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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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閑話 初めてのお客様(前)

 月明かりがこぼれる町の路地をひとりの冒険者が、ほろ酔い気分で歩いていた。

 その冒険者の名はボズ。

 ボズは、今歩いているカーディガンの町を拠点にしている冒険者だ。

 ボズは、カーディガンの町に渡って来てから既に十年が経っており、その実力と人柄もあってから冒険者仲間からはかなりの信頼を得ている。

 ボズもまた、居心地のいいカーディガンの町での生活に溶け込んでおり、結果として十年という歳月が流れていた。

 今日もまた、情報収集という名の免罪符を得て酒場でのひと時を過ごしたボズは、こうして家までの帰りの道を歩いているというわけだ。

 馴染みの店からのいつも通りの帰り道。

 たとえ酒が入っていたとしても、ボズは迷うはずもなく歩を進めていた。

 

 そんなボズは、ふと違和感でその場に立ち止まった。

「・・・・・・んー? なんだこれは?」

 たとえて言うなら、モンスターの群れの中に、変異種が混じっているのを確認したときのような微妙な感覚。

 勿論、町の中にモンスターが出ているわけではないので、命の危険を感じているわけではない。

 なにかいつもの町と違った感覚に、ボズは首を傾げて周囲を見回した。

 

 一度周囲を見回してよくわからずに首を傾げ、もう一度見回したが、その違和感の正体はわからなかった。

 それでもボズは、念を入れて三度目の確認を行った。

 もし仲間がそばにいれば、気にしすぎだと笑われただろうが、ボズはこの感覚に何度も助けられたことを良く知っている。

 そのため、決して無視をすることは出来ないとボズは考えている。


 それでも、酒が入っているせいかも知れないと、最後にもう一度周囲を見回したときに、違和感の正体に気付いた。

「――――なんだぁ、ありゃ?」

 そう言って首を傾げたボズの視線の先に、毎日のように通っている道になかったはずの物があった。

 朝、冒険者ギルドに向かう前に通ったときにはただの道だった一角に、なにか布のような物が垂れ下がっている。

 不思議なのは、布が下がっている棒を支えている物がなにもないはずなのに、しっかりと固定されていることだ。

 

 魔法的ななにかが働いているのかと、警戒しつつもボズはその垂れ下がった布に近付いて行った。

 月明かりしかなくてよく見えなかったその布が、一枚ではなく途中で別れるようになっていることが分かった。

「・・・・・・普通に考えれば、怪しいことこの上ないんだが・・・・・・」

 好奇心に負けたボズは、その布に触ってしまった。

「・・・・・・うおっ!?

 ボズがその布に触れた瞬間、それまでただ下がっている布が、途端に光り始めた。

 月明かりとわずかな魔道具の光しかない町の中を歩いて来たボズは、思わず手で両目を光から守った。

 

 少しの間目を守っていたボズだったが、目が光に慣れるとまじまじとその布を見た。

「布自体が光っている・・・・・・? 魔道具かなにかか?」

 自分自身はさほど魔法が使えないボズには、目の前にある布がなんであるかはわからない。

 それでも、あまり驚きが無いのは、魔道具という存在に慣れている冒険者ならではだろう。

 

 

 しばらくその布を押したり引いたりしていたボズだったが、まったく様子が変わらないことにじれて、ついに布をめくってその先に進んだ。

 ちなみに、布の様子を調べているときに、後ろに回りこんで違いが無いかも確認している。

 ボズが布をめくって先に進んだのは、何となくそうするのが正解なのではないかと考えたためだ。

 後から考えてもなぜそんなことを思ったのかはボズにも説明は出来ない。

 それでも、このときは自然にそうしたのだ。

 

 結果としてボズは布の先にある光景を見ることとなった。

「・・・・・・なんだこれは?」

 本来であれば、ただの道と両脇に家があるはずだ。

 だが、布を完全にくぐったボズの視界には、一軒の建物が建っているようにしか見えなかった。

 その建物の周囲は、ただの自然があるだけで、ほかにはなにも見当たらない。

 唯一あるのは、直前にボズがくぐった布が下がっているだけだ。

 


 ここでボズはふたつの選択肢を選ぶことになる。

 先に進むかもとに戻るか。

「――まあ、やっぱり先に進むわけだが」

 ここで後に戻るようであれば、冒険者などやっていない。

 勿論、出来るだけ注意を払って危険が無いようにするつもりはあるが、ここで引いているようでは、冒険者として先に歩むことが出来ないことをボズは知っていた。

 だからこその、先に進むという選択である。

 

 先に進むことを決めたボズだが、用心深さまで捨てたわけではない。

 建物の入り口思しきところまで一直線に行くのではなく、まずは周囲を調べようとした。

 すでに愛剣をその手に握ったボズは、正面にある入り口への道を外れようとして失敗した。

「――――なっ!?」

 布をくぐった場所からに数歩も進むこともできず、見えない壁があるかのように阻まれたのだ。

「まさか・・・・・・?」

 慌てたボズは、反対側も調べてみる。

 

 そして、ちょうど布と同じ1.5メートルほどの幅で両側に見えない壁があることが分かった。

 両方の壁の先には、建物の入り口が存在している。

「・・・・・・そういうことかい」

 どうあがいても真っすぐに進むことしかできないとわかったボズは、建物の入り口を睨み付けた。

 どうにも誘導されているようにしか見えない状況に、面白くないという感情が湧いてくるが、この不可思議な現状を打破するためには、前に進むしかない。

 この時点で、意地もあるが、ボズの中では後ろに下がるという選択肢は消えていた。

 あとから冷静になって考えれば、なぜそこまでむきになったのかと、首を傾げることになるのだが。

 

 とにかく、入り口まで進んだボズは、そこでようやくこの建物が店になっていることに気付いた。

 何しろ入り口のドアには『名もなき店』と書かれていたのだ。

 今まで経験したことが無い体験に気を張っていたボズは、その名前を見て、少しばかり緊張感を落とした。

 そしてボズは、そのままドアに手を掛けて店の中に進んだ。

 

 チリン、チリーン。

 ドア内側についていたのか、鈴のような音がボズの耳に聞こえて来た。

 そして、それと同時に店の奥から店員らしき声が聞こえて来た。

「いらっしゃいませ! ようこそ、名もなき店へ!!」

 その声は男のものだった。

店に入るだけで終わってしまった><

中途半端ですが、ここで区切って店の中の紹介は次に回します。

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