(5)基本方針
コレット経由で、シュレインとピーチにボードのことが伝わったのか、翌日にはふたり揃ってメモを貼りに来ていた。
その際、二人でしっかりと他のメモを確認していたのは、コレットからしっかりと情報を仕入れていたからだといえるだろう。
勿論、考助が前もって説明をしたわけではない。
シュレインとピーチが連れ立ってきたのを見ていた考助たちの前で、二人がいきなりボードの前に来てチェックし始めたのだ。
ちょうどそのときにリビングにいた考助とフローリアは、同時に顔を見合わせて苦笑をした。
この時、考助とフローリアの脳裏をよぎっていたのは、思った以上に最初から規模が大きくなりそうだ、であった。
三人だけで話をしていたときでも、当初の予定よりも話が大きくなっていたのに、コレットたちの要望も受け入れると、それどころではなくなってしまう。
すべての要望をいきなり受け入れるわけではないのだが、それでもいい意見は取り入れたい。
シュレインとピーチがいなくなったあとで、他の三人が書いて行ったメモをチェックした考助は、
「うーん、なるほど。確かに必要かもしれないなあ・・・・・・」
と、唸ってしまった。
三人揃って子育て真っ最中なので、それぞれの視点で書かれていて中々に参考になるものがあったのだ。
フローリアやシルヴィアも子育ては経験者なのだが、既に全員成人して久しい上に、二人ともヒューマンなので、別種族での視点が欠けている。
特に種族による子育ての違いは、孤児をわけ隔てなく受け入れる場合には、非常に重要になって来る。
「確かに、これはすぐに必要なものも多いな」
ボードを見たフローリアも、そう言いながら感心したように頷いていた。
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始まりの家のリビングにボードを張り付けてから一週間。
考助たちは予定通りに、打ち合わせを行っていた。
「――というわけで、ボードに張られていた内容をまとめてみたけれど・・・・・・さすがに全部を実行するのは無理」
「だろうな。もし、全部を実行するとなると、とんでもなく大きな施設になるだろう?」
「そうだね。やってやれないことはないと思うけれど、もしやったら、施設というよりは巨大団体?」
そもそも考助たちは、まったく得意分野が違った者たちが集まっている。
そのすべての専門家を育てるとなると、とんでもない数の子供たちが必要になる。
勿論、少数精鋭で育てることもできなくはないが、考助たちが持っている技術のすべてを少数の子供に押し付けるのは、いささか可哀そうすぎるというものだ。
というわけで、考助が出した結論はひとつになっていた。
「専門家をいきなり育てるのは諦めて、まずは基礎を中心に教えることになるかな」
「そうでしょうね」
考助の言葉に、シルヴィアも頷いていた。
ちなみに、考助が言っている基礎というは、あくまでも考助たちが基準なので、世界の常識では基礎とは言えないレベルだったりする。
それを提案した考助たちは、そのことには気づいてはいるが、敢えて見えていないふりをしていた。
そもそも考助が求めるレベルは、塔のダンジョン層を攻略してくれる冒険者パーティだ。
そのため、低レベルの冒険者だけを育てても意味がないのである。
だからといって戦闘に長けていない孤児を見捨てるというわけではないので、規模もどんどんと大きくなっていくというわけだ。
それは、孤児の数だけではなく、孤児を育てるための大人たちの存在もある。
もし、考助たちが求めるレベルの専門家を育てるとなると、とてもではないが他から教育者を連れて来ることは出来ないので、考助たち自身が教えることになる。
それは流石に時間的にも経験的にも問題が出てくるので、まずは様子見ということになっている。
とにかく考助は、専門性を高めるのは後回しにして、最初はシルヴィアの提案を受け入れることにした。
「よろしいのですか? コウスケさんのことですから、断られると思っていたのですが・・・・・・」
シルヴィアの提案というのは、以前話に出ていた騎士団のような考助を主神とした戦闘集団を作るというものだ。
だが、これは以前に考助が懸念した通り、ただの宗教ごり押し集団が出来る可能性もある。
だからこそ考助は反対をしていたのだが、よくよく考えれば、そうなり得ないということが分かったのだ。
シルヴィアの言葉に、考助は苦笑をしながら答えた。
「ああ、うん。本当ならそうなんだけれど、少なくとも今回作ろうとしている施設では、絶対にそんなことにはならないからね」
「そうか? 人は集団になると、特にわけのわからない方向に進むことがあるぞ?」
一国を取りまとめていた身として、重みのあるフローリアの言葉だったが、考助は首を左右に振った。
「いや、そういうことじゃなくて、ね。これから作ろうとしている施設に限っていえば、コウヒとミツキの目があるからそんなことにはならないかなって」
考助がそういうと、シルヴィアとフローリアは一瞬虚を突かれたような顔になり、コウヒとミツキを見比べたあとに大きく頷いた。
確かに、施設出身者が考助の名を使って余計な真似をすれば、このふたりが飛んで行くことになるのは、想像に難くない。
さらにいえば、そうなる前に育てている段階で、道を踏み外さないようにしっかりと教育してくれるだろう。
考助もすっかり忘れていたのだが、途中でコウヒやミツキから言われて、ようやく気付いていた。
もし、最初のときに勢いで決めていれば、間違いなく思い当たらなかっただろう。
これだけでも、一週間という時間を置いた価値はあると考助は思っている。
「確かに、言われてみればそうですね」
「そうだな。すっかり忘れていたが」
シルヴィアとフローリアも今更ながらに思い至ったのか、納得の表情になっていた。
「まあ、そういうわけだから、余計な心配はせずに、シルヴィアの案で行こうかなって」
「そういうことなら、私も反対することはないな」
コウヒとミツキがいるのであれば、大半の懸念点は大丈夫だという安心感がある。
ちなみに、考助のもう一つの懸念点である洗脳云々はあるのだが、そもそも施設を作って間接的にせよコウヒやミツキが関わることになる時点で、同じようなことは発生する。
それであれば、最初から教え込むようにしたほうが良いだろうという判断も働いている。
当然ながら、そこには考助の視点も入っているので、本当におかしな刷り込み(のようなもの?)はさせないつもりではある。
孤児の為の施設の基本方針さえ決まってしまえば、あとは肉付けをしていけばいい。
何を教えていくのか、どういう風に育てていくのかは、個人個人で変わることもあるだろうが、まずは基本があってのことだ。
そのためにもどういう方針で行くのかを考助は最初に発表したのだ。
その次は、その方針に沿って子供の面倒を見るための人材を集めたりしなければならない。
その前に考助は、塔のどの階層に施設(建物)を作るのかとか、実際に建物を作ったりをしなければならない。
ひとまず、人材の調達に関してはシルヴィアとフローリアに任せて、考助は箱(建物)を作るために動き始めることになるのであった。
段々と肉付けがされていって、次からは考助は建物作りに動き出します。
といっても、前回のように細々とした内容は書いて行きませんw
 




