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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(3)裏にある者

 青年が世間知らずであることは、この短時間でよくわかった。

 恐らく、種族的に外部との接触もなく過ごしてきたため、こういう場合にどう対応するべきなのかもわかっていないのだ。

 その上で、ワンリのような存在に出会えたことで、舞い上がってしまったということも理解は出来る。

 とはいえ、それらはあくまでも考助の想像でしかない。

 考助的にはその想像で、まあそんな態度もありかと思っていたのだが、シルヴィアやワンリにとっては最悪なようだった。

 というよりも、普通に考えれば、シルヴィアやワンリのほうが正常で、考助のような態度を取っているほうがおかしかったりする。

 

 その辺りのことを深く突っ込むと、墓穴を掘りそうだと察した考助は、青年を見て言った。

「まあ、とりあえず、名前から教えてもらえないかな? 種族のルールとかで教えられないとかあれば、無理には聞かないけれど」

 考助がそう聞くと、ワンリやシルヴィアの言葉から、自分がまずい対応をしたと理解して、少しだけ青い顔色になっていた青年が頷いた。

「あ、ああ。すみませぬ。私の名は、アカツキと言う。いちおう確認させてもらうが、其方がこの塔の支配者だろうか?」

 ワンリやシルヴィアからは、相変わらず厳しい視線を飛んでいたが、考助は気にせずに頷いた。

「まあ、そういうことになるのかな?」

「それは、大変失礼なことをして、申し訳なかった」

 アカツキは、そう言って頭を下げて来た。

 

 いきなり考助は、自分が塔の支配者であることをばらしているが、これは既にワンリのことがあるために、ばれても構わないと判断してのことだ。

 勿論、この辺りには他に誰もいないからということもある。

 アカツキが、この後で考助のことを言いふらしたところで、フーンと流されるか、狂人扱いされるくらいだとしか考えていないのだ。

 そんなことよりも、考助にはアカツキに言いたいことがあった。

「それはまあ、別にいいんだけれど、君はこの塔のことをどこまで知っているのかな?」

「・・・・・・? どういう意味だろうか? 世界的に見ても久しぶりに攻略をされた塔で、狐たちと触れ合うことが出来る場所があると聞いているが?」

 そのあまりにも限定的な情報に、考助は頭を抱えた。

 

 流石にアカツキのその言葉を聞いて、態度が固かったシルヴィアも呆れたような顔になった。

「そもそも、この神宮の成り立ちは知っているのですか?」

「この神宮の・・・・・・? 狐を祀るためだと聞いているが?」

 その答えを聞いたシルヴィアは、考助と同様に頭を抱えるような仕草を見せた。

 どこをどうすれば、ここまで偏った情報を得ることができて、また実際に来ることができたのか、それを考えると頭痛がするような思いになったのだ。

 

 アカツキの様子を見れば理解できるが、当人はその裏にあることは全く気付いていない。

 本当に百合之神宮が狐のための楽園のような場所だと信じている、もしくは聞かされているのだ。

 あくまでもシルヴィアの想像でしかないが、恐らく当たっているだろう。

 念のためシルヴィアは考助を見たが、同じような顔になっていたことから、考助も気付いていると思われる。

 ついでに、ワンリも微妙な表情になっていることから、似たような想像はしているのだろう。

 

 さらに質問を続けようとしたシルヴィアを考助が止めて、自分がアカツキを見て聞いた。

「色々と聞きたいことがあるんだけれど、まずは、君にここに来るように言った神様は、どの神様かな?」

「なにっ・・・・・・!?」

「はっ?」

「えっ!?」

 考助の問いに、コウヒとミツキを除いた全員が驚いた顔になった。

 それくらいに、考助の質問は、突然すぎるものだったのだ。

 

 だが考助は、アカツキの顔を見て、自分の予想が間違っていなかったことを確信した。

「ああ、やっぱりね。君の言動が、どうにもちぐはぐすぎるかと思っていたんだけれど、神からの神託が不完全だったと考えれば、あり得るかなと思ったんだ」

 考助がそう言うと、シルヴィアとワンリが納得した顔で頷いた。

 そもそも、狐タイプの獣人族が一般には知られないように隠れて過ごしていることを考えれば、普通の状態で百合之神宮の噂が伝わっているはずがない。

 それが、外部の者から伝わったのは確かだろうが、シルヴィアの話を聞く限りで、そんな者たちと接触を持っている者がいれば、間違いなく騒ぎになっているはずだ。

 狐タイプの獣人族が今でも生存していることを隠しているという可能性もあるが、それはそれで別の疑問が湧いて来る。

 

 それがなにかといえば、なぜ百合之神宮の話をしたかということだ。

 もし長い間、狐タイプの獣人族を匿っていた集団なり国があるのであれば、今まで通りに扱い続けておけばいい。

 敢えて百合之神宮の話をする必要性がない。

 そうであるならば、狐タイプの獣人族に話をすると考えられるのは、考助が思いつく限りでは、女神の誰かしかいなかったのである。

 あくまでもあてずっぽうだったのだが、アカツキの反応を見れば、それが間違いではなかったとわかった。

 

 アカツキが何かに反応するよりも先に、シルヴィアが考助を見て言った。

「どなたでしょうか?」

「うーん。さすがにそれは聞かないと分からないな。でも、三大神辺りはないと思うよ? あと、大地母神も」

 考助が今あげた女神たちは、普段から考助以外も付き合い(交神具)があるので、わざわざ隠す必要性が無い。

 ただ、それ以外の神が考助に隠しておくかといえば、微妙なところがあるが、まったくないわけではないだろう。

 考助は、定期的に神域に行っているとはいえ、あくまでも会社の同僚的な付き合いだったりする方が、圧倒的に多い。

 それに、そもそも考助が訪問し終わった後に神託などを行っていれば、伝わってなくても何の不思議もない。

 

 もしエリスが仕掛けたのであれば、考助でなくとも自分に連絡してくるだろうという確信があるシルヴィアは、納得の表情で頷いた。

「それもそうですね。それにしても、なぜ今更という疑問はありますが・・・・・・」

 考助が塔を支配してからかなりの時間が経っている。

 神であれば、もっと前から伝えることもできたのではというシルヴィアの疑問に、考助は首を左右に振った。

「どうだろう? 実は前々からタイミングを見計らっていたんじゃないかな? で、百合之神宮ができたからこれ幸いと」

 別に百合之神宮でなくとも、アカツキの態度を見れば、ワンリがいるだけで十分だった気もするが、とにかくタイミングを見ていたということはあるかもしれない。

 アカツキへの神託の内容の伝わり方から考えても、詳細を伝えることは難しかったことはわかる。

 それであれば、分かり易いタイミングを待っていたということは十分に考えられる。

 

 考助の考察に、シルヴィアは納得したように頷いていた。

 一方で、当事者であるアカツキは、戸惑ったような表情を浮かべていた。

 自分はほとんど何も言っていないのに、ほぼ確定事項として話が進んで行くことに、まったく対応することが出来ていない。

 そんなアカツキに、ワンリが首を左右に振ってから言った。

「今は黙って話を聞いておいた方が良いですよ。このふたりは、あなたの知らないこともいっぱい知っているでしょうから」

「ワンリ、それは言い過ぎ。知らないことは知らないよ」

「そうですね。それこそ、神のようにすべてを見通すことなどできません」

 ワンリの言葉に、考助とシルヴィアが反応してそう言ってきた。

 だが、ワンリにとっては、それは建前のようにしか思えなかったので、ただ黙ってコクリと頷くのであった。

青年を無視して勝手に話を進める考助とシルヴィア。

ある意味で、最初の頃の青年以上にひどいかもしれませんw

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