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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(1)冒険者

 アマミヤの塔の管理層にある訓練場では、今日も激しい訓練が行われていた。

 訓練を行っているのは、リクを除いた『烈火の狼』の面々と、フローリア&シルヴィアのコンビだ。

「おー、スゴイな。フローリアとシルヴィアを押しているじゃないか」

 模擬戦を見ていた考助がそう感想を漏らすと、隣にいたリクがガクリと肩を落とした。

「・・・・・・父上。俺たちは一応、トップクラスのチームなんだが・・・・・・? しかも二対五で、二人のうち一人は防御メインじゃないか」

「それはそうだろうけれど・・・・・・まさか、今回は勝つつもりで来ていたとか?」

 何とも微妙な表情になっているリクを見ながら、考助はピンと何かにひらめいたような顔になってそう言った。

 

 その考助の突っ込みにリクは特に表情を変えなかった・・・・・・のだが、なぜか考助は納得の表情になった。

「そうかそうか。なるほどね。そういうことなら、こっちにも考えがあるよ」

「ちょっと待て。考えって、なんだ?」

 そう言いがら口元を引きつらせるリクに、考助はにやりと笑いながら答えた。

「いや、せっかくだから、妖精の一体でも参加させようかと」

「待って、いや、待ってください。それだと訓練になりません」

 ツラッとした顔で言ってきた考助に、リクは土下座せんばかりの勢いで頭を下げた。

 考助が呼べる妖精を一体でも呼ばれてしまうと、リクが言った通り、訓練にならなくなってしまう。

 

 目の前で頭を下げるリクを見ながら、それじゃあどうしようかと考える考助の耳元に、ピーチの声が聞こえて来た。

「そういうことでしたら、私がシルヴィアと代わりましょうか~」

「あら、ピーチ。良いの?」

 考助の問いに、ピーチが頷いた。

「良いのですよ~。たまにはしっかりと運動しないと鈍ってしまいますからね」

「そう。それじゃあ頼むよ」

 リクが「えっ?」という感じで顔を上げる間に、考助とピーチがさっさと話を決めてしまった。

 止める間もないというのはこういうことを言うのかと、リクは絶望的な状況に天井を仰いだ。

 

 そのリクの様子を見て、ピーチがいつもの調子で言ってきた。

「大丈夫ですよ~。きちんと訓練になるようにしますから」

 ピーチはあっさりとそう言ってきたが、彼女はその調整が出来るくらいの実力がある。

 だからこそ、リクも止めたかったのだが、既に本人と考助がやる気になっている以上、それは無理だとわかっていた。

 この時点でリクは、今日も勝つことは無理だったかと、内心で大きくため息をつくのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 シルヴィアとピーチが交代した後は、リクの予想通りに一方的な展開が続いた。

 勿論、先ほどピーチが言った通りに訓練だとはわかっているので、『烈火の狼』がまったく攻撃が出来ないというわけではないのだが、どれもこれも有効打になるような攻撃は出てこなかった。

 それくらいに、あちこちに移動するピーチに翻弄されていた。

「・・・・・・あれはどう考えても反則だろが・・・・・・」

 地面に手を付きそうになるくらいに頭を下げているリクの背中を、考助がポンと軽くたたいた。

「まあ、ピーチをやる気にさせてしまったのが不運だとおもって、諦めるしかないね」

「少しは慰めてくれるとかは、ないのかよ!?」

「あるわけないよ。なんで、大の大人になった自分の息子を慰めなくちゃならないんだよ」

 求める相手が違っていると言いたげな考助に、リクは複雑な表情になった。

 理由はどうあれ、自分が実の父親から慰められる図を想像したら、そんな顔が自然に出てきたのだ。

 

 そんなリクに、シルヴィアがくすくすと笑いながら揶揄うような顔になった。

「それもいいんじゃないですか? 本人の希望ですし」

「・・・・・・勘弁してください」

 真剣な表情になって頭を下げたリクに、シルヴィアはますますが笑みを深くして笑った。

 

 

 そんなどうでもいいことを話していた考助は、ふとなにかを思い出したような顔になってリクを見た。

「そういえば、ここ数年、ダンジョン層に冒険者が入っていないみたいなんだけれど、なぜかわかる?」

「いや、なぜも何も、稼げないからなんだが?」

 何とも分かり易いリクの回答に、考助は「あー」といいながら肩をすくめた。

 

 現在冒険者の行けるダンジョン層は、低/中ランクの第五十一層~第六十層と中/高ランクの第六十一層~第七十層がある。

 現在は、前者の第五十一層~第六十層はまだ比較的活動している冒険者もいるのだが、後者の第六十一層~第七十層になると、ほとんど入っている様子が見られないのだ。

 ただ、それもそのはずで、第六十一層に入る前の層は、第七十一層と第七十二層になっていて、出現するモンスターが強いため稼げる金額がまったく違っている。

 そのため、後者のダンジョン層に行けるような冒険者は、ダンジョンアタックを敬遠してしまう。

 

 それに、たとえダンジョンアタックをしたとしても、持ち帰ることが出来る素材の数には限りがある。

 さらに、途中でセーフティエリアもないことから、あまり深くまでダンジョンを攻略する者もいないのである。

 考助が塔の開放をしてからもその傾向はあったが、近年では攻略しようとする冒険者グループはほとんどいなくなっている。

 そのため、第六十一層~第七十層は、せっかく宝箱などを用意しても、閑古鳥が鳴く始末になっているのだ。

 

「冒険者にとっては稼ぎが重要だというのは分かるけれど、もう少し冒険する気になってくれないかなあ・・・・・・」

「いや、それを父上が言うのか?」

 セントラル大陸にある塔を攻略して以降は、考助はほぼ完全に引き籠ってしまって、冒険らしい冒険はしていない。

 敢えて挙げるとすれば、セントラル大陸の神域化などはあるが、それが冒険であるかどうかは微妙なところである。

 もっとも、冒険者らしい活動というのが、どういうものであるのかは、誰も正確に答えることなどできない。

 それは、依頼があれば何でも引き受けるのが、冒険者だからだ。

 

 というわけで、考助が言っている「冒険者」というのは、あくまでも考助のイメージでしかない。

「それに、冒険者なんて、現実的には命がけのギャンブルでしかないからな。父上みたいに夢を見ている奴なんて、限られているぞ?」

「夢が無いなあ」

 息子リクのまっとうな指摘に、考助は仕方ないという様子で息をついた。

 冒険者というものが職業である以上は、何よりも稼げるということが大事になるのは、考助もよくわかっている。

 それでも、未知の世界、未知の物を求めて行動するのが冒険者ではないか、とも考えてしまうのだ。

 

 そんなことを考えていた考助に、リクが肩をすくめながら言った。

「それだったら、父上が実際に動いたらどうだ・・・・・・って、無理か」

 考助の場合は、自ら動いたところで、現人神だとばれた時点で「やっぱりか」とか「当然だよな」という空気が流れてしまう。

 それでは、他の冒険者に夢を与えるという目的は果たせないのだ。

 考助自身も含めて、既に突出した実力を持っているので、周りに夢を与えるために派手に動いたところで、不信感を持たれてしまうだろう。

「無理だろうねえ。それだったら、いっそのこと、そういう人材を育てた方が早いかも?」

「父上に、そんな目利きが出来るのか?」

 将来実力が伸びてくるであろう人物を探し出すことが出来れば、あるいは考助が言ったことも実行できるかもしれない。

 

 だが、そんなことを聞いて来たリクに、考助はきっぱりと首を左右に振った。

「いや、無理」

「やっぱりか。それじゃあ、諦めるしかないんじゃないか?」

「そうだよねえ。はあ」

 リクの言葉に、考助は残念そうにため息をつくのであった。

ピーチがウキウキで模擬戦に参加。

気分転換の対象になっている『烈火の狼』の面々は、災難です。

ちなみに、途中ではリクも参加していたりします。


後半の「冒険者の夢」云々は何となく付け足した話なので、実際に実行するかどうかはわかりません。

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