(1)久しぶりの再会
ここから第12部第7章開始です。
考助は、レンカから連絡を受けて、彼女のいる屋敷を訪ねていた。
もらった連絡は大したことではなく、たまには狼たちの様子を見に来てほしいといったものだった。
ただ、考助が軽い気持ちで、行くのは構わないと返すと、なぜか返事がすぐに帰ってきて、両親の了解は取ったので来てほしいと書かれていた。
しかも、ご丁寧にも両親の許可を得たという証拠のように、本当に親が書いたと思われる手紙が別で入っていた。
それを読んだ考助が、フローリアに一応確認したが、間違いなく来てほしいと書かれていた。
ちなみに、わざわざフローリアに確認をしてもらったのは、考助にとっては難しい貴族的な言い回しで書かれていたからだ。
これを読み間違って対応してしまうと、時にとんでもない齟齬が生まれて、騒ぎになったりする。
それを避けるためだったのだが、今回に関しては、考助の解釈の違いはなかったというわけだ。
流石に両親の了解付きで正式に招待されたので、考助としても曖昧に返答するわけはいかない。
フローリアと相談した結果、行っても構わない、というよりも、行ったほうが良いだろうということになった。
手紙の文面ではいまいち詳細は不明だが、どうもレンカの両親は、直接考助に会って礼を言いたいことがありそうだということがわかった。
考助としても、そこまで言われてしまっては、無視するのはいささか気分的に気持ちが悪い。
少し悩んだ考助は、フローリアとシルヴィアに相談したうえで、レンカの家に訪問することを決めたのだった。
ちなみに、訪問を了承した考助の返事を受け取ったレンカは、彼女にしては珍しく落ち着きもなく家の中を彷徨っていたところを目撃されている。
それを両親が微笑ましく見守っていたりしたのだが、それは考助には預かり知らないことである。
そんな流れでレンカの屋敷を訪ねた考助は、いきなり彼女の両親に頭を下げられていた。
「え、えーと? いきなりそのようなことを貴族の方にされても、意味が分からないのですが?」
今までの様子で頭を下げられるようなことでもあったかと考えた考助は、横にいたフローリアを見たが、彼女は首を左右に振っていた。
ちなみに、レンカは狼たちを連れて来るといって、この場からは離れている。
意味が分からずに思いっきり戸惑う考助に、父親のスコットがレンカによく似た口元を緩めてから言った。
「ああ、済まないね。レンカにあの狼たちを譲ってくれたのが君だと聞いて、どうしてもお礼を言いたくてね。多少強引だと思ったが、わざわざ来てもらったんだ」
普通であれば、貴族から招待されれば断ることはまず不可能なのだ。
考助のことを知らないスコットが、強引だったと考えていることは不自然なことではない。
それよりも、考助としては別に気になることがあった。
「お礼・・・・・・ですか」
手紙にも似たようなことを書いていたが、考助はレンカはともかく親から礼を言われるようなことをしたとは考えていないのだ。
首を傾げる考助に、スコットは頷きながら続けた。
「ああ。狼たちを連れて来る前のレンカは、確かに賢くて優秀な子ではあったんだが、逆に心配な面もあってね」
「あの子がああして笑うようになったのは、あの狼を連れてきてからです。だから、私たちはあなたにお礼を言いたかったのです」
スコットの言葉を引き継いで、母親であるレンネが、レンカとよく似た目を細めながら考助を見てきた。
レンネの好ましいものを見るような視線にくすぐったさを感じた考助は、わずかに身動ぎをしてから頷いた。
「そういうことでしたか。それでしたらお二人からのお礼をお受けいたします。ですが、これ以上は不要ですよ。私にも私なりの目的があって、あの狼たちを渡したのですから」
狼のお陰でレンカが子供らしい笑顔を得たというのであれば、それは喜ばしいことではある。
ただ、考助にしてみれば、それはあくまでも狼の手柄であって、自分のものではないという認識なのだ。
なので、いつまでもそのことで頭を下げられても居心地が悪いとしか言いようがない。
そう返してきた考助の言葉に嘘はないと判断したのか、スコットとレンネはそれ以上はなにも言わずに、ただ小さく頷くのであった。
♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦
少しの間、シルヴィアとフローリアを交えながら雑談をしていると、不意にスコットが考助を見ながら聞いて来た。
「そういえば、先ほど君にも目的があると言っていたが、それが何か、差し支えなければ教えてもらってもいいかな?」
その視線が真剣なものになっていることに気付いた考助は、一度頷いてからふとこれまでとは全く違った方向へと視線を向けた。
「話すのは構いませんが、それは後にしませんか?」
「なに?」
「いえ。お嬢様が来られたようですので」
何事かと眉をひそめたスコットに、考助が視線をずらしながらそう答えた。
考助と同じ方向を見たスコットは、そちら側からレンカが来ているのを見つけて頷いた。
「――なるほど。確かにそのほうが良いようだね」
「はい。特に隠すつもりはありませんので、ご安心ください」
考助のその言葉に、すっかり見抜かれているとわかったスコットは、苦笑をしていた。
考助とスコットがそんな話をしている間に、五体の狼を引き連れてきたレンカが近付いて来た。
考助が見た感じでは、それぞれの狼はよくレンカのいうことを聞いているように見えた。
レンカに渡したときにはまだ子狼だった二体は、すっかり成体の大きさに成長していて、考助から見ても完全にレンカに懐いている。
その証拠に、二体の狼がレンカに纏わりつくように歩いていて、残りの三体のうち二体は少し離れたところを歩いていた。
離れたところを歩いている二体は、念のためステータスを確認すると、やはりというべきか、教育と監視用に預けていたホルとヘルだった。
最後の一体は、どっちつかずの場所を歩いている。
それぞれの位置関係を見れば、今のレンカとの関係がはっきりと分かるようになっていた。
少し離れた所から確認していた考助は、ある確認をするために、スッと両手を広げた。
すると、ホルとヘルは嬉しそうに尻尾を振りながらダッシュで考助の所へと近付いて来た。
「おー。元気だったか、お前たち。子供たちも元気に育っているようで、安心したよ」
考助がその二体に話しかけるが、当然言葉で返って来ることはなかった。
だが、その態度を見れば、何となく言いたいことは理解できる。
ひたすら甘えてくるホルとヘルを、考助は苦労をねぎらうように何度も首筋を撫でていた。
考助たちの様子をスコットとレンネは、唖然とした表情で見ていた。
それもそのはずで、ホルとヘルは、家の者が何をしようとも懐くようなことは絶対になかったのだ。
勿論、暴れ出したりなどの迷惑を掛けることはなかったが、絶対に触れされるようなこともなかった。
それが、考助の前ではただの犬のようになっている。
驚くなという方が無理だった。
その両親の様子を見て、近付いて来たレンカが笑いながら言った。
「だから言ったじゃろ? コウ殿は別格じゃと」
「いや、確かにそうなんだろうけれど、これは凄すぎではないか?」
自分では決して近寄ることもできなかったホルとヘルがただただ甘えている様子に、スコットは呆然としたままそう言った。
そして、その親子の会話を聞いたフローリアが、念のため釘を刺した。
「これまでのことでわかっていると思いますが、あれは例外中の例外です。決して真似はなさらぬようにお願いします」
フローリアが重々しい声でそう断言すると、当人を除いた全員が、当然だという顔ではっきりと頷くのであった。
レンカ再登場!
このままレギュラー化するのでしょうか?
それは作者にもわかりません!
(今でも十分レギュラーという声は無視でw)




