(4)王家の血筋
考助が泊まって行くとわかったレンカは、矢継ぎ早に次々と質問をしていった。
それは、狼たちの日常の何気ない仕草から本当に深刻そうな問題まで、多岐にわたっていた。
その一つ一つに、考助は丁寧に答えて行ったのだが、スコットはそれをレンカには見つからないように、ハラハラしながら見守っていた。
そして、ついに限界というところで、口を挟んだ。
「レンカ、少しは落ち着きなさい。コウ殿が困っているではないか」
「えっ!? いや、じゃが、まだまだ聞きたいことは一杯あるのじゃが・・・・・・」
父親の制止に、レンカは困ったような顔になった。
そのレンカの顔を見た考助は、笑いながら首を左右に振った。
「ハハハ。いや、いいのですよ。私も思わぬ発見があって、楽しいのですから」
考助はそう答えたが、それは別に社交辞令とかではなく、本当に本心から言っていた。
普段、考助は何気なく眷属(狼)と接しているが、レンカに聞かれて答えていくうちに、そう言う意味があったのかとわかるものもあった。
そういう意味では、考助にとっても新しい刺激になっているのだ。
考助の言葉でようやく内心のハラハラが止まったのか、スコットは「それならいいのですが」と引き下がった。
そのやり取りを見て、一瞬スコットが考助に気を使っているように見えたレンカが首を傾げたのだが、すぐに別の話をし始めた。
といっても、スコットに話を切られて思考がずれたのか、今度は質問というよりは、普段の狼の様子を披露し始めた。
簡単にいえば、何々の仕草が可愛かったとか、何々をやっているときは凛々しかったとか、飼い狼自慢である。
それに考助が乗ったために話が盛り上がり、それを見ていた周囲が引くほどになっていた。
よくよく聞けば、そんなことにまで注意して見ているのか、と驚くような内容なのだが、話している二人を見ているとつい条件反射的に顔を引き攣らせてしまうような状態だった。
とにかく、これはふたりが落ち着かなければ収まらないだろうということで、既に諦め切った顔になっている。
スコットやレンネが、フローリアとシルヴィアに助けを求めるような視線を向けたりしていたが、二人は首を左右に振っていた。
しばらく止めるのは無理だという意思表示である。
そうこうしている間に、そろそろ夕食だという時間が迫って来た。
困ったように考助とレンカを見比べているレンネを見て、ここでようやくミツキが考助に声をかけた。
「コウ様。そろそろ夕食の時間ですよ」
「えっ!? もうそんな時間か」
「・・・・・・むう。時間が経つのが早いのじゃ」
そう言って頬を膨らませたレンカに、考助は笑いながら答えた。
「ハハハ。そうだね。でも、ご飯を抜くのは駄目だから・・・・・・というよりも、狼たちのご飯は大丈夫なの?」
考助が心配したようにそう聞くと、レンカはハッとしたような表情を浮かべた。
「そうじゃ! 忘れるところじゃった!」
慌てたようにそう言ったレンカは、そのまま勢いよく部屋を飛び出してった。
それは、どう見ても貴族の令嬢が取っていいような態度には見えなかった。
だが、レンネがそれを注意しようにも、そのときには既にレンカは部屋から姿が見えなくなっていたのである。
レンカの早業に、スコットが考助を見て頭を下げた。
「娘がご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
「いや、別に迷惑だなんて思っていませんよ?」
不思議そうな顔で言った考助の肩を、フローリアがパシと叩いた。
「あのな、考助。いまの部屋の出方だけでも、貴族にとっては無作法もいい所なのだぞ?」
「うぇっ。やっぱり面倒だねえ。貴族」
舌を出しながら顔をしかめた考助に、スコットとレンネは苦笑することしかできなかった。
ふたりにも、考助がどういう考え方をするのか、おぼろげながらに掴めて来たということだ。
そのスコットに向かって、考助がふと思い出したように聞いた。
「そういえばお伺いしたかったのですが、この家の先祖に、有名なテイマーとかサモナーとかはいますか?」
「えっ!? えーと、はい。確かにいるにはおりますが・・・・・・?」
唐突すぎる考助の問いに、スコットは首を傾げながらも頷いた。
実はカーディガン家は、何人かのテイマーを輩出している家系なのだ。
だからこそスコットも、自分も狼が扱えるのではと期待して、考助に聞いたのである。
そのスコットの答えに、考助は納得した顔で頷いた。
「やはりそうですか。レンカと話をしていたときもそうですが、貴方も時折頷いていらしたので・・・・・・」
「コウスケ、それはどういうことだ?」
考助の言葉に意味が分からずに、フローリアが踏み込んで聞いて来た。
考助は時折こうして自分だけが納得できる言葉で話をすることがあり、意味が通らなくなる時があるのだ。
フローリアの問いに、考助は一瞬だけ戸惑ったような顔になった。
「え、えーと・・・・・・。レンカと話をしていて何となく思ったんだけれど、テイマーとかの素養がある人って、やっぱり注意深く相手を見ている気がするんだよね」
「ふむ。普通では気付けないような、細かい仕草に気付いているとかか?」
「たぶん、だけれどね。スコットさんも、他の人にはわからなかったような話で頷いていたりしましたよね?」
考助に話を向けられて、スコットは慌てたような顔になった。
「えっ? あれ? そうでしたか?」
スコットは自分では意識していなかったので、まったく気付いていなかった。
ただし、それは他の者たちも同じで、スコットが首を傾げていても、その問いに答えられる者は考助以外には一人もいなかった。
「少なくとも私にはそう見えましたよ」
「なるほどな。だからこそ、先ほどの言葉に繋がるのだな。・・・・・・うん?」
考助の言葉に納得して頷いたフローリアが、不意に何かを思い出したように首を傾げた。
「フローリア?」
「ああ、いや。確か・・・・・・この国の初代は、有名なテイマーではなかったか?」
昔に聞いた記憶を思い出したフローリアは、確認するようにスコットとレンネを見た。
フローリアに視線を受けて、スコットが頷いた。
「ええ、確かにその通りです。ただ、ドラゴンを従えていたとか、どこまで本当かは疑わしい所ですが・・・・・・」
本来であれば、国の代表である貴族が、国の初代国王の噂を否定するようなことをすれば、王家に傷をつけたと処罰されてもおかしくはない。
だが、この話に関しては、王族自身が話半分だろうと認めているので、スコットも気軽に話をしている。
そもそも、本気で初代国王がドラゴンを従えていたなどと言えば、苦笑されるか、下手をすれば正気を疑われることになるだろう。
だが、考助はその噂を笑わずに真剣な表情になって頷いた。
「なるほど。もしかしたら、この家にも王家の血は入っていたりするのですか?」
貴族というのは、王家の権力を求めて積極的に姫を迎えたりする。
そのため、長い歴史がある貴族ほど、王族の血が当然に入っていたりするものだ。
「ええ。何度か姫を迎えていたりします」
「そう。だとしたら、そのお陰もあるのかな?」
「いや待て。だとすれば、王家の方がテイマーとして優れていなくてはおかしいということになるぞ? ・・・・・・まさか?」
頷いている考助に訂正を求めたフローリアだったが、話している途中で考助が何を言いたいのか気付いて、少しだけ驚いたような顔になった。
「確かこの国って、貴族の子供たちが各地を旅する習慣があるのですよね?」
そもそも考助がレンカと出会ったのは、その習慣があったためだ。
考助の疑問に頷きつつ、スコットも考助が何を言いたいのかわかって驚いたような顔になっていた。
「成人前の旅は、テイマーとしての技術を磨くための旅、ということですか?」
「さあ、どうでしょうね? 実際にはきちんと王家に確認してみないとわからないと思いますよ」
最後は曖昧な結論になってしまったが、こればかりは考助が言った通り直接王家に確認してみないとわからない。
それをするかどうかは、考助ではなくスコットの判断によるのだ。
あくまでもこの国にとっては『お客さん』でしかない考助は、自らがそこまで深入りするつもりは無いのである。
話が王家に飛び火w
でも、考助は深く突っ込みません。
(今回は本当に突っ込みませんw)
中途半端に感じるでしょうが、考助にとっては王家にテイマーとしての才能があるかどうかは、
割とどうでもいいことです。
それよりも、レンカとの繋がりのほうが重要なのです。




