(10)奴隷の成長?
目の前で、夫婦がピーチとフローリアに支えられるのを見た考助は、心配そうな顔になった。
「ええと・・・・・・。大丈夫ですか?」
考助がそう呼びかけると、夫であるエトがジュパッと立ち上がって直立不動になった。
「は、はい! 大丈夫です!」
顔は青いままだったので、ちっとも大丈夫そうには見えなかった考助だったが、とりあえず頷いた。
エトの隣では、未だに夫人であるフランカが倒れたままだったので、そちらに気を取られていたせいでもある。
考助は、ペチペチとフランカの頬を叩いているフローリアを見て聞いた。
「そっちはどう?」
「まあ、ここに来るまで色々あって、最後に其方との対面だったからな。ショックが大きすぎたのだろう。そんなに心配しなくてもすぐに目が覚める……お、目が覚めたか」
フローリアがそう言うのとほぼ同時に、フランカが目を覚まして周囲をきょろきょろとしだした。
それを同じようにみていたエトが、何とも言えない顔で見ている。
フランカが心配なのは確かだが、仮にも奴隷になっている自分が、勝手なことをしていいのかと悩んでいるのだ。
それを確認した考助は、助け舟を出すようにエトに言った。
「フローリアが大丈夫だと言っているから大丈夫だと思うけれど・・・・・・安心させてあげたら?」
だが、考助のその気遣いは、結局無駄に終わった。
先ほどまでの状況を思い出したフランカが、エトと同じように勢いよく立ち上がっていきなり頭を下げたのである。
「もも、申し訳ございませんでした! このような無作法を・・・・・・!」
その様子を見て安心だと判断したのか、エトも同じく頭を下げる。
夫婦の様子を見た考助は、こめかみに手を当ててフローリアを見た。
このまま自分が話をしても進まないと判断したのだ。
そして、その意図を正確に読み取ったフローリアは、エトとフランカを見て言った。
「いきなりのことで驚いたかも知れないが、とりあえず落ち着いてくれないか? そうしないと話が進まないのだが」
「は、はい。申し訳ありません・・・・・・」
どうにか落ち着こうとしたエトが、そう言いながらフローリアに向かって頭を下げかけて、ふと何かを思い出すような顔になった。
「・・・・・・あっ! そ、そうか! 貴方が、ラゼクアマミヤの初代女王です・・・・・・ございますか!?」
「ひうっ!?」
夫の言葉に、フランカがもう一度気絶しそうなほど驚いていた。
幸いにして、もう一度倒れるようなことはなかったが、檻の中に入れられて多くの人に囲まれているような状態になってしまった。
フランカのその様子を確認したフローリアは、大きくため息をつきながらエトに言った。
「その通りだが・・・・・・とりあえず、こちらの話が終わるまで黙っていてくれないか?」
そうでもしないと、驚きっぱなしになっていつまでも話が進まないと判断したフローリアは、まずは一方的に自分たちの話をすることにした。
そうすれば、仮にもエトとフランカは奴隷なので、余計な口を挟むことはしなくてもすむようになる。
あとは、流れに任せて、驚きから醒めるのを待つのがいいと考えたのだ。
フローリアの言葉に、エトとフランカが慌てた様子で首を縦に何度も振った。
それを確認したフローリアは、そもそもの経緯から話し始めた。
といっても、フローリアから説明することはひとつしかない。
そもそもは、考助の店に立てる人材を求めていたのだから、それを話せばいいだけだ。
問題なのは、雇い主が現人神であるということだけだ。
フローリアの話を聞いたエトは、どちらに聞けばいいのかと考助とフローリアを交互に見つつ、最終的にはフローリアを見て聞いた。
「その店はどんな物を置くことになるのでしょうか?」
「ああ、それはコウスケが作った魔道具だな。・・・・・・ただ、あとからいろいろと増える気もするが」
フローリアは、シルヴィアの顔を思い浮かべながらそう付け加えた。
狐のお宿のことを考えれば、シルヴィアが魔道具屋に品物をおきたがるようになるのは間違いないと考えている。
実際、シルヴィアは既に頭の中で何かおけないかと考え始めているので、そのフローリアの想像は間違っていない。
その想像を振り払ったフローリアは、
「とにかく、基本的に置くのは魔道具だと考えてもらえればいい」
聞きようによっては曖昧すぎる言い方だったが、エトが気になったのはそこではなかった。
「魔道具・・・・・・残念ながら私たちの専門ではありませんが?」
「ああ、それは気にしなくても良い。どうせ最初のうちは、コウスケが値段設定をするはずだからな」
フローリアがそう言いながら考助を見ると、その当人は頷き返した。
「そうだね。変に高騰されても困るから、道具には持ち主設定もつけるつもりだし、あまり心配しなくてもいいかな? とりあえず、しっかりと接客と店の管理をしてもらえれば」
「そ、それくらいでしたら、大丈夫だと思います」
一瞬フランカに視線を向けて、彼女が頷くのを確認したエトは、恐る恐るといった様子で考助にそう答えた。
直接話しかけられたので、答えないわけにはいかないのだ。
それを見ていたフローリアが、大きくため息をついた。
「・・・・・・店番としての能力は申し分ないのだが、この分だと少々不安だな」
「そうですね~」
フローリアの呟きに、これまで黙ってやり取りを見ていたピーチが加わった。
「コウスケさんの店に置かれるのは、汎用品を除けばほとんどが自らの手で作られた物です。一つ一つ用途などを聞いて行かなければならないのですが・・・・・・だいじょうぶでしょうか~?」
そう言って確認するような視線を向けて来たピーチに、エトとフランカが同時にウッと言葉に詰まった。
本来であれば大丈夫だと答えたいところだが、相手が相手だけに即答できないのがつらいところだ。
それを見てやっぱりかと呟いたフローリアは、首を左右に振った。
「仕方ない。しばらく慣れるまでは、通訳を間に挟むか」
「・・・・・・通訳?」
意味が分からずに首を傾げる考助に、フローリアがニヤリと笑って言った。
「難しく考える必要はない。管理層にも、奴隷が出入りしているんだぞ? 彼女たちに頼めばいい」
「・・・・・・ああ!」
フローリアに言われてようやく思い出したかのように、考助は手をポンと打った。
セシルやアリサたちは、未だに奴隷の身分でありながら、考助と普通の態度で接してくれる数少ない存在である。
フローリアは、彼女たちの誰かをしばらく間に挟めばいいと言っているのだ。
結局、エトとフランカは、すぐに考助に慣れることが無かったので、フローリアの提案を受け入れて間にセシルやアリサに入ってもらうことにした。
自分たちと同じ奴隷身分の者が、ごく普通に(といってもきちんと敬意をもって)接しているのを見て、エトとフランカも徐々に考助に慣れていくことになる。
そして、実際に店の詳細の説明をして驚かれ、さらには売りに出す商品について話をするとさらに驚き、値段の話をすると気絶しそうなほどに驚いたエトとフランカは、値段設定は自分たちと要相談ということまで言ってくるようになった。
もっとも、それを傍から見ていた考助は、それを成長と喜んでいいのか、微妙な気持ちになっていたのだが。
とにかく、エトとフランカという夫婦奴隷を迎え入れて、考助の新たな店はようやく正式にオープンすることになるのであった。
驚きっぱなしの奴隷夫婦でした。
最後はあっさりと書いていますが、そこにたどり着くまでにいろいろと葛藤があったりします。
・・・・・・が、それはバッサリカット!w
次は、店のオープンに着いて、お客視点から書きます。・・・・・・はずです。・・・・・・だと思います。
 




