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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(3)具体的な計画?

 結局、『烈火の狼』の面々がいるときには、孤児施設の話は具体的に進むことはなかった。

 とはいえ、考助も完全に諦めたわけではない。

 時には、どんな形にするべきか、色々と考えている様子が見られた。

 そんな感じで数日が経ち、シルヴィアとフローリアが始まりの家に揃っていたときに、考助に話しかけた。

「そもそも考助は、どんな感じの施設にしようと思っているのだ?」

「そうですね。ある程度の目標が無いと、具体的にどうするべきかもわからないと思います」

 最終的にどうするべきかを決めずに物事を進めてしまうと、結局はグダグダになってしまって頓挫してしまう可能性が高い。

 そうならないようにするためには、シルヴィアが言った通りに、最終的な目標を決めておくことだ。

 

 シルヴィアとフローリアに促されて、考助は腕を組んでからゆっくりと話し始めた。

「そうだね。まずは塔のダンジョン層を攻略できる人材を育てること。これは第一条件だね」

 そもそもの話は、アマミヤの塔のダンジョン層が攻略されないという話から始まっている。

 そこから軸がずれてしまっては、意味がないのだ。

「ダンジョン層、ですか。ということは、別に孤児でなくともいいのではありませんか?」

「それはそうなんだけれどね。でも、現状を考えたら冒険者の意識改革をするよりは、最初から育てた方が早いと考えたんだよ」

「ふむ。まさしく、急がば回れ、だな」

 考助の言葉に同意できるものがあったのか、フローリアがそう言いながら頷いていた。

 

 それとは逆に、シルヴィアは難しい顔になっていた。

「ということは、子供たちを育てて、極端に言えば洗脳をするということですね?」

「いや、流石に洗脳は言い過ぎじゃないかな? 今のところ僕が考えているのは、十人育てたうちの一人でもそういう考えを持ってくれたらいいと思っている程度だから」

 考助が期待をしているのは、施設を作ったうえで教育をしている間に、ダンジョン層を教材として使えないか、ということだ。

 それであれば、現状の閑散とした雰囲気もなくなるので、塔としてはマイナスになることはない。

 もっとも、考助は孤児院のような施設にどれくらいの金額がかかるかわかっていないので、あくまでも塔の利益しか見ていないのだが。

 

 考助の答えに、フローリアが目をパチクリとさせた。

「そうなのか? 私はもっと厳しい条件になると思っていたのだが?」

「いや、それ以上にしたら、シルヴィアが言った通りに洗脳になってしまうよ。さすがにそんなことをするつもりはないから」

「それはコウスケさんらしい答えといえますが、そもそも子供を育てる施設を作る以上、まったく洗脳をしないというのは無理ですよ?」

 極端な意見にはなってしまうが、そもそも人が人として生きていくうえで、常識というのは必要になって来る。

 そうした常識を子供に教え込む時点で、それは洗脳をしているのと大した違いがない、という意見もあるのだ。

 社会の中で当てはまって生きていく以上は、どうしてもルールに縛られてしまうのである。

 

 シルヴィアとフローリアの説明に、考助は苦笑を返した。

「いや、それは確かにそうなんだけれど、それと育てた子供たちにダンジョン層の攻略を押し付けるのとでは、まったく意味が違うから」

 最初から将来の選択肢もなしに育てられるのと、自分で自由に仕事が選べるのは、まったく違うという考えを考助は持っている。

 だが、シルヴィアとフローリアは、その考助の言葉に、首を傾けていた。

「そうか? そもそも将来の道があると示してあげるだけでも、十分だと思うが?」

「そうですね。コウスケさんの言いたいことは分かりますが、道を与えずに放り出す方が無責任だと言われることもあります」

 シルヴィアとフローリアの言葉を聞いて、考助は思わずうなってしまった。

 

 考助にとっては、職業選択の自由は当然の権利として考えているのだが、それはあくまでも自由に選べる仕事がある世界でのことだ。

 基本的には親の職をそのまま受け継ぐこの世界では、むしろ職を用意しない親が無責任ということになる。

 親と違う道を進む場合もないわけではないが、それはよほどの覚悟と思いが無ければ出来ないことなのだ。

 

 久しぶりに当たった常識の違いに、考助はため息をついた。

「あ~、なるほど。そういう考えになるわけか」

「そもそも、孤児たちは大抵がどこかの富裕層に雇われるか、冒険者になって行くからな」

「それに、聖職者になって行くという道もあります」

 孤児院にいる孤児たちは、単に慈善事業としてだけの為に存在しているわけではなく、運営する資金を出している組織のために存在しているといっても過言ではない。 

 神殿が孤児院を運営しているのは、信者を直接的に増やすためでもあるのだ。

 

「あれ? ということは、極端な話、僕が信者を増やすために孤児院を作って運営しても問題ない?」

 考助としてはそんなことをするつもりはなかったのだが、二人の話を聞いていると、そんな気がしてきた。

 そして、ふたりはそれに同意するように頷いた。

「というよりも、私はそうするつもりだと思っていたぞ?」

「そうですね。この場合は、コウスケさんのために動く騎士団を作るようなイメージでしょうか?」

「そうだな。昔にあったと言われている聖騎士団のようなものか」


 現在、この世界では聖騎士団は存在していない。

 教会という組織を守るための護衛が存在していないのは考助の常識では違和感があるが、そもそも神が実在しているこの世界では、神殿を攻撃するような愚か者は存在していないのだ。

 神殿を物理的にどうこうできる存在は、基本的には神なのだ。

 ちなみに、昔に存在していた聖騎士団が無くなったのは、神の名を冠して勝手に行動するようになり、その神から神罰を喰らったからということになっていたりする。

 そのため、教会や神殿がむやみに武力を持つことは、禁忌に近い状態になっているのだ。

 

 そうシルヴィアから話を聞いた考助は、首を傾げた。

「あれ? となると、僕が孤児の為の施設を作るのはまずい?」

「いえ。むしろ、直接関わっていると知られると、歓迎されることはあっても拒絶されることはないと思います。問題なのは、勝手に神の名を騙ることなのです」

「ああ、なるほど」

 好き勝手に神の名を使って、やりたい放題になれば、当然神の怒りを買うことになる。

 考助が孤児の為の組織を作って運営をしても、それが問題になるはずがないのである。

 

 シルヴィアの話に納得して頷いていた考助は、首を左右に振った。

「いや、とりあえず聖騎士団の話は横道にそれすぎたね。とにかく、育てた子供のための道は用意してあげるのが重要なのか」

「そうなのだが、今回は別に深く考える必要はないだろう? ダンジョン層を攻略させるという道があるのだから」

「そうですね。それに、そうした組織が出来る以上は、細々とした作業も出てくるはずです。戦闘に才能が無い子でも、出来る仕事はありますよ」

 育てたすべての子供が戦闘に力を発揮できるわけではない。

 だが、それでもまったく道が無いわけではないのだ。

 

 考助の目的と、子供たちの将来のことを考えて行けば、どういう施設を作るべきなのかもある程度は見えてくる。

 考助たちは、その後もどういう施設を作るべきなのかを話していった。

 話をしていた三人は、いつの間にか具体的な話に変わっていき、最後にはいつから開始しようかという話になっていることに気付いて、慌てて話を止めるのであった。

ちなみに、三人が話を止めたのは、たまたま遊びに来たコレットが冷静な突っ込みを入れたためですw

もしコレットが来ていなければ、実際に実行するまで突っ走っていたかもしれません。

(実行しないとは言っていない)

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