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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(6)子供の頃の夢

 翌朝。

 朝食の席に招かれた考助は、ふと思い出したようにスコットを見た。

「そういえば、すっかり忘れていましたが、スコット様もスライムであれば、従魔にすることが出来るかもしれませんよ?」

「本当ですかっ!?」

 考助としてはスライムなので、がっかりされると思っての提案だったのだが、スコットの食いつきが良くて逆に驚いてしまった。

「え、ええ。絶対ではありませんが、試してみる価値はあるかと思います」

 考助がそう言うと、スコットは目を輝かせながら見て来た。

 スコットは、公爵家の当主であるはずだが、そうやっていると少年のようにしか見えない。

 

 考助が、隣で苦笑しているレンネを見ると、彼女は小さく頷いていた。

 それで話を進めても良いと判断した考助は、スコットに向かってさらに続けた。

「といっても、野生のスライムでは、いきなり試すのは少々危険かもしれません」

 いくらスライムといえど、下手に手を出せば、種類によっては酸などに焼かれてしまうこともある。

 そのため、テイマーと認められた者は、必ず最初は他の先輩テイマーに着いてもらってモンスターと契約を行ったりする。

 レンカのときのように、いきなり懐かれてじゃれつかれるのは、常識ではありえないのだ。

 

 考助の言葉にスコットはがっかりとした表情を浮かべたが、ここでレンカが首を傾げながら聞いて来た。

「もしかすると、コウは、スライムも持っているのか?」

「おや。どうしてそう思われたのですか?」

「いや、なんとなくじゃ。特に根拠はない」

 考助が問いかけると、レンカは肩をすくめながらそう答えて来た。

 

「何となく・・・・・・ね」

 レンカの答えに考助がぽつりと言ったが、隣にいたフローリアにはしっかりと聞こえていたようだった。

「なんだ? 何か引っかかることでもあるのか?」

「いや。単に、中々鋭いなと思っただけだよ」

 平然とした様子で行われたその会話に、一瞬スコットは流しそうになったが、重要な内容が含まれていることに気付いた。

 

 少し遅れて表情を変えたスコットは、慌てて考助を見た。

「鋭いということは、やはりコウ殿は従魔のスライムを持っているのですか?」

 スコットは考助が現人神であることは知っていても、スライムが神獣であり実際に所持しているということまでは知らなかったようだった。

「ええ。持っていますよ」

「ということは・・・・・・」

 そう言ったまま期待するような視線を向けて来たスコットに、考助は苦笑を返した。

「もしかしたらスコット様に合うスライムもいるかもしれませんね」

「コウ殿・・・・・・!」

 考助の言葉に、スコットは感激したように立ち上がった。

 

 一般的にスライムは、役に立たない従魔として知られている。

 最近では、クラウンが照明の燃料として役立てるようにしたため多少の地位の向上はしているが、それでも他の従魔に比べれば底辺を彷徨っている。

 そもそも照明の燃料として使うためには、スライムを討伐しないといけないので、従魔としては役立たずには違いない。

 そのスライムをこれほどありがたがるということは、考助にとっても嬉しいことだった。

 もっとも、スコットの隣では、レンネが少しだけ呆れたような視線を向けていた。

 

 そのレンネの視線に気付いているのかいないのか、スコットは考助を見ながら期待するような視線を向けている。

 それを見れば、スコットが何を期待しているのか分かるのだが、考助が何かを言うよりも早く、レンネがスコットにくぎを刺した。

「貴方。それ以上は、駄目ですよ」

 聞きようによっては貴族が平民に圧力をかけているように見えるので、それ以上は駄目だと言っているように聞こえるが、レンネはそういうことを言いたかったわけではない。

 自分が従魔を得られるかもしれないということで興奮しているスコットは気付いていないが、いまのやり取りは、現人神に物をおねだりしていることになるのだ。

「あ・・・・・・」

 レンネに言葉で正気に戻ったスコットは、少しだけ顔を青ざめさせた。

 

 レンカはなにやらおかしな空気を感じて、スコットとレンネのやり取りを不思議そうに見ていたが、考助たちは勿論きちんと意味が分かっている。

「レンネ様。別に構いませんよ。というよりも、断るつもりなら最初から話をしていません」

 考助がそう言うと、スコットがあからさまにホッとした表情になり、レンネは小さく頷いた。

「そうですか。ですが、申し訳ありません。主人は、昔から従魔を手に入れたかったようですから」

「そうなのか?」

 レンネの言葉に、レンカが食いついて来た。

 その表情は、初めて聞いたという顔になっている。

 

 そんなレンカに、レンネが少し笑いながら答えた。

「そうなのですよ。レンカがあの子たちを連れてきたときに、飼うことをすぐに許可したのは、自分の家で従魔を飼うことが夢だったからなのよ」

「レンネ・・・・・・」

 あっさりと暴露された秘密に、スコットが情けないような顔になり、逆にレンカは驚いたような顔になった。

「全く気付かなかったのじゃ・・・・・・」

「それはそうです。いくら幼い頃からの夢だったからといって、簡単にレンカに悟られるようでは、ね」

 非常に優しい口調で話していたレンネだったが、なぜかスコットはその場でブルリと震えていた。

 

 それを見て、何となくスコットとレンネの力関係を悟った考助は、助け舟を出すように言った。

「それで、今日はスライムを連れてきていませんので後日になると思いますが、いかがいたしますか?」

「そ、そうだね。私もこれから一週間ほどは忙しくなるから、その後でということでどうだろうか?」

 考助はスコットの提案に頷いてから、詳細な日程を詰め始めた。

 それを聞いていたレンカも、考助がまた屋敷に来るということで喜んでいた。

 こうして、考助たちはもう一度この屋敷に来ることが、とんとん拍子で決まったのである。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 塔の管理層へと戻る途中で、フローリアが考助に聞いて来た。

「随分とあの親子に肩入れするようだが、なにか理由でもあるのか?」

「え? いや、特に理由なんてないよ?」

 考助にしてみれば、単に話の流れでそうなったとしか言いようがない。

 そのため、フローリアの問いにも不思議そうな顔になって答えるだけだった。

 

 だが、ここでシルヴィアが少しだけ笑顔になりながら会話に混ざって来た。

「スコット様の姿を、ご自分に重ねたのではないでしょうか?」

「ほほう。なるほど。そう言うことなら納得だな」

「えっ!? いや、ちょっと待って。どうしてそうなるの!?」

 シルヴィアの言葉に、フローリアはしたり顔で頷き、考助は慌てていた。

 全く自覚のなかった考助だったが、シルヴィアの中ではなぜかそうなっていたらしい。

 

 考助の様子を見て、シルヴィアは首を傾げた。

「おや。違いましたか? スコット様とレンネ様のやりとりは、コレットやフローリアに責められるコウスケさんに似ていると思ったのですが」

「シルヴィア・・・・・・」

 はっきりとそう言ってきたシルヴィアに、考助はガクリと肩を落として、フローリアは遠慮なく笑い出した。

 ここで考助がはっきりと反論しなかったのは、多少なりとも自覚があったためである。

 

 そんないつも通りの夫婦漫才(?)を繰り広げながら、考助たちは管理層へと戻って行くのであった。

最後の落ち(?)は、本編には何ら関係ありません。

少し文字数が余ったので、付け加えただけですw


次は、スライムを連れて一週間後・・・・・・の前に。(ここから先は秘密)

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