(3)闇の歴史的背景
前半説明回。
一口に闇の者、影の者、といってもその種類は、行う内容によって様々なものがある。
例えば、サキュバスたちは、諜報を始めとした裏の仕事全般を行っている。
ただしそれは、どこかの国の王や貴族に仕えたうえで、そこからの指示によって様々な後ろ暗い表に出てこない仕事を行う。
それとは別に、町中での窃盗や強盗など、犯罪を行う者たちをまとめているような組織もある。
そうした組織は一般的に闇ギルドなどと呼ばれているが、それはあくまでも分かり易くするためであって、よほどの大組織にならない限りは、自ら闇ギルドを名乗ることはほとんどない。
それもそのはずで、そんな組織が表だって名前を出すようになれば、即騎士や衛兵の取り締まりの対象になるためだ。
表に名前が知られるようになる程の闇ギルドとなれば、それは既にそうした者たちとある程度の繋がりを持っていて、潰されることが無いということを証明しているようなものである。
もっとも闇ギルドの場合、絶対につぶされないという本拠地を持っていて、それ以外の町では潰されないように行動をするというのが定番になっているのだが。
このように、表沙汰には出来ない後ろ暗い仕事をしている組織は、様々な形態がある。
諜報組織、闇ギルド、影、闇、等々。
一般の者たちにもいることは分かっていても、ほとんど直接関係することが無いそう言ったものたちは、様々な呼ばれ方をしている。
行っていることの内容によっても違っているのだが、それには根本的な理由がある。
もともと闇に生きる者たちの始まりは、商人たちが行っていた情報交換、すなわち諜報活動だと言われている。
商人たちにとっての情報は、ときに商品そのものよりも価値があるものになる。
それらの情報が、商人としての成否を分けると言っても過言ではないためだ。
それらの情報に目を付けた貴族階級や王位にある者たちが、そうした活動をしている者たちをこぞって重用し始めた。
そうして上位者に雇われた者たちは、次第に情報を集めるだけではなく、表で地位のある者たちには出来ない後ろ暗い作業にも手を染めていくことになる。
それらの仕事をこなしていくようになれば、王族や地位の高い者たちにとっては、使い勝手がよくかつ簡単には手放せなくなるような存在になって行った。
その理由は簡単で、そんな仕事をするような組織は、簡単には育てられないからである。
それらの歴史の過程で、種族として見目麗しい者が揃っているサキュバスが、それぞれの国や組織で重要な存在として地下に潜って行くことになった。
逆にいえば、そうした地位が高い者たちにとっては、サキュバスは腕のいい後ろ暗い仕事をしていく者たちという評価を得ていくことになる。
それらの元から地位のある者たちに雇われているような組織は、闇や影といった呼ばれ方をしていくことになる。
そして、それとは対照的に、街の中で窃盗や強盗などを繰り返したりする盗賊などをまとめて行った組織を闇ギルドと呼ぶのだ。
闇や影と闇ギルドは、そもそもの成り立ちが根本から違っているので、呼ばれ方も違っているのである。
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今更ながらにピーチから影の者たちの歴史を聞いた考助は、大きくため息をついた。
「わかってはいたことだけれど、どんな組織にもそれなりに歴史というものがあるんだね」
「それはそうだろう? いきなりひょこっと立ち上がって来るような組織はない。あるとすれば、其方のように別の世界の知識を最初から持っている者が、立ち上げるようなときだ。それこそ、クラウンのように」
肩をすくめながらそう補足したのは、同じように話を聞いていたフローリアだった。
フローリアは、直接王国にいる影の者を使うような立場ではなかったが、それらの歴史はある程度知っている。
ただし、それはあくまでもある程度であって、完全に知っているのは、雇っている者か雇われている者たちだけになる。
そもそも闇ギルドと違って、影の者たちは、表に知られないようにして活動することがほとんどなので、成り立ちを知られるようなことはほとんどない。
フローリアの言葉に納得した考助は、頷きながらピーチを見た。
「話の腰を折ってごめん。それで、わざわざこんな話をしたのには、理由があるんだよね?」
ピーチが自分から『仕事』に関わる話をすることは、ほとんどないため今回もきちんと理由があることはわかっている。
「はい~。ここで先ほどミクから聞いた話に繋がるのですが、屋台そのものを使うのではなく、裏から動かして物事を進めるのは、どちらかといえば闇ギルドではなく、私たちの領分なのですよ」
「そうなの?」
そんな違いがあるとは、まったく思っていなかった考助は、不思議そうな顔になって首を傾げた。
そんなはっきりとした見分け方があるのであれば、一般のとはいわないまでも、ある程度の階級の人間には広まっていてもおかしくはないと考えたのだ。
だが、フローリアの顔を見る限りでは、そんな話は初めて聞いたという顔になっている。
この差は何なのかと不思議に思ったのだ。
その考助の疑問が分かったのか、ピーチは何とも言いにくそうな顔になって言った。
「別に、闇ギルドが同じことをしないというわけじゃないのですけれどね~。なんというか、こればっかりは言葉にできない感覚で・・・・・・」
ピーチ自身も上手く説明できない様子で、困った様子になっていた。
考助もピーチがその道のエキスパートだということは分かっているので、強く否定するつもりはない。
「ああ、ゴメン。ちょっと不思議に思っただけだから。あまり気にしなくていいよ。それよりも、その屋台を動かしたのが、ピーチたちの領分だったとして、何か問題があるのかな?」
「えーと。問題というか、まだそれが問題になるかどうかが分からないというべきでしょうか~」
ピーチにも、今のところ具体的に何かが起こるということが分かっているわけではない。
そもそも現在わかっているのは、ミクが感じた違和感だけで、それをこれからピーチが調べなければならないところなのだ。
そんな状態で、何かが起こっているのかと聞かれても、ピーチにも答えようがない。
すぐにそのことが分かった考助は、再び謝罪することになった。
「いや、ごめん。今そんなことを聞かれても、ピーチにも分かるはずがないか」
やらかしてしまったという顔をした考助に、フローリアが少し呆れた視線を向けた。
「コウスケもあまり無茶なことは言うな。それよりも、今はミクやピーチの感覚を信じる方が大事ではないか?」
「それもそうだね。ピーチ、ごめんね」
先から謝ってばかりの考助に、ピーチは少し慌てたように首を振った。
ピーチにとっては、別にそこまでしてもらうことのほどではない。
なんだか考助の謝り倒す時間になってしまったが、とにもかくにも、ピーチが実際に動いて調べてみないことには、何が起こっているのかもわからない。
ピーチは早速翌日から動くようで、考助たちもそれに合わせて行動することになった。
といっても、考助が特に何かをするというわけではなく、いつでもすぐに連絡が着くようにしておくくらいが、考助の出来ることだ。
下手に考助たちが動くと、もし本当になにかの組織がいた場合には、対処されてしまう可能性もある。
こういうときは、変に動かずに専門家に任せるべきだと考助たちは考えているのであった。
この説明をしたかったがために、今章を始めたようなものですw
勿論、これらを踏まえたうえで、今後の話が進んで行くわけですが・・・・・・。
果たしてどうなって行くのでしょうね。
(これだけフラグを立てておいて、実はミクの勘違いでしたということはありませんw)
 




