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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(4)当たり前じゃないごく当たり前の光景

 いつまでも道端で話をするわけにもいかないということで、考助たちは一番近くにある神社を目指した。

 百合之神宮には、まんべんなく狐が出てくるので、その神社が狐を神獣として祭っている場所だったのは、ただの偶然だ。

 いきなり神社にやってきた考助たちを見て、担当の巫女が驚いていたが、そこはすぐにやるべきことを思い出したのか、部屋に案内したあとで人数分のお茶を出してきた。

 ちなみに、これは別に考助が頼んだわけではないのだが、百合之神宮の神社では考助が行くと必ずお茶が出てくるようになっている。

 ココロ辺りを通して、考助の好みが伝わっているのだ。

 

 それはともかく、部屋に落ちついた考助は、アカツキにもう一度しっかりと話を聞くことにした。

 この神社に来る道中でも話は聞いてはいたが、他にも聞くべきことはあるからだ。

 そのアカツキは、考助がこの塔の支配者であり、更には現人神であることまで教えられて、今ではすっかり恐縮した態度を取っている。

 自分の態度が最悪だったこともわかっているのか、最初の頃の人を見下したような態度はすっかりなりを潜めて、どちらかといえば恐れさえ抱いているような感じになっていた。


 考助もそれには気づいていたが、そこを直そうとすると話が進まないので、気にしないようにしていた。

「それで、改めて聞きたかったんだけれど、君にここに来るように言ったのは、誰かな?」

 これが、考助が一番聞きたかったことだ。

 アカツキの一族をどうするかはともかくとして、本当に裏で女神が動いているのであれば、そこはきちんと確認をしておきたかったのだ。

「は、はい。あの……里の長老から話を聞いて……」

「長老? あれ、神様からじゃないんだ」

 予想とは違った答えに、考助は思わずそう言ってしまった。

 

 その考助の呟きが聞こえたのか、アカツキは首を左右に振りながら続けた。

「い、いえ! 村の長老は神様の声を聞くことが出来るらしく、それでここの話を聞いたと言っていました」

「ああ、そういうことね」

 付け加えられたその情報に、考助がようやく納得の顔になった。

 先ほどまでしていた自分の想像が、間違いではなかったとこれで裏付けられたことになる。

 

 考助は頷きながらさらに聞きたかったことを付け加えた。

「それで? 君たちが信仰している神様の名前は?」

 考助がそう聞くと、アカツキはキョトンとした顔になって、なぜかワンリを見た。

「我々が信仰している神は、九尾様ですが?」

「はい?」

 アカツキの答えに、考助は思わず間の抜けたような声を上げて、シルヴィアはそっと視線をワンリに向けた。

 その当の本人は、アカツキの言葉を聞いて、しばらく意味が分からないような顔をしてから、顔を真っ赤にして首を左右に振った。

 だれがどう見ても自分ではないというアピールだ。

 

 ワンリの様子を見て、それはそうだろうなと思った考助は、腕を組みながら首を傾けた。

「九尾の狐の神様、ねえ。そんな女神様、いたかな?」

 考助は、これまで神域で会った女神たちを思い浮かべながら、誰のことかを推測していく。

 名前が世界中に知られているような神ならともかく、限られた地域の特定の神となると、当人(神?)の名前とは違った名前で信仰されていることも珍しくない。

 そして、こういうときに頼りになるのは、やはりというべきか、シルヴィアだった。

「九尾の狐がもとになっている神は、何柱かいるはずですが、そのすべてが月に属しているはずです」

 ここでいう月というのは、ジャルのことだ。

 神々の世界では、別に三大神に合わせてグループ分けされているわけではないが、一応それぞれの権能の性質から三グループに別けられている。

 これは、人が神々を分類するときに、分かり易くするためということもある。

 

 人が行っている神のグループ分けは、女神たちにとってはほとんど意味のない分けられ方なので、実際に使われているわけではない。

 とはいえ、それなりに理屈のある分けられ方をしているので、実際のまとまりとしてみてもほとんど遜色がないものとなっている。

 そもそも、似たり寄ったりの権能の神が固まってグループを作るのは、神にとっても自然なことなのだ。

 勿論、それに当てはまらないこともあるが、大体は外れていない。

 

 シルヴィアに説明された考助は、ジャルの元に集まる女神たちの顔を思い浮かべた。

 とはいえ、ジャルは三大神の一柱なので、それに属する女神といっても、大雑把にいえば三分の一の女神が当てはまってしまう。

 流石にそれはいくら考助といえども、すぐに思いつくはずもなかった。

「・・・・・・うーん。仕方ない。直接聞いてみるか」

 考助がそう呟くと、シルヴィアが大丈夫かという視線を向けて来た。

 考助は、そんなシルヴィアに向かって肩をすくめて見せた。

「ジャルの場合、こういうときに連絡をしなかったら、逆に怒られる気がするからね」

 考助が軽い調子でそう言うと、シルヴィアはクスリと笑った。

 シルヴィアは直接ジャルと交神したことはないが、考助やフローリアから話を聞いているので、何となくその人(神?)となりが想像できているのだ。

 

 

 考助とシルヴィアが暢気にそんなことを話している一方で、半分放置気味にされているアカツキは、半ば呆然と二人の会話を見守っていた。

 何気なくされているその会話が、実はとんでもないことではないかと、肌で感じていたのだ。

 そんなアカツキに、ワンリが考助とシルヴィアの邪魔をしないように、そっと話しかけた。

「こんなことを当たり前に話せるおに・・・・・・コウスケさんと、シルヴィアさんが、どれだけ凄いのか、わかりますか?」

 ワンリのその言葉に、アカツキはコクコクと何度も頷いた。

 そのアカツキに、ワンリはさらに追い打ちを掛けるように言った。

「そう。でしたら、これから起こることもしっかりと見ていなさい。普通は、中々目にすることが出来ないはずのものだから」

 アカツキは、ワンリが言ったその言葉の意味は分からなかったが、本能的に何かが起こるのかと理解して身構えた。

 結果、本能に従ったその判断は正しかったと、アカツキは後に懺悔するように友人の一人に話をするのであった。

 

 

 ワンリとアカツキがそんな会話をしていることなどつゆ知らず、考助は懐から交神具を取り出した。

 勿論相手はジャルになる。

『交神で話すのは久しぶりじゃない?』

 考助が繋げると、ジャルがいきなりそんなことを言ってきた。

「いやだって、特に交神してまで話するようなことはないじゃない? 神域にだって行っているんだし」

『むー。考助は冷たいね。ちょっと仲良くなったらあとはどうでもいいということかしら?』

 ジャルのその言い分に、考助は微妙な顔になった。

 そんなつもりはまったくないのだが、ジャルもわかっていてそんなことを言っているのが透けて見える。

 下手に返すと更にからかわれることが分かったので、そんな顔をすることしかできなかったのだ。

 

 余計なことには触れないようにするため、考助はさっさと本題に入ることにした。

「ハハハ。まあ、それはともかく、今回の件は誰がやったのかな?」

『むむ。何か、誤魔化された気がする。・・・・・・まあ、いいけれど。そっちの件は、今調べているからちょっと待って』

「あれ? まだわかっていなかったんだ」

 予想外のジャルの答えに、考助は首を傾げた。

 どうせジャルのことだから、とっくに調べ上げて交神してくるのを待っていたと考えていたのだ。

『ある程度の力がある女神がやったのであればすぐにわかったんだけれどね。どうも違ったみたいだから』

「へー。そうなんだ。まあ、別に今すぐじゃなくてもいいから、わかったら教えて」

 考助はそう言ってすぐに交神を切った。

 ジャルとの会話にしては早すぎると思わなくもないが、具体的な答えが無い以上、あまり話すこともない。

 細かい話は次の連絡が来てから、ということになったのである。

タイトル通りです。

最近ごく普通に流れている日常の風景ですが、そろそろ実は当たり前ではないことを思い出していただこうかと。

・・・・・・あ、知っていますか。そうですか。

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