(4)再びの登場!
第五層の屋敷を出た考助とミクは、そのまま自分の足で、街の中心街へと向かった。
第五層の街の中心街は、ラゼクアマミヤのお役所とクラウン本部がある所謂ビジネス街と多くの商店が集まっている商店街に綺麗に別れている。
そもそもこの街は、出来た当初から計画的に作られているので、中心部だけはその名残が残っているのだ。
ただし、外側に向かうにつれて、徐々に雑多になって行くのが見て取れる。
勿論、役所の制限があって勝手気ままに街が拡大していっているわけではないのだが。
屋敷のある場所から中央にある商店街は、歩きでもすぐにつく場所にあるので、考助たちはまず初めにそこを目指した。
流石にミクも親と手を繋いで歩くのを恥ずかしがるような年になっているのか、以前とは違って考助よりも少し先を歩いている。
それを少しだけ寂しく思いながらも、未だにこうしてミクのほうから誘ってくれていることに、考助は喜びを感じている。
そんな親としての感傷に浸っていた考助だったが、いつの間にかミクがすぐ傍に来て首を傾げていた。
「お父様、どうかしたの?」
「ああ、いや、何でもないよ」
小さく笑って誤魔化した考助だったが、突然割って入って来た声に、びくりとしてそちらを見た。
「そうですよ~。お父さんは、少しだけ寂しがっていただけですからね」
「うおっ、ピーチ!? いつの間に?」
「フフフ。ちょっと前に追いついたのですよ~」
屋敷に残っていたはずのピーチが追い付いて来たことに、考助は驚き、その当人は何ということもないという顔になっていた。
実際、ピーチにとってみれば、この程度の距離で人目につかず追いつくことなど、簡単なことなのだろう。
ちなみに考助は知らないことだが、ピーチは屋敷で制裁を行った後で追いついていたりする。
驚く考助の一方で、ミクはいるのが当たり前という顔でピーチを見ていた。
「お母様、寂しいって、どういうこと?」
「ああ、それはですね~・・・・・・うーん。ミクにはどうしようもないことですから、気にしなくても良いですよ」
「ええっ!? そんなこと言われたら、ますます気になるよ!」
目を見開いて驚くミクに対して、ピーチはフフフと笑みを浮かべた。
「そんなことよりも、今はお父さんとの散策を楽しむのですよね~?」
「ううっ。・・・・・・気になる」
誤魔化された感満載という顔をしていたミクだったが、こうなったピーチには勝てないとわかっているのか、諦めたように肩を落とした。
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ピーチが合流したあとは、中央の商店街で適当な店に入りつつ、ウィンドウショッピングを楽しんでいた。
その際、あからさまに胡散臭そうな視線を向けて来た店もあったので、すぐに店を出て名前を記録しておく。
あとでトワなりミアなりに情報を流すのだ。
その情報をどう使うかは、ふたり次第ということになる。
考助たち三人は、そんなことで一々腹を立てても仕方ないと割り切っているので、まったく気にせず街の散策を続けていた。
中央の商店街にある店をすべて回るとそれだけで一日が終わってしまうので、考助たちは適当なところで切りあげて、大通りを中央から外れて進んで行った。
第五層の街は、外部からの馬車の移動はないが、転移門から来ているものはある。
大通りには、そうした外部の人間を泊める宿泊施設だったり、飲食店、屋台などがずらりと並んでいるのだ。
街の様子を知るには、そうした大通りに並んでいる屋台などを冷やかすのもひとつの方法だと考助は考えている。
もっとも、シュレイン辺りに言わせれば、単純に食い意地が張っているだけということになるのだが。
そんな裏事情(?)は横に置いておくとして、ミクは大通りに並んでいる屋台を、目を輝かせながら見ていた。
人が並ばないような屋台の店主にとっては、冷やかし上等、その中で買ってくれる者がいれば最大限に売り込むというのが常套手段になっている。
まずは自分の店に並んでいる商品を見てもらうことが、名のない屋台にとっては重要なのである。
そのため、冷やかしで見ている考助たちを邪険にするような店主はほとんどいなかった。
そんな中で、ミクがとある屋台の前で足を止めた。
「おや、可愛らしいお嬢さん。これが気になるかい?」
一瞬綺麗なミクの顔を見て目を丸くした店主だったが、すぐに商売のことを思い出してそう言ってきたのは、流石といえるだろう。
その商売根性に、考助も一瞬心の中で拍手をしていた。
ただし、考助としてもミクと同じようにその屋台で売られている物が、そんなことよりも気になっていた。
屋台にぶら下がっているそれを見ていたミクは、とても嬉しそうな表情になって振り返りながら考助に言ってきた。
「お父様、これ、覚えている?」
「うん。勿論だよ」
まるで考助のその返答に合わせるように、ミクが指示したその商品がチリーンと音を立てた。
ミクが見つけたその商品は、考助たちにとって非常に懐かしい風鈴だった。
勿論、懐かしいといっても以前に買った風鈴は、きちんと壊れずに残っている。
というよりは、考助に買ってもらったミクが、大事に大事に使い続けて、未だに自分の部屋の窓に飾ってあるのだ。
本来は夏の暑い時期に飾る物だと考助はきちんと教えたのだが、ミクは全く気にした様子もなく飾りっぱなしにしていた。
もともと音自体を楽しんでいるミクにとっては、気温の変化などはあまり関係ないのだ。
それはともかく、この街で風鈴が売られていることに感心した考助は、店主を見て聞いた。
「まさか、ここでこれが見られるとは思わなかったよ。いつ入ってきたんだい?」
「お前さん方、お目が高いね。これが東の街から来た物だってわかっているのかい」
「ああ。だいぶ前に東の街で同じように屋台で売られているのを買ったからね。いまでもこの子が大事に使っているよ」
考助がそう説明すると、店主は嬉しそうに目を細めた。
「おや、そうなのかい? それは嬉しいねえ。それで、いつ入ってきたのかだったかい。それはね――」
店主はそう前置きをしてから、現在の風鈴の状況について話を始めた。
といっても、屋台の店主の話は実に単純だった。
店主がこの街で風鈴を売るようになったのはごく最近のことで、東の街で徐々に広まってきているのを見て、こっちに持ってくることを決断したそうだ。
店主曰く、塔の街で商品を広めることが出来れば、大陸のどの町でも広めることが出来るそうだ。
ちなみに、東の街では既に屋台ではなく、小さめの店舗に置かれるようになっているようだった。
別大陸から商品を仕入れている人物が、考助たちの知るあの屋台の店主かどうかは確認できなかったが、考助としてはそうであってほしいと思ってしまった。
考助が店主から話を聞いている間、商売的な話には興味が無かったのか、ミクが真剣な表情で風鈴を選んでいた。
「ミク、買うのかい?」
「うん。だから少し静かにしていて」
相変わらず真剣な表情で頷いたミクは、ひとつひとつの風鈴の音に耳を傾けていた。
ミクが考助になんの相談もなく選んでいるのは、買ってもらうつもりではなく、自分でお金を出すつもりだからだ。
里での訓練でモンスターを自力で倒しているミクは、自分で使えるお金も年の割には持っているのだ。
結局、屋台に並んでいる風鈴を散々吟味してひとつを選んだミクは、考助が出すというのを断り、自分でお金を出して買っていた。
ついでに、すっかり自分で出す気になっていた考助は、それならと始まりの家に飾る用に、別途選んで購入するのであった。
(タイトル続き)風鈴が。
ということでしたw
初風鈴登場回を書いたのは少し前だと思っていましたが、話数にすると結構前なんですよね。
しかも、ミクもかなり成長していますしw
そんなミクは、来年学園入学です。




