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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(2)ミクの入学について

 ミクが演奏を始めると、トビとケイも静かになって音楽を聞き始めた。

 この世界で音楽を聞く機会は、実際に演奏をしているところに居合わせるしかないので、子供たちにとっても娯楽のひとつなのだ。

 ましてや、ミクの演奏は、考助は勿論、耳の肥えたフローリアやトワにとっても最高レベルのものだ。

 それに子供たちが聞き入るのは、当然といえるだろう。

 それなりの広さがあるくつろぎスペースだが、トビとケイがその中でもいい場所を取っているのは、流石といえるかも知れない。

 

 ミクが一曲目を弾き終えて二曲目に入ろうとした瞬間、トワが考助に話しかけて来た。

「そういえば・・・・・・ああ、ごめんなさい。弾き続けていいですよ」

 話をするのかと手を止めたミクに、トワが謝りながらそう促した。

 別に子供たちの視線が痛かったわけではなく、もとから音楽を聞きながら話をしようとしていたのだ。

 

 トワの様子に小さく笑った考助は、確認して来たミクに頷きながら視線を向けた。

「それで? なに?」

 考助が頷いたのを見て、ミクは安心したように二曲目を弾き始めている。

「いえ。・・・・・・ミクは確か来年学園に入学でしたよね?」

「うん。そうだね」

 ピーチとミクは、既にそのための準備を始めている。

 二人が住む場所はコレットたちと同じ家になるので、セイヤとシアのときのように前もって準備をすることも少なくて済むのだ。

 コレットたちも二人の受け入れ準備は整えていて、既に何度も寝泊まりをしている。

 ついでに、セイヤとシアのような人見知り(?)はミクには無いので、しっかりとご近所づきあいもしていたりする。

 

 少しだけミクの音楽に聞き入っていたトワは、もう一度考助を見てから聞いた。

「・・・・・・大丈夫なのですか?」

「言いたいことは分かるけれど、それって今から心配してもどうしようもないと思うけれど?」

 考助がそう言うと、トワは言葉を詰まらせた。

 

 トワが心配をしているのは、既に凄腕の演奏者として知られているミクが、普通に学園に通うようになって大丈夫かということだ。

 ただし、だからといって、学園に通う以外に同世代の子供たちと触れ合う場所はさほど多くはない。

 何よりも、ミク自身が学園に通うことを楽しみにしているので、考助としても止めるつもりはなかった。

 

 それに、考助がトワほど心配していないのには、きちんとした理由がある。

「ミクは、セイヤやシアと違って、しっかりとサキュバスのお姉様たちから教育を受けているからね。その辺はあまり心配していないかな?」

 裏の仕事を生業にしているサキュバスにとって、交渉術というのは、ほとんど必須のスキルと言っていい。

 サキュバスの子供たちは、大人たちとの会話で、そうした技術を磨いていく。

 そのためミクは、イメージ的には黙って演奏に集中しているように思われがちだが、実際にはかなりの話術スキル(?)を持っていたりする。

 

 考助の言葉を聞いたトワは、少しだけ目を丸くして、ピーチとミクを見比べた。

 そのトワを見て、考助が苦笑しながら続けた。

「気持ちは分からないでもないけれど、もともとピーチだって、交渉術はかなり高いからね」

 ピーチの場合は、魅了の力のせいで他のサキュバスとの交流をほとんど持てなかった。

 だが、それはそれで対処する術を、必死になりながら学んでいったのだ。

 ピーチは自分から話すことはほとんどない(考助を除く)が、その容姿を使って、相手から話しかけさせるなどの離れ業なども身に着けていたりする。

 ピーチとミクでは、そもそもの下地が違うので、比べるのが間違っているのだ。

 

 考助と自分の話を聞いて、黙ったまま微笑んでいるピーチを見たトワは、

「・・・・・・そうですか。少し誤解していたようですね」

「いや、それは仕方ないんじゃない? いくらここで会っていたからといっても、実際に言葉を交わしていた時間は少ないだろうし」

 ピーチの場合、必要なときは子供たちと話すこともあったが、大抵は他の女性たちに任せて、自分は裏方に回っていた。

 そのため、トワたちにとっては、ピーチが一番触れあっていなかった義母といえるだろう。

 逆に、セイヤたちの世代になると、シュレインが一番話をしていないということになる。

 それらの違いは、個人の性格ということもあるが、種族的に共通の話題があるかどうかということにも関係しているのだ。

 

 それはともかく、トワにとって改めてピーチやミクの性格がここで把握できたのは、収穫といっていいだろう。

「なんというか・・・・・・一番身近な家族であるはずなのに、知らないことがまだまだありますね」

「それは、トワの場合は特に仕方ないんじゃないかな? いろいろ知ることが出来る年になってから、ほとんどここに来れなくなっているから」

 最近のトワは、一応顔を見せるようにはしているが、それでもやはり管理層に来る機会が減っている。

 『烈火の狼』のメンバーが来るようになってから、頻繁に顔を見せるようになったリクとは、逆になっているといってもいいだろう。

 そんな状態で、管理層にいるすべての者たちの性格をきちんと把握するのは無理がある。

 

 もっとも、考助からすれば、ピーチは敢えてそういう態度を取っていたようにも見えている。

 それは、トワがラゼクアマミヤの王になることが分かっていたからで、サキュバスを率いる者として、一定の距離をとっているということだ。

 実際にピーチの口から聞いたわけではないが、考助はその予想は外れてはいないと考えている。

 それを今、敢えて当人トワに言うつもりはないのだが。

 

 そんなことを考えていた考助だったが、さらにトワに言った。

「まあ、話がずれたけれど、とにかくミクに関してはさほど心配はしていないよ」

「そういうことなら確かに、大丈夫でしょうね」

 考助が微妙に話をずらしたことに気付いていたトワだったが、特に何も言わずにそれに付き合った。

 この話題は、自分にとってもあまり好ましくないものだと考えたのだ。

 

「それよりも、塔にサキュバスがいると知られることのほうが問題じゃないの?」

 考助にしてみれば、そちらの方が、不安があったりするのだが、トワは首を左右に振った。

 もともとサキュバスがアマミヤの塔にいることは、秘密にしていたのだ。

 それが、ピーチとミクが表に出ることで、秘密でなくなってしまう可能性がある。

「いえ。それはさほど心配はないでしょう。そもそも主要な国というのは、サキュバスを抱えているのが当然ですから」

 見た目ではヒューマンと差異がほとんどないサキュバスは、多くの国で諜報として活躍して来た歴史がある。

 そのため、ラゼクアマミヤにサキュバスがいることを知られること自体は、さほど問題ではないのだ。

 問題があるとすれば、サキュバスが、塔のどの階層(・・・・)にいるのかを知られることだ。

 

 ピーチや他のサキュバスと同じ意見がトワから返って来たことで、考助はやっぱりかという顔になった。

 その辺りは、きちんと事前に確認していたのだが、一応別の当事者からも話を聞いてみたかったのだ。

 ラゼクアマミヤにとっても、サキュバスはなくてはならない存在になっている。

 そのトップから話を聞けたことは、考助にとっても収穫だった。

 

 

 考助とトワが話をしている間、ミクは演奏を続けて、トビとケイはジッとその音楽を聞き続けていた。

 大人たちの会話はまったく耳に入っていないようだったが、それは子供らしい集中力だったと後になって考助は考えるのであった。

ミクの学園入学自体は全く心配していない考助でした。

セイヤ&シアとはまったく違っていますw

サキュバス云々に関しては、本文にある通りです。

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