(5)考助のこだわり?
机の上に並んでいる用紙を眺めた考助は、大きくため息をついてから言った。
「うーん。さすがにこれを全部実行するのは無理だから、僕が適当にピックアップして、あとから皆の意見をもらうようにしたほうがいいかな?」
「まあ、それが無難だろうな。駄目なら駄目という意見も出てくるだろうしな」
考助の言葉に同意しながらフローリアが頷き、シルヴィアとコレットも納得の表情になった。
考助の言う通り、もし皆の意見をきっちりと実行すれば、店そのものは目立たないのに、人の噂で非常に目立つ存在になることはわかる。
それはもう避けられなさそうなので、考助に任せてしまっても同じだろうという心境なのだ。
ついでに、先ほどの件で、結局自分たちも考助のことを「ああだ、こうだ」と言えるような立場ではないことに気付いていた。
どう意見しても結局突っ込まれるのであれば、考助に任せてしまおうというわけである。
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始まりの家に戻った考助は、皆が書いてくれたメモをまとめた紙を眺めていた。
一応、書かれていることをすべてまとめたのだが、改めて見直すと中々参考になる意見も多かった。
勿論、中には実行してはまずいだろうというレベルのものもあるのだが、そこはご愛敬でスルーすることにしている。
それでも、そういった意見を最初から省いていないのは、どこかで何かに使えるかもしれないからである。
今回の件で使えなくても、別のタイミングで使う機会があるかもしれない。
そういった意味では、どの意見も考助にとっては必要なものだ。
悩める考助の元に、フローリアが近寄って来た。
「どうだ? 少しは進展したか?」
「いやー。まだまだ。どれもこれも実行できそうな分、やってみたいと思うことは多いかな?」
「そうか」
少しだけ悩んだような顔で頷いたフローリアに、考助は笑って続けた。
「大丈夫だって。そんなに極端におかしなものは選ばないから」
流石の考助も、例のシルヴィアが入れて来た意見は取り入れたらまずいということはわかる。
神々の加護を得たお店なんて、道具を求めてくるお客だけではなく、各地から聖職者が来ることになってしまう。
道具やお店で騒がれることになるのは仕方ないと割り切っても、そのほかの要素は邪魔になるだけだ。
フローリアはここで、考助の言葉に首を左右に振った。
「いや、そういうことではなくてな。折角ちょうどいい例があるのに、どうしてそれを使わないのかと少し不思議に思ってな」
「うん? ちょうどいい例?」
フローリアが言っている意味が分からずに、考助は首を傾けた。
「狐のお宿のことだ」
フローリアが短くそう言うと、考助は「ああ」という顔になった。
狐のお宿は、相変わらず人を選ぶ宿として、塔にいる者たちにとっては人気の場所となっている。
その存在は、百合之神宮内における狐の扱いと相まって、現人神が運営している宿として囁かれていた。
フローリアは、その狐のお宿に今回つくる魔道具屋を併設すれば、今の悩みの大半は解決するのではないかと言っているのだ。
ただ、考助としては、魔道具屋を狐のお宿に併設するつもりはない。
「狐のお宿と魔道具屋は、客層が微妙にずれているからね。ちょっとどうかと思っているんだ」
「そうか? 冒険者も出入りしているんだから、ほとんど変わらないと思うんだけれどな?」
狐のお宿には、冒険者以外の者たちも選ばれて入ってはいるが、やはり場所が塔ということもあって、やはり三分の二以上のお客が冒険者となっている。
これから作ろうとしている魔道具屋には、冒険者が使う物だけを置くつもりはないので、微妙に客層がずれていると考助は考えているのだ。
勿論、まったく作らないというわけではないので、フローリアの意見が的外れというわけではない。
フローリアの質問に一度頷いた考助は、正直に今考えていることを話すことにした。
「言いたいことはわかるんだけれどね。やっぱり作る方としては、客層に縛られることなくモノづくりをしたいんだよね」
「そんなものか? どうせ道楽の店になるんだから、客層なんて気にせずに好きに物を作って行けばいいと思うのだが?」
首を傾げながらそう聞いていたフローリアに、考助は苦笑を返した。
「いや~、理屈としてはそうなんだけれどね。やっぱり店を出すとなったら、そういったことも気になるんだよ」
「・・・・・・そんなものか?」
フローリアは、考助が言っている意味は分かるのだが、納得ができずに不思議そうな顔になった。
そもそも今回作ろうとしている店は、あくまでも考助が作った物を物置に死蔵させておかないために作る。
そのため、本来は、客層どころか売り上げさえも気にする必要はない。
それを考えれば、フローリアが言った通りに、店の売り上げなど気にせずに好きな物だけを作って出していけばいい。
それはその通りなのだが、そこは性格なのか気質なのか、ただ赤字だけを垂れ流す店を作るのは、考助としては気になってしまう。
どうせ店を出すのであれば、しっかりと黒字にしたいと考えてしまうのだ。
だからといって、狐のお宿に併設しても好きな物が作れなくなるというわけではない。
結局、考助が引っかかっているのは、せっかく狐たちが頑張っている宿に相乗りするのではなく、独立して運営していきたいということなのだ。
「――というわけで、僕の中では、狐のお宿との併設は、あまり考えていないかな?」
考助が一通り説明すると、フローリアはようやく納得の顔になった。
「なんだ。結局のところ、魔道具屋単独でどこまで出来るか試してみたいということか」
「いや~、それはどうだろう? 例えばシルヴィアが薬とかお守りを出したいと言えば、それは許可するつもりだしね」
別に考助は、自分が作った魔道具だけを売りに出すつもりはないのだ。
考助の言葉に、フローリアは腕を組みながら首を傾げた。
「いや、ますます意味が分からなくなったのだが・・・・・・とりあえず、狐のお宿に併設するつもりはないってことか」
「・・・・・・うん。まあ、そういうことだね」
フローリアの言葉を聞いた考助は、結局自分が思っていることを説明するのは諦めた。
突き詰めてしまえば、自分の我が儘ということになってしまうので、これ以上、他人に上手く説明できる自信がなかったのだ。
実は考助も、フローリアに説明している間に若干混乱してしまって、単に独立した店としてやってみたいと思っているだけだと言えばいいということを忘れていたりする。
考助は後からそのことを思い出すのだが、結局フローリアには言いそびれてしまって、数日経ってから話すことになるのであった。
ぐるぐる悩んでいるときの思考と、フローリアに説明しているときの思考が混ざって、上手く説明できなかった考助でしたw
とにかく、狐のお宿との併設は考えていません。
折角なので、狐の力を借りずに独立してやりたいですから。




