(8)リリカ&サリー
リンと共に城へと向かったシルヴィアとフローリアは、そこでリリカと面会した。
途中で、フローリアが何人かの高官にギョッとされるということがあったが、それ以外は特に止められることもなく、スムーズに移動することが出来た。
これは別に城の警備が杜撰というわけではなく、リンが一緒にいるからこその対応だ。
リンが城の中で一定の評価を得ていることに、フローリアは内心で感心していたが、それを顔に出すことはしなかった。
そんなことを口に出されても、リンの性格上、困ったような顔をするしかないだろうと予想ができたためだ。
そんなことがありつつリリカの元へと辿りついたシルヴィアとフローリアは、驚いた顔のリリカに迎え入れられた。
「突然、どうされたのですか?」
シルヴィアとフローリアが揃って城にくることなど今までほとんどなかったので、リリカは本当に驚いているようだった。
「いや、なに。コウスケとシルヴィアが、また新しいことを始めようとしていてな。それの相談に来たんだ」
「おや。コウスケさんと私だけのせいですか? フローリアも結構ノリノリではないですか」
「うむ。それは認める」
シルヴィアの混ぜっ返しに、フローリアは真面目な表情で頷いた。
ふたりのやり取りにリリカが首を傾げたが、シルヴィアがリンに説明した内容と同じことを繰り返した。
「――――なるほど。それで私のところに来たのですね」
「そうです。リンのことは置いておくとして、誰か他によさそうな人は知りませんか?」
シルヴィアの問いに、リリカは少しだけ考えるような仕草をしてから答えた。
「いますね」
あっさりと帰って来たその答えに、シルヴィアとフローリアは驚いた表情になった。
いくらなんでも、そこまで都合のいい人材は、心当たりを捜すにも時間がかかると思っていたのだ。
シルヴィアとフローリアの顔を見て、リリカは苦笑しながら説明をした。
「実は、私の昔の仲間なのですが、子供を欲しがっているのに、相方を失ってしまった人がいるのですよ。その人でしたら信用は出来ますし、子供たちに戦いを教えることもできます。何よりも、子供好きですから。・・・・・・本人は隠したがっているようですが」
少しだけ笑いながらそう言ったリリカに、フローリアが顔に少しだけ影を落として言った。
「ふむ。その相方は、病か何かで逝ったのか?」
「いえ。その方も冒険者でしたから。ちょっとした無理がたたって、あっさりと逝ったと言っていました」
リリカはその話を直接当人から聞いたのだが、そのときは時間が経っていたので、さばさばとした表情を浮かべていた。
だからといって、その人物が相手に対して何の思いを抱いていないというわけではない。
同じ冒険者だっただけに、いつかはそういうこともあるかもしれないと、覚悟ができていただけだ。
それは、リリカも同じ冒険者だっただけに、よくわかる気持ちだった。
何とも言えない表情を浮かべるリリカに、フローリアは相手のことについてはそれ以上聞かず、今回紹介をされた人物について聞いた。
「なるほどな。それで、その者の名は?」
「サリー。私がいたパーティのリーダーだった人になります。ああ、そういう意味では同世代の女性には顔が広いかもしれません」
「ほう。なるほどな。確かに、よさそうな人物だ」
フローリアはそう言って頷きながらシルヴィアを見た。
「そうですね。紹介していただくことは可能でしょうか?」
「それは勿論です。私もリーダーのことはどうにかしたいと思っていましたから、これもいい機会です。いえ、神の御導きでしょうか?」
相方を失ったからといって、特に大きな変化を見せていないサリーだったが、それでも昔から知っているリリカには無理をしているように見えていたのだ。
わざとらしく小首を傾げながらそう言ったリリカに、シルヴィアとフローリアはクスリと小さく笑った。
「なるほど。確かに、神の導きといえるかもしれないな」
「そうですね。まあ、それをどう評価するかは、サリーという方、次第でしょう」
神を評するには微妙すぎる言い方だが、それをどうこういう者はリンも含めて、ここには誰もいなかった。
皆が、直接考助のことを知っていて、そんなことでいちいち咎めたりしないとわかっているからこそである。
そんな冗談も交えつつ、シルヴィアとフローリアは、リリカからサリーを紹介してもらえるようになったのである。
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シルヴィアとフローリアがリリカに話をした翌日。
二人は、リリカと一緒にサリーの元へと訪ねていた。
「おや、どうしたんだい? 珍しくこんなに大勢で」
サリーのところにリリカが訪ねて来ること自体はあるが、人を連れて来ることはほとんどない。
しかも、明らかに『良い服』を着ているふたりに、サリーは少しだけ警戒しているようだった。
サリーがそういう反応を示すことをわかっていたのか、リリカが先んじてシルヴィアとフローリアを紹介した。
「リーダー、こちらの方が、以前から話をしていたシルヴィア様ですよ。あと、こちらはフローリア様です」
サリーは、一瞬何を言われたのか分からないという顔をした後で、感心したように頷いた。
「へえ。なるほどねえ。確かに、リリカが言う通り人間離れして・・・・・・え? フローリア、様・・・・・・!!??」
シルヴィアを見ながら納得の表情になってから、少し遅れて驚いた顔になったサリーの口を、リリカは急いで塞いだ。
リリカがすぐに対応できたのは、サリーがそうなるだろうと予測できていたからだ。
「ふう。間に合って良かったです。――少しは落ち着きましたか?」
リリカが口を塞ぎながらそう聞くと、サリーは何度か頷いた。
「はあ。まったく。久しぶりに顔を見せたと思ったら、なんて人を連れて来るんだい」
完全にフローリアのことを『フローリア女王』だと認識したようで、サリーがリリカを睨んだ。
まさかサリーは、自分の家に元女王が来るなんてことは、考えてもいなかったのだからそうなるのも当然だ。
そんなサリーに、リリカは肩をすくめながら答えた。
「仕方ありません。私が思いつく限りでは、リーダーしかいなかったのですから。それよりも、中に入って詳しく話をしてもいいですか?」
「私はもうリーダーじゃ・・・・・・って、そんなことはどうでもいいか。それよりも、このお二人を私の家に入れるのかい?」
「そうですよ。いつまでもこんなところで話をするわけにはいかないですから」
今まで彼女たちは、サリーの家の玄関先で話をしていた。
ただし、いくら一軒家とはいえ、一冒険者の稼ぎで建てた家の為、そこまで大きな家というわけでもない。
サリーの気が引けているのは、当然の反応といえるだろう。
だが、そんなサリーに構うことなく、リリカは半ば強引にシルヴィアとフローリアを家の中に案内した。
「――全く。妙なところで強引なのは、相変わらずかい」
「仕方ないじゃないですか。この方たちを、いつまでも外に立たせておくわけにはいかないですから」
リリカはどこ吹く風でそう答えたが、言い分は間違っていない。
ただし、シルヴィアとフローリアという組み合わせの二人を、こんな家に案内するべきではないというサリーの主張も間違ってはいないのだ。
「まあまあ、二人ともその辺にしておけ。まずはここに来た目的は話そうではないか?」
フローリアがとりなすようにそう言うと、二人は論争(?)を止めた。
その様子を見ていたシルヴィアは、現役の冒険者から離れてしばらく経つのに、変わらずに仲がいいのだなと感心するのであった。
お久しぶりのサリーの登場です。
裏では結構悲しい目にあっていましたが、相変わらずの性格ですw
施設の管理者をどうするかを考えたときに、真っ先に浮かんだのがサリーです。
孤児院ぽい体裁を整えるために、あとでリンが浮かびましたw