(5)失礼な態度?
前半説明回?
部屋の床に座っていたアカツキは、その光景を唖然としながら見ていた。
そもそもアカツキにとっては、ワンリを見た瞬間から九尾の狐だということが分かり、その瞬間から自分の中での序列が決まっていた。
たとえワンリが、他の者に頭を下げていたとしてもそれは変わらない。
○○神が最高神だと教えられても、自分の中では最初から信仰して来た神が一番だと考えるのと同じことだ。
そもそもアカツキの一族にとっては、九尾の狐は一族の救い主であり、神そのものだった。
ワンリが一族を救った者ではないことは当然わかっているが、九尾の狐はそれだけで信仰の対象になる。
そのワンリに言われたからこそ、考助が塔の支配者であることも信じた。
ただそれは、あくまでもワンリに言われただけであり、序列の順番が変わっただけで、アカツキの中ではまだ実感としては湧いていなかった。
――そのことを、いま目の前で行われている会話で、アカツキは実感していた。
巫女であるはずのシルヴィアは簡単に神々の名前を口に出して、考助は考助でそれを当たり前のように受け止めている。
本来、神の名を口にするということは、それなりに制約を受けるはずなのだ。
少なくともアカツキは、そう教わって来た。
親や周囲の大人たちからは、容易に神の名を口にしてはいけないということを教わって育ってきたのだ。
だからこそ、このふたりの態度は、アカツキにとっては驚きであり、同時に不敬だという思いもわいていた。
ところが、そんなアカツキの思いが一変したのは、考助が何やら懐から取り出した道具を使い出したときだった。
その前まで、簡単に神と会話をするという話をしていたのだが、アカツキはほとんど信じていなかった。
普通は、神と会話をするという話をまともに受け止めて、会話を続けるほうがおかしい。
そのため、一般的な常識で考えれば、アカツキのその考えは正しい。
だが、残念ながら目の前の人物(たち)は、アカツキのその常識をあっさり打ち砕いて来た。
考助が道具を使って何やら会話を始めた瞬間、アカツキの全身の毛が逆立った。
道具から相手の声が聞こえてくることはなかったが、その神威を感じ取ることは出来たのだ。
そして、それが三大神のうちの一柱であるとわかったのは、アカツキが一族の中でも神に詳しかったことが幸い(災い?)していた。
そんな相手と気楽な調子で話をしている考助を見て、アカツキは言葉を失っていた。
普通、神を相手にして、こんな状態で話を続けることなどできるはずがない。
神と話をすると言うことは、相手の神威を僅かであってもまともに受けるということになり、それに耐えながら話をしなければならないのだ。
そして、普通の人は、その神の神威に長時間耐えられるはずもない。
それが、アカツキの中の常識であり、当たり前のことだった。・・・・・・少なくとも、これまでは。
そんなアカツキの常識を軽く蹴破るようにして、考助は神の神威に耐えながら話をしている。
しかも、その口調はどう聞いても、親しい相手とのんびりと話をしているようにしか聞こえなかった。
話の内容が自分に関わることなのに、アカツキの中ではそんなことは吹き飛んでしまっている。
そもそもそんな道具一つで神と直接気楽に会話できること自体があり得ないことなのだが、この場にいるアカツキ以外の者たちは、それが当然のことだとばかりに平然としている。
そして、その事実に耐え切れなくなったアカツキはというと・・・・・・、
「ちょっと!?」
「アカツキ!?」
考助たちが、慌てた様子で自分を見てくる事には気付けたが、その後は綺麗に意識を失うのであった。
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目の前でいきなりアカツキがふらりと倒れ込むのを見た考助は、流石に慌てて声を掛けた。
アカツキが座り込んでいたのが幸いして、大きく頭をぶつけていなかったのが良かったが、もし立っていれば下手をすれば大惨事になっていただろう。
もしかしたら、打ち所によっては、神社の中で初めての○亡事故なんてものが発生していたかもしれない。
まあ、実際にはそんなことにはならなくて済んだのだが。
倒れ方が急だったので焦ったが、何か大事に至ったわけではないということが分かったので、しばらくの間そのままで放置をしておく。
「それにしても、交神をしていただけで、倒れるかな?」
ワンリからアカツキの様子を聞いて、そう予想を立てた考助が、そう呟いた。
「倒れるのは大げさかもしれませんが・・・・・・いえ。ありえるでしょうね」
途中までは同意しかけていたシルヴィアだったが、すぐに考助の言い分を否定した。
危うく自分も考助の常識に引っ張られそうだったことに気付いたのだ。
神と普通に話をしたばかりか、ごく当たり前の友人のように話をするのを見て、まともな状態でいられるはずがない。
そう言う意味では、アカツキの反応は、一般的な常識に近いものと言っていいだろう。
「むう。納得いかない。・・・・・・まあ、いいけど」
自分の非常識を棚に上げて無理やり納得した考助は、小さく首を傾げた。
「それよりも、僕が現人神だって教えているはずなのに、そこまで一般的な対応をするのかな?」
「現人神というのは、それこそ一般的に知られている言葉ではないですから、もし孤立した場所で生活をしていたのであれば、知らなかったとしても不思議ではありません」
現人神は、考助がなったときにできた言葉といっても過言ではないので、一般的に認識が広まったのはごく最近のことだ。
アカツキのように、ごく限られた場所で生活をしていた者が知らなくても、何らおかしいことではない。
「神」とついていることから、それに準じた立場だろうと理解することは出来るだろうが、神そのものだとは思わないだろう。
たとえば、ナナの種族は白銀大神だが、神そのものだというわけではない。
考助の現人神も、アカツキにそんな感じで認識されたとしてもなんの不思議もないのだ。
アカツキに視線を向けて、まだ目が覚める気配がなさそうだと感じたシルヴィアは、考助に向き直って聞いた。
「ところで、ジャミール神との話はどうだったのですか?」
考助の交神が終わるか終わらないかのタイミングでアカツキが倒れたので、シルヴィアは話の内容まで聞いていない。
シルヴィアから聞かれたことでようやくそのことを思い出した考助は、ジャルとの会話を繰り返したうえで、待っている状態だと付け足した。
「どうも話の感じでは、かなり下位の女神が関わっていそうだったからね。もう少し時間がかかるんじゃないかな?」
女神たちが一か所に集まっていれば、すぐに話を聞くことは出来るが、普段女神たちは神域のあちこちに散らばっている。
そのため、情報を集めるのにも、多少の時間はかかるのだ。
シルヴィアは、考助の言葉に頷いた。
「そうですか。それにしても、いずれの神が関わっているのでしょうね。コウスケさんが塔を得てから、時間はかなり経っているのですが」
「それも含めてこれから確認したほうが良いだろうね。相手の考えによっては、引き取るかどうかも決めた方が良いだろうし」
「やはり、引き取るのですか?」
最初の頃のアカツキの態度を思い出したシルヴィアは、眉をひそめた。
「場合によっては、ね。それに、周囲に絶滅したと思われているくらいの種族であれば、塔の階層に閉じ込めてしまってもいいだろうし。それこそエルフみたいに」
エルフの場合は、自分たちの都合で外部との接触を出来るだけしないようにしているのだが、狐タイプの獣人族がどう考えているかはまだわからない。
それも、今後の話し次第になるだろうと、考助は現段階ではそう考えているのであった。
たまにはいつものパターンを第三者視点で書いてみるのもいいかなと、アカツキ視点で書いてみました。
それから、現時点で考助が考えているのは、あくまでも神としての視点での物事です。
折角の種族なのだから、絶滅させては勿体ないなという。
(本当の神なら、自然に絶滅する種族は仕方ないと考えるのもありかもしれません)
そこには、これまでのアカツキの態度や言葉は一切考慮されていなかったりするので、ある意味ではひどい対応をしているともいえますw
※次回更新は15日にさせてください。m(__)m




