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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(11)厳しい(?)ルール

 考助が、獣人たちの移住にわざわざ準備期間を設けたのは、別に不満分子のあぶり出しのためだけではない。

 アカツキから話を聞いただけでは分からなかった一族の生活様式を見たかったのだ。

 とはいえ、狐の獣人族だからといって、特別な生活をしているわけではない。

 基本的にやっていることは、他の種族と同じで、用意するべきものもほとんど違いはなかった。

 それがわかったことで、これから移住する階層に、必要な環境を用意してあげることが出来た。

 考助が用意したのは、一族の者たちが住むために必要な平原と、必要最低限の物が用意できる資源だ。

 資源の中で一番の筆頭は、当然というべきか、岩塩だった。

 海で用意することもできなくはなかったが、もともと彼らは岩塩を使うことに慣れているということで、そちらを用意したのである。

 その他にも必要とする資源は用意したが、あとは獣人たちが必要なものを自分たちで用意する必要がある。

 考助がすべての物を用意することは出来ないので、それは当然だろう。

 

 そんなこんなで、彼らが準備期間として浮遊島に移り住んでから半月が過ぎていた。

 翌日には約束していた観察期間(?)が終わって、脱落者の振り分けが行われる。

 誰が脱落するかは翌日に発表されることになっているが、この日の夕刻に、アカツキが考助の前で頭を下げていた。

「――申し訳ありませんでした。私たちでは、どうしても彼らを説得することは出来ませんでした」

 アカツキが言う彼らが誰のことであるのかは、言うまでもない。

 考助もとっくに把握しているので、アカツキたちの努力(?)についてどうこう言うつもりはなかった。

「いや、別に謝ってもらう必要はないよ。こっちは最初に言った通り、受け入れないだけだから」

 考助がそう言うと、アカツキは若干顔をゆがませた。

 

 できることなら一緒に移住したいという思いがあるのは分かるが、そこは考助にとっても譲れない一線でもある。

 ここで甘いところを見せてしまえば、もし今後他にも塔に受け入れてほしいという種族が出てきたときに、同じように譲らなければならなくなる。

 そうなれば、塔の中での秩序が乱れてしまう可能性も多分にある。

 それは、考助にとっては一番起こってほしくはないことなのだ。

 

 だからこそ、考助はしっかりとそのことをアカツキに説明をした。

「悪いけれど、こればかりはこっちも譲れないからね。最初に約束したことすら守れないようでは、移住した先で勝手なことをされそうだから」

 考助がそう言うと、アカツキは首を左右に振ってから頭を下げた。

「いえ、申し訳ありません。そういうことではありません。結局説得できなかった自分を不甲斐なく思っただけです」

「うーん。それは仕方ないんじゃないかな?」

 きわめて軽い調子で言った考助だったが、その言葉になにやら重みを感じたアカツキは、下げていた視線を上げて考助をジッと見た。

 

 アカツキからの視線を感じながら、考助は浮遊島の城から見えるはるか先の光景を見ながら続けた。

「これは種族関係ないと思うんだけれどね。どんな人にも信念や譲れないという物はあるからね。もしそれを、自分の言葉だけで説得できると考えているのであれば、それは傲慢以外の何物でもないと思うよ?」

 これは、多種多様な種族が存在する世界に来た考助が、これまで生きて来た中で得た結論だった。

 違う種族が多く存在するということは、それだけ多様な考えや常識が存在している。

 それらをひとつの信念で縛ろうとすることは、それは間違いなく押し付けでしかない。

 これは考助の考えなのだが、世界には「これで間違いない!」という正しい価値観など存在していないのだ。

 

 その言葉を聞いたアカツキは、しばらく同じ状態のまま考助を見続けていた。

 やがて、彼の中で何かの結論が出たのか、もう一度頭を下げながら返答した。

「確かに、私たちがしようとしていたことは、彼らにとっては押し付けなのかもしれません」

 アカツキとしてはせっかく移住を希望したのに、このまま元の里に返されるのは、気の毒であるし勿体ないと考えていた。

 ただ、彼らにとっては、移住先のルールを守ることよりも、自分たちの信念のほうが大切だというのであれば、アカツキがしようとしていたことは、余計なお世話でしかない。

 考助が言った「傲慢」というのは、少し強い言葉ではあるが、彼らの側からすればそう受け止められても仕方のないことだ。

 

 反省する様子を見せるアカツキに、これまで黙って話を聞いていたフローリアが言った。

「これから移住することになる場所は、これまでの場所とは違って他の種族も存在している。となれば、当然違った常識もあって、最低限のルールは必要だからな。それが理解できないようであれば、退場してもらうのは仕方のないことだ」

 フローリアの言葉に、アカツキは頷いた。

 それは、アカツキ自身が、アマミヤの塔に着くまでの旅の間に接して来た様々な種族との交流で経験してきたことだ。

 その長い旅の間に、アカツキは何度も自分の中にあった常識が壊されるのを実感していた。

 だからこそ、塔の階層に移り住む場合には、最低限のルールが必要だということは、よくわかるのである。

 一族が受け入れられるか分からない時には反発するような気持ちも持っていたが、今のように受け入れてくれる体制を取っている状態では、何でもかんでも受け入れろというつもりはない。

 

 今後の塔の運営を混乱させる可能性がある以上、全ての仲間を受け入れてくれとはアカツキも言えない。

 特に、文句ばかりを言っている者たちの実態を知っているだけに猶更だ。

「本当なら神の慈悲とかで全員を受け入れられればいいんだろうけれどね。残念ながら僕にはそんな余裕はないから」

 あっさりと神らしくない(?)ことを言った考助に、アカツキは慌てて首を左右に振った。

「いいえ! きちんと私たちを受けいれてくれる場所を用意してくださっただけでもあり難いです!」

 はっきりとそう断言して来たアカツキは、初めて塔で見たときと比べて、何かが吹っ切れているように見えた。

 その何かがなんであるかは考助にも分からなかったが、少なくともそれは良い変化のように思えるのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 浮遊島での生活の最終日。

 予定通りに、塔の階層に受け入れる者と受け入れられない者の振り分けを行った。

 排除をしたのは、夜に不満を漏らしていた者たちだけではなく、ほかにも理由があって不合格とした者もいた。

 それでも全体の人数からすれば、十分の一にも満たない数で済んだ。

 この「済んだ」というのは考助の感想で、獣人たちからすれば、やはり悲しそうな顔をする者も出ていた。

 それは当然のことで、中には所帯を持っている者で、相手だけが不合格になった者もいたためだ。

 

 そうした者たちを敢えて一緒に不合格にしなかったのは、当人にはきちんと資格があることを示すことで、今後の生活をどちらで送るかを選ばせるためだ。

 相手と一緒に元の里に戻るもよし、いっそのこと別れてそれぞれで新しい人生を進むもよし、それは当人たちの問題とするべきという方針だった。

 そのための相談をする期間もきちんと設けている。

 ただしそれは、浮遊島で引き続き生活をしていくわけではなく、一時的に考助の創った神域へと移動して決めてもらうことになっている。

 その期間は一週間ほどで、あとは完全に別れて生活をすることになった。

 勿論、完全にそれで決定するほど考助も鬼ではなく、別れて塔の階層に移った者で、やはり元の里に戻りたいという者は、いつでも戻すつもりでいる。

 ただしそれは、あくまでも一方通行で、もう一度塔の階層に戻ることは出来ない。

 そうしたこまごまとしたルールを受け入れた者だけが、新たな塔の住人として加わることになるのであった。

これにて狐の獣人たちの受け入れ話は終わりになります。

どの階層に移住したかは敢えて書きません。(決めてないともいう)


今回は今までと違ってルールを決めたうえでの受け入れになりました。

今後の為にも必要な措置だと思うので、仕方ありませんね。


※明日(21日)の投稿はお休みになります。

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