(7)ピクニックと親子
狼や狐のいる階層、ゴブリンとその上位種族が跋扈する階層、等々。
アマミヤの塔には、考助の色々なことを行った結果で、特殊な状況になっている階層が幾つかある。
その中でも一番特異な階層は、やはりスライム島が存在する階層だろう。
この階層は、モンスターの中ではスライムだけが生存している島があるだけで、それ以外は海という環境になっている。
ある意味で、絶海の孤島という環境だからこそ、モンスターの中では最弱と名高いスライムでも生きて行けるようになっているのだ。
勿論、そんな環境は自然に存在しているはずもなく、考助がスライムのために作ったものになる。
そして、スライムだけの繁殖に見事に成功したときには、女性陣は見事に全員が呆れたような顔になっていた。
彼女たちにしてみれば、なぜそこまでしてスライムだけの島を作るのかが分からなかったのだ。
そんなスライム島に、考助はシルヴィアとフローリアを連れてきていた。
別に特別な何かがあったわけではなく、スライムたちの様子を見に来たのだ。
「元気だったか、リン」
久しぶりにスライム島に来た考助が、島の主であるリンに挨拶をすると、嬉しそうにプルプルと震えていた。
その後で、一緒に着いて来ていたスーラが、考助の懐からピョンと飛び出して、何やらお互いに震え合っていた。
「・・・・・・会話でもしているのでしょうか?」
「さあね? 流石にそこまでは分からないよ」
シルヴィアの疑問に、考助もお手上げとばかりに首を左右に振った。
最近では、スライムと会話ができるのではないか疑惑が出ている考助だが、流石にリンとスーラが何を話しているかまでは分からない。
首を振っている考助に、フローリアが揶揄うような視線を向けて来た。
「そうか? コウスケならわかるんじゃないか?」
「いや、無理だって」
「そうか。残念だな」
なにがどう残念なのか分からなかった考助だったが、敢えてそれ以上深くは聞かなかった。
ここで突っ込めば、藪蛇になるという予感が働いたのだ。
考助たちの会話が聞こえているのかいないのか、リンとスーラは変わらずにプルプルと震えていた。
その様子を見ている限りでは、どう考えても会話を行っているようにしか見えない。
どんな話をしているのか、聞いてみたい気もするが、こればかりはどうしようもない。
フローリアがいくら揶揄って来ようが、考助でも無理なものは無理なのだ。
そんな二体のスライムを見ながら、シルヴィアが考助を見ずに聞いて来た。
「それで、今回はなぜここに連れてこられたのでしょうか?」
シルヴィアとフローリアがここにいるのは、考助に目的はなにも言われずに誘われたためだ。
シルヴィアがこう聞いてくるのは、当然のことだった。
そんなシルヴィアに、考助は首を傾げた。
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「聞いていません」
「聞いていないな」
考助の疑問に、シルヴィアとフローリアがほぼ同時に答えた。
考助がふたりに告げたのは「一緒に出掛けよう」だけだった。
特に急ぎの用事があったわけではないシルヴィアとフローリアは、それに了承してついてきただけだった。
コウヒとミツキに視線を向けて、それが本当のことだとわかった考助は、しまったという顔になって頭を掻く仕草をした。
「いや、ごめん。本当に特になにかあるというわけじゃなくてね。単に散歩がてら昼でも取ろうかと思ってきたんだよ」
考助がそう言ってコウヒに視線を向けると、コウヒは机と椅子を取り出して、即席の寛げる場所を作り出した。
当然、椅子の数はコウヒとミツキの分も含まれている。
微妙なところで抜けている考助に、シルヴィアとフローリアは同時に顔を見合わせてから苦笑をした。
「全く・・・・・・それならそうと、最初から言ってくれれば良かったのだが?」
「本当ですね。別にこんなサプライズでなくとも、良かったのですよ?」
別にサプライズのつもりではなく、結果的にそうなったことをわかった上で、敢えてシルヴィアはこう言っている。
それは別に、考助に対してあてこすっているわけではなく、水くさいという照れも含まれていた。
なんだかんだで、シルヴィアもフローリアもこの状況を嬉しく思っているのであった。
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リンが生息している小山は、見晴らしが良い場所になっている。
そのため、周囲を見回せば、いまいる場所が島であり、三百六十度海に囲まれていることが分かる。
「相変わらず景色が良いな、ここは」
何度もこの場所に来ているフローリアでも、改めて景色の良さを実感していた。
「本当にそうですね。それに、遮るものがなにもないのに、風の強さも丁度いいですし」
「そうだな」
これだけ周囲に何もないと、海から来る風が吹き付けていてもおかしくはない。
だが、実際にはそんなことはなく、時折そよそよと穏やかな風が吹いてくるだけだった。
だが、そんなことを言ったシルヴィアとフローリアに、考助は首を傾げながら言った。
「あれ? もしかして、気が付いていない?」
「なにがだ?」
首を傾げて聞いて来たフローリアに、考助がさらに続けた。
「いや、この辺りに吹いている風って、リンが結界を張って調節しているよ?」
「なに!?」
考助の説明に、フローリアは驚いた顔になってシルヴィアを見た。
フローリアから視線を向けられたシルヴィアは、同じように目を見開いて周囲を見た。
「・・・・・・全く気付いていませんでした。本当にリンの結界が?」
「うん、あるよ。まあ、どっちかというと、魔力を使って作ったものというよりは、エルフの里みたいな自然を基礎にしたものだけれど」
その考助の説明を聞いたシルヴィアは、改めて周囲を見回した。
そして、確かに考助の言う通り、いまいる場所を穏やかな気候にするための結界が張られていることが分かった。
考助に言われるまで全く気付いていなかったのは、それほどまでに、ごく自然に結界が溶け込んでいたからだ。
「・・・・・・確かに、ありますね。言われないと本当に分からないほどですが」
シルヴィアは、女性陣の中では結界術に長けている。
それにも関わらず気付けなかったということは、他の皆も気付いていないということになる。
「シルヴィアでも気付けないほどか。リンもまた凄まじい能力持ちだな」
「そりゃあ、スーラの親だしね」
スライムに親子関係が成り立つかどうかは分からないが、スーラの元がリンであることを考えれば、親といっても差し支えないだろう。
それに、リンは伊達や酔狂でスライム島の主をやっているわけではないのだ。
考助の言葉に納得したように頷いたフローリアは、視線をリンとスーラへと向けた。
「ああしているところとみると、確かに親子だと言われても納得だな」
「そうだね」
フローリアの言葉に、考助は同じようにリンとスーラに視線を向けながら頷いた。
そこでは相変わらず二体のスライムが、プルプルと震えている。
動作はほとんど変わっていないのだが、親子だと意識してみると、そのように見えてくるのだから不思議なものだった。
傍で見ていれば、ただのユニークな動きでしかないが、これだけの時間続いているとなると、何か会話らしきものが行わているのは確かだろう。
だが、その内容までは、この場にいる誰も知ることは出来ないのであった。
久しぶりのスライム島でした。
というよりも、久しぶりのリンでしたw
今さらですが、リンが親でスーラが子ですよ?
あ、わかっていますか。そうですか。




