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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(5)ミクの入学式

 春は、新たな年が始まる季節である。

 年度の始まりは、学園にとっては入学の季節と同じことを意味している。

 この春、学園に入学することが決まっているミクは、入学式の為に用意されたドレスを着込んで、考助の前に立っていた。

「に、似合う?」

 少し上目遣いになりながら、頬を染めてみてくるミクを見て、考助は思わず抱きしめそうになってしまった。

 そんなことをすれば、折角のドレスに皺がついてしまうので、思うだけで我慢したが。

 

 それはともかく、ミクの要求にはしっかりと応えないといけない。

 ニコリと笑みを浮かべた考助は、ミクに向かってしっかりと頷いた。

「うん。素晴らしく似合っているよ、ミク」

 褒め言葉が乏しい考助だが、この時ばかりは全力を振り絞ってミクに言った。

 ミクの見えないところでフローリアが首を左右に振っていたが、それは全力で見なかったことにする。

 

 幸いにして(?)、ミクはそれで十分嬉しかったのか、にっこりと微笑み返してきた。

「ありがとう!」

「どういたしまして。それよりも、折角のドレスなんだから、駄目にしないように気をつけるんだよ?」

 考助がそう言うと、なぜかミクがプクリと膨れた。

「私、そんなにお転婆じゃないもん!」

 どうやらミクは、考助が未だに元気に走り回っている姿を想像したのだと誤解をしたようだった。

 

 そのミクに、考助が笑いながら首を振った。

「いや、そういうことじゃないんだけれどね。折角の綺麗な服なんだから、大事に着ていたほうがいいよね?」

 小さかったころはともかく、特にストリープを弾くようになってからのミクは、ジッとしていることのほうが多くなっている。

 勿論、ピーチの訓練を受けているので、動くのが苦手というわけではない。

 むしろ、単純な身体能力だけでみれば、考助の子供たちの中では、誰よりも高かったりする。

 ある意味で、兄弟の中で一番ギャップが大きいのがミクだといえるだろう。

 

 考助の言葉に、ピーチが付け足してきた。

「ミク、お父さんの言う通りですよ~。次も着る機会があるかどうかはわかりませんが、大事に着てくださいね~」

 これは別に、ミクがドレスを着る機会が無いというわけではなく、むしろ逆である。

 何故なら、ミクがストリープの演奏者であることは、既に多くの者たちに知れ渡っていて、成人すればいろんな場所に呼ばれることもあるだろう。

 それを考えれば、ドレスを着る機会は、普通よりも多くなる可能性が高い。

 

 ピーチが言ったのは、成長期のミクが今着ている服を着られる時期は少ししかないと考えているのだ。

 ついでにいえば、ドレスは流行り廃りに思いっきり影響されるものなので、基本的には数度袖を通しただけで下げ渡すなんてことも珍しくはない。

 そうした中古のドレスは、一般家庭の子供たちの晴れの場所で着られたりすることになる。

 いかに裕福な家庭の子供が通っている学園といえども、普段から豪華なドレスを来て通っている生徒はほとんどいない。

 そのため、今着ているミクのドレスは、本当に今回限りになる可能性もあるのだ。

 

 考助とピーチからの言葉に、むくれたままだったミクは、黙って頷いた。

 それを見ていたフローリアが、笑いながら考助とピーチに言った。

「ハハハ。まあ、そう言ってやるな。ミクだって、そのドレスが誰によって作られたのかわかっているんだから、きちんと大事にするだろうさ」

 いまミクが着ているドレスは、第五層にある服飾店で注文したものではなく、イグリッドの夫人たちが作った物なのだ。

 手先が器用で多くは工芸品を作っているイグリッドだが、その気になればこうした物も作れるのだ。

 もっとも、こうした服に関しては、自分たちが着る分を作っているだけで、余所に流れることはほとんどない。

 今回は、デザインだけを一般の店に頼んでしてもらい、あとはイグリッドの女性たちの手によって作られたのだ。

 ミクが着ているドレスは、シュレインからのミクに対するお祝い品なのだ。

 ちなみに、考助の子供たちは、全員がイグリッド手製の服を着て入学式に出ている。

 

 

 ミクのドレスについてはそこで話が終わり、このあとの入学式について話が移った。

「ところで、今回もコウスケは式を見るのだろう?」

「うん、勿論。――だから安心してね、ミク」

 フローリアの言葉を聞いて、ジッと自分を見て来たミクに、考助は安心させるように笑いかけた。

 それを見たミクは、ホッとしたような表情を浮かべた。

 なんだかんだありつつも、未だにミクはお父さん(考助)が大好きなのだ。

 

 ミクのその顔を見て、これまで黙って様子を見ていたセイヤとシアが、くすくすと笑い出した。

「本当に、ミクは父さまが好きだな」

「学園に通っても大丈夫かな?」

「少なくとも、セイヤとシアよりは大丈夫だと思うわよ? お友達もすぐに出来るだろうし」

 そのふたりの言葉に、ミクが反論するよりも先に、コレットがすかさず混ぜっ返してきた。

「と、友達は出来たし!」

「そうよ! ちゃんと話もしているのよ!」

 コレットの言葉に、セイヤとシアが慌てた様子でそう言ってきた。

 どう考えても大丈夫そうではない様子だったが、これでもピーチの訓練の成果が出ているお陰か、着実に進歩はしているのだ。

 

 どちらにしても、セイヤとシアが、少しばかり先輩として頼りないことは間違いない。

 ここで追い打ちをかけるような者はここにはいないが、ミクは空気をしっかりと察してから考助へと視線を向けた。

「会場のどこにいるの?」

「うーん、ごめん。それは秘密かな? あまり見られると、ばれることもあるだろうからね」

 考助は、会場のとある場所に潜んで式を見ることになる。

 ミクがそこを何度も見ると、敏い者はすぐに気付いてしまうだろう。

 そのため、今からミクに教えることは控えておく。

 

 きちんと事情が分かっているのか、ミクもそれ以上は聞いてこなかった。

 考助が式に来てくれるとわかっているだけでも十分なのだ。

「うん。わかった」

「さあ、ミクたちはそろそろ時間だから出発したほうが良いだろう。ちゃんと馬車に乗って行くんだぞ?」

 ミクが頷くのを見てから、フローリアが念を押すようにして言った。


 馬車に乗るのは、ミクがドレスを着ているからということもあるが、それ以上にセイヤとシアを合わせて三人いると、目だってしまうからだ。

 セイヤとシアが考助の実の子供であることは、既に知れ渡っている。

 そのふたりと一緒に行動しているミクが、どういう関係であるのかは、見ればすぐにわかる。

 そのため、途中で妙な輩に絡まれないためにも、馬車での移動は必要なのである。

 もっとも、ミクたちの実力があれば、その辺のチンピラ程度には、負けることはないのだが。

 

 フローリアに促されて、ミクたちは表で待っているはずの馬車に向かって行った。

 今まで考助たちは、第五層の屋敷で話をしていたのだ。

 ピーチは勿論、コレットも保護者枠として参加することになっている。

 考助とフローリア、それからシルヴィアは、あとから出て行き、こっそりと会場に紛れ込むことになる。

 

 それらの作戦(?)が功を奏したのか、ミクが出た入学式は無事に終わり、考助もしっかりとミクの晴れ姿を見ることが出来たのであった。

こうやって節目の行事が出てくると、考助たちも年を取って・・・・・・ではなく、ミクたちも成長したんだなと感慨深くなります。

ちなみに、翌年はトビの入学式が控えていたりします。

こんなにしっかりと書くかは微妙ですがw

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