を打ち立てたりして、子供たちを育て上げていた。
そのため、どういうバランスで王族の子供を育てればいいのかは、フローリア自身がよくわかっている。
「なるほどな。確かに悩ましいところか」
トビは将来国王になることがほぼ確定している。
ルカのように魔道具開発だけに時間を費やすわけにもいかず、どうやって王族教育との時間の折り合いをつけていくのかが難しいところだ。
もっとも、最低限必要なことは、学園に上がる前に終えているだろうとフローリアは考えているので、そこまで心配しているわけでもなかった。
腕を組んで首を傾げるフローリアに、考助が笑って言った。
「どちらかといえば、トビに必要なのは王としての資質のほうだよね? 本人が嫌がらなければ王になるのも確定だろうし」
「まあ、そうだな」
「それで両立が難しくなるようだったら、僕が手を出してもいいよ」
考助がそう言うと、フローリアがびっくりしたような顔になった。
最初の頃もそうだったが、特にここ最近の考助は、自分(の名前)が表舞台に出ないように、極力気を使っている。
だからこそ、その台詞に驚いたのだ。
そんなフローリアに、考助は苦笑をした。
「そこまで驚くことかな? 孫のために、少しくらい手を貸すのは、別にいいよね?」
「いや、別に考助が手を出すのを駄目だと言っているわけではないのだが・・・・・・」
フローリアにとっては、あの魔道具が与えるインパクトを考えれば、考助が手を出してくれるのはあり難いと考えている。
それほどまでにラゼクアマミヤにとっては内陸部への進出は大きなものであり、ひいては、トビのための大きな功績になるとわかっているのだ。
だが、だからこそ、考助が直接手を貸すとは思っていなかったのである。
戸惑ったままのフローリアに、それまで黙って話を聞いていたシュレインが口をはさんできた。
「ま、考助がいいと言っているのだから、別にいいのではないかの? あまり深く考える必要はないと思うがの?」
考助が世界に対して名前を出さないようにしているのは、あくまでも考助自身の性格と考えによるものでしかない。
別に神が魔道具を作って、世界に大きな影響を与えてはいけないなんてルールはない。
そんなものがあれば、そもそもステータスカード自体が世に出回るはずがないのだ。
敢えて軽い調子で言ってきたシュレインに、今度はフローリアが苦笑をした。
「いや、それはそうかも知れないが・・・・・・。それはともかく、シュウはいいのか?」
「ああ、シュウなら手伝いたちが見ているからな。むしろ私は追い出された」
「それはそれは」
自分にも身に覚えがあるシュレインの答えに、フローリアはますます苦笑を深くした。
基本的に子育てをしてくれる乳母というのは、母親の疲れたような姿を見せたがらないのである。
勿論、子供に色々な経験を積ませるために、仕事で疲れている姿を見せるのも大切だとわかった上での配慮なのだ。
なにやらシュレインと分かり合っているフローリアに、考助が話を戻して言った。
「とにかく、トビに関しては、あくまでも発想をしただけみたいだからね。ルカほど魔法陣とか魔道具開発に時間が取られるとも思えないよ。そんなに心配する必要はないんじゃないかな?」
考助やルカのように魔道具にのめり込んでいるのであれば、誰か(この場合はルカ)に魔道具作成を任せるなんてことはしない。
考助であれば、間違いなく思いついた時点で、研究室に籠って魔法陣や魔道具の開発をしているだろう。
それをあえてルカに任せているということは、考助から見れば、それこそ自ら動くのではなく、人の上に立って指示をするような資質を持っているように見える。
考助をまじまじと見て、なんとなく言いたいことが理解できたフローリアは、深々と頷いて言った。
「なるほど。確かにそうかもしれないな」
フローリアは、少しどころではなく、大いに含みを持たせるようにそう言ってきた。
それを綺麗に無視した考助は、わざとらしく天井を見て顎を手でこすっていた。
「これからの数年先、トビとルカが協力して、どんな物を作ってくるのか・・・・・・僕としては、そっちのほうが楽しみかな?」
ルカが新しい魔道具の発想が出来ないというわけではないが、トビが考えたという魔道具は、考助にとっても新鮮だった。
そういう意味では、すでに考助が手を出しても問題ない段階にあるともいえる。
それでもやはり、今のところは見守るだけにしようと決意する考助なのであった。
発想のトビです。
魔道具や魔法陣の開発そのものに興味がないわけではないですが、今のところは新しい物を発想するのが楽しいようです。
その調子で領地(国)経営も新しい風を・・・・・・吹いて大失敗しないように、周囲のフォローは必須でしょうね。




