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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(2)責任

 『烈火の狼』との模擬戦が終わったあとで、考助たちは場所を移動して思い思いに会話をしていた。

 だが、考助だけはその輪には加わらずにいた。

 これは別に皆から除かれているのではなく、何事かを考えている様子の考助に皆が気を使って話をしていないのだ。

 考助がこうなったのが、自分との会話が原因だとわかっているリクは、時折気にしつつも仲間たちとの会話を続けていた。

 他の者たちも考助の様子には気づいているようだったが、話しかけることはしない。

 理由は様々あるが、共通しているのは、考助の邪魔をしないようにするということだった。

 

 そんな状況が一時間ほど続いて、そろそろ誰かが考助に話しかけようかという空気になりかけたときに、考助が不意にシルヴィアとフローリアを交互に見た。

「ねえ、シルヴィア、フローリア」

「なんでしょうか?」

「なんだ?」

「僕が孤児の保護施設を作るのって駄目かな?」

 それは、いきなりすぎる問いにも思えたが、訓練場での会話のことを考えれば、考助がどういう思考でそこにたどり着いたのかは察することが出来る。

 フローリアは模擬戦に参加していたので会話自体は聞いていなかったが、ある程度の話はシルヴィアとピーチから聞いている。

 

 考助の言葉に、シルヴィアとフローリアは顔を見合わせた後で、考助に答えた。

「駄目ということはないと思うがな?」

「そうですね。ただ、やはりコウスケが直接顔を出すとなると、騒ぎは起こるでしょうね」

「あ~、やっぱりそうだよね」

 考助が顔を出せば、間違いなく権力者を始めとして、様々な人間がその孤児の為の施設を訪ねて来ることになるだろう。

 そうなれば、孤児の育成どころではなくなってしまう。

 

 再び悩み始めようとした考助を見て、フローリアがそれを止めた。

「あ~、待て待て。確かに面倒は起きるとは思うが、別に諦める必要はないと思うぞ?」

「えっ!?」

「いや、なぜそこで驚く? そもそも、コウスケは前例を作っていたではないか」

「前例?」

「やっぱり忘れていたのか。以前、マドサクという組織を作っていただろう? いまでは完全にクラウンに吸収されてしまったが」

 考助が以前つくった魔道具作成部隊マドサクは、現在では完全にクラウンの一組織となっている。

 下手に隠してしまうよりも、きちんと表立って人員を守れるようにしたほうがいいと、シュミットをはじめとして、色々な方面から説得されたのである。

 考助としても、いつまでも抱えているつもりはなかったので、人員をそっくりそのままクラウン所属とした。

 結果として、マドサクという名前自体は既に無くなっているが、クラウンの一部門として大活躍をしているのだ。

 

 マドサクのことをすっかり忘れてしまっていた考助は、フローリアの言葉でようやく思い出していた。

「確かにあれは前例としては良いだろうけれど、今度はずっと続けられるようなものを作りたいのだけれど?」

「それは別に問題ないだろうさ。コウスケさえ覚悟を決めてしまえば」

「覚悟?」

「どんな形にせよ、コウスケが関わっているとなれば、施設の子供たちはその名を背負うことになる。勿論、関わり方も程度も違ってくるだろうが、責任は伴うと思うぞ?」

 施設で育った子供たちには考助のことをまったく知らせずに育てるのか、ある程度の知らせたうえで育てるのか、やり方は様々あるだろう。

 だが、これまでの考助の行動パターンからいって、たとえ名前を出していなかったとしても、完全に無視をすることはできないだろう。

 そうなってしまえば、考助の中に『責任』が生じてしまうのだ。


 フローリアが言った『責任』というのは、別に施設を作ったうえで生じるものではなく、考助自身が自分で背負ってしまうものを指している。

 その意図を組んだシルヴィアが、同意するように頷きながら続けた。

「そうですね。コウスケ様であれば、施設を作ったというだけで、色々なものを背負い込んでしまいそうです」

「それは、まあ、確かに」

 フローリアとシルヴィアから言われた考助は、否定もせずに頷いた。

 少なくとも、どこの街にでもある孤児院のように、完全に無視して過ごすことは出来ないと、自分でもわかっている。


 だがそれは、最初に手を出した者の責任としては、当然のことだとも考助は考えている。

「――でも、そんなことを言っていたら、本当になにもできなくなってしまうからね。責任を負うのは当然だと思うよ?」

 考助がそう答えると、嫁の三人とリクがほぼ同時にため息をついた。

 そして、代表してリクが考助に向かって言った。

「父上、こういうときは、金だけだすからあとは好きにしろというのが普通なんだが?」

「えっ!? そういうものなの?」

 考助が驚いてそう言うと、その場にいた全員が頷いていた。

 どうやら、無自覚なところで、違った常識を披露していたようだった。

 

 基本的にこの世界では、なにかの後ろ盾になろうと考える者は、基本的にはお金――寄付だけをして、あとは「よきにはからえ」とするのが普通なのである。

 わざわざ考助のように、自ら責任を負うなんて考えるのは、少数派といっていい。

 それは別に金を出している側が無責任というだけではなく、基本的にそういう寄付は、もらった側が責任を負うのだ。

 寄付をしたものが口を出せば、その時点で責任が生じることもあるが、そんな物好きなものはほとんどいないともいえる。

 

 変なところで常識の違いを知った考助は、何とも微妙な表情になった。

「確かに、寄付と考えれば責任は負わなくてもいい……いや、それってやっぱり違う気がする」

「まあ、コウスケがどう考えても別に構わないさ。それよりも、本当に責任を持ったうえで、施設を運営して行けるのかというだけだ」

「そうですね。どちらにせよ、コウスケ様が四六時中、子供たちをお世話できるわけではないでしょうから、そういう意味では責任は限定的になるのでしょう」

「うーん、そうか。まあ、そもそもどんな施設を作るのかも決まっていないんだから、今からそんな話をしても仕方ないかな?」

 具体的に話を進めて行けば、考助が負うべき責任も見えてくるだろう。

 その上で、実際に運営していくかどうかを決めて行けばいいだけだ。

 

 そう考えたところで気が楽になった考助は、具体的に話をしてみることにした。

「それで、シルヴィアはどう思う?」

「はあ。施設を作ること自体は良いと思うのですが、具体的にはどこにどういう感じで作るのでしょうか?」

 作った施設が、世間とどうかかわって行くのか、それと合わせて、考助がどのくらい表に出るのか、それによって助言するべき意見が変わってくる。

 まずは考助がどういう施設を作りたいのかを聞かないことには、シルヴィアも答えようがないのである。

 

 

 シルヴィアの言葉に従って、考助が今まで頭の中で考えていたことを話し始めた。

 それに、時折フローリアも具体的な質問をしていく。

 そして、それらの話を自然と聞く羽目になってしまった『烈火の狼』の面々はといえば・・・・・・。

「ねえ、リク。これって、私たちも関わることになるのかな?」

 次々と話が進んで行く状況に目を丸くしてきたカーリが、リクに聞いて来た。

「・・・・・・さあ、どうだろうな? 少なくとも何かの依頼をされたときは、断ることが難しくなるのは間違いないと思うが」

「あ~、やっぱりね」

 まだ具体的に『烈火の狼』に依頼が来たわけではないが、もしかしたら考助からの直接の依頼があるかもしれない。

 神からの依頼など、ほとんど受ける機会が無いはずなのだが、どうにも滅多にないはずの依頼が良く来るのはどういうことなのだろうかと、カーリは心の中で考えるのであった。

なぜ『孤児院』ではなく、『孤児の為の施設』なのかは、後々わかるはずです。

そのときまでしばしお待ちください。


そして、久しぶりに出て来たマドサクw

いつの間にかクラウンに吸収されていました。

長い時の流れで、そうしたほうが良いと判断しただけです。(遠い目)

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