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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(6)神側の事情

 神域における調査は困難を極めた――わけではなく、広い神域にいる女神たちに連絡する手段が限られているため、時間がかかっていた。

 勿論、緊急事態にはあっという間に連絡を取る手段はある。

 だが、今回はそんな事態にはなっていないため、ゆっくりと女神たちの口を伝って話が広まって行ったのだ。

 それでも、考助が関わっているということで、伝わる速度は普段よりは早かった。

 ジャルが女神たちに話をして、数時間で当事者が名乗り出て来たのだから、予想以上の速さだった。

 ジャルは、場合によっては一日程度かかってもおかしくはないと考えていたのだ。

 

 恐縮したように自分の目の前で畏まっている女神を見て、ジャルは気楽な調子で声をかけた。

「そんなに怯えないで頂戴。別に、叱るつもりはないんだから」

「はっ! はい!!」

 ジャルとしては優しく言ったつもりだったのだが、そんな効果はまったく見込めず、相手の女神は完全に固くなっている。

 下手をすれば、追い詰められた兎のように、そのうちにプルプルと震え出しそうだった。

 

 これは当人の口から聞きだすのは無理だと判断したジャルは、さっさと自分で確認をしていくことにした。

「それじゃあ、私が質問するから答えられることには答えて。答えたくないことは黙っていていいから」

 一応そう保険を与えた後で、ジャルは続けて本題に入った。

「コウスケの所に、獣人族を導いたのは貴方ね?」

「は、はい。一応、加護を与えた者がいたので・・・・・・」

 加護を与えるときには許可が必要になるが、その後は神託をすることなどは、規則が弱かったりする。

 特に、目の前の女神のように、神としての力が弱い場合は、許可などほとんど必要としていない場合が多い。

 

 そのことを思い出しながら、ジャルはさらに続けた。

「そう。それは貴方としては当然のことよね。それよりも、私たちに許可を求めなかったのはなぜ?」

 ジャルがそう聞くと、初めてその女神は驚いたような顔になった。

「あ、あの。私はきちんと報告書を出しましたが・・・・・・?」

「え? うそ?」

 初めて聞く事実に、ジャルは目を丸くした。

「本当です。私が初めて考助様と対面したときに、繋がりができたので、それを使えればと・・・・・・」

「貴方が初めて考助と対面できたのは、いつ頃?」

「ええと・・・・・・そうですね。ちょうど、そちらのお二方が加わった頃かと思います」

 目の前の女神は、お二方といいながら、ジャルの後方に控えていた二柱を見た。

 

 その二柱の女神は、ジャルの仕事が忙しくなって、補助として着くようになった女神たちだ。

 そのことを思い出したジャルは、同時にサァーッと血の気が引いたように青い顔になった。

「えっ!? ええと? 二人は知っている?」

「さて、少なくとも私は見ていません」

「私も同じです」

 返って来た答えにジャルは、ますます追い詰められたような顔になった。

 

 不意に立ち上がったジャルは、目の前に座っている女神に向かって言った。

「そ、そう。わかったわ。ありがとう。今日はもう良いから――――」

「どこがもういいのですか。もっと詳しく聞くべきことはあるでしょう?」

「――ひゃい!!」

 突然割り込んできた声に、ジャルは素っ頓狂な声を上げた。

 その声の持ち主が誰なのか、姿を見なくてもよくわかっている。

 

 ガタガタと震え出したジャルは、ぎこちない笑顔を浮かべながら後ろを振り返った。

「エ、エリス姉様。なぜここに?」

「なぜとは不思議なことを。ジャルが珍しく女神たちに呼びかけているという話を聞いたから、こうして様子を見に来たのではありませんか」

「めめ、珍しいということはないと思いますが?」

「そうですか? それはまあともかくとして、先ほどから何を隠そうとしているのでしょうか?」

 そう言いながらジッと自分を見つめてくるエリスの目を見て、ジャルは逃げられないと観念するのであった。

 

 

 ジャルからすべての話を聞いたエリスは、呆れたようにため息をついた。

「――つまりは何ですか。元はこの女神がきちんと報告していたものを、あなたが見逃していたせいで、考助様に迷惑をかけたというわけですね」

「め、迷惑ってほどのことではないと――」

 何とか量刑を軽くしようと奮闘しようとしたジャルだったが、エリスに軽くあしらわれた。

「誰がどう見ても迷惑が掛かっているでしょう。・・・・・・まったく。いくら忙しい時期で、独りで奮闘していたからといっても、こんな重要なことを見逃すなんて――」

 さらにエリスのお小言が続きそうな雰囲気を察したジャルは、慌てて思い出したようなふりをして言った。

「そ、そうだ! このことはきちんと考助に伝えないといけないから、私が・・・・・・」

「私が伝えます。貴方は、きちんとここで反省していなさい」

 考助を口実に逃げようとしたジャルだったが、あえなく失敗してエリスにつかまった。

 こうなっては、いつものように逃げることは不可能だと、ジャルはカクリと肩を落とした。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 ジャルと話をしていたはずなのに、何故かエリスからの交神を受け取った考助は、話を聞いて納得したように頷いた。

「――――なるほどね。要するにジャルのところで連絡が滞っていた、ということかな?」

『簡単に言うとそういうことになります。・・・・・・全く。これほどの長い時間見つからなかったのは、奇跡と言っていいでしょう』

 誰にとっての奇跡だったのかなと聞こうとした考助だったが、すぐに誰かさん(ジャル)に対する説教がひどくなりそうだったので、やめておいた。

 代わりに、今回の件の詳細をさらに聞くことにした。

「簡単に言えば、すぐにジャルを通して僕に伝えられるはずの情報が来なかったことで、一方的にアカツキの一族に伝わったと。そして、その少ない情報をもとになったから、これだけ時間がかかったということでいいかな?」

『はい。そういうことになります』

 今もエリスの傍にいる女神は、きちんと神託という形でアマミヤの塔に助けを求めるように伝えていた。

 だが、その関係は既に弱くなっていて、時間が掛かった上に、情報も制限されて伝わってしまった。

 結果として、アカツキの元に伝わった情報は、ごく限られたものとなっていたのだ。

 

 話の流れを把握した考助は、肝心なことをエリスに聞くことにした。

「それで? 彼らの受け入れは、そちらからの要請ということかな?」

『それはありません。どうするかは考助様が判断なさってください。神託を出した彼女も、考助様が拒否をすれば諦めると言っています』

 そのあまりにあっさりとした返答に、逆に考助のほうが戸惑ってしまった。

「あれ? 本当にそんなんでいいの?」

『いいのですよ。そもそもこの世界に、絶滅寸前になっている動植物がどれくらいいるとお思いですか? そのすべてを考助様の塔に受け入れろなんてことは、こちらからは言えません』

 聞きようによっては非常に冷たい言い方だが、世界を管理している女神らしい言い方に、考助は思わず苦笑をしてしまった。

 エリスの言い分に、納得できる自分がいて、少しだけ驚いたのだ。

 

 それはともかく、あとは自分の決定次第ということが分かった考助は、エリスに礼を言った。

「とりあえずわかったよ。調べてくれてありがとう」

『礼を言われることはありません。もともとは、こちらの不手際が原因なのですから』

 その冷え切った声に、考助はこの後のジャルは大変だろうなと他人事のように考えつつ、エリスとの交神を終えた。

 神側の状況さえわかってしまえば、あとは自分の好きなようにできる。

 その情報を手に入れた考助は、さてどうするかなと、気絶したままのアカツキを見てそう考えるのであった。

大体ジャルのせい。


なんだかんだで仕事をこなしているジャルなので、実はここまで大きいミスは、少なくとも作品上では初めてです。(・・・・・・そのはずです)


この後のエリスの説教は熾烈を極めたと、お付きの(?)二人は後に友人の女神たちに語ったとさ。

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