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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(3)人は見かけによらず

 考助は第五層の街で散策をしようと、ミクと一緒に屋敷を訪ねた。

 その屋敷のリビングでは、既に学園での授業を終えたセイヤとシアが、カインと一緒に紙を広げてなにかをやっていた。

「あ、父さま。何かあったの?」

 真っ先に気付いたシアが、顔を上げて考助に向かってそう聞いて来た。

「いや。ちょっとミクと散歩をしようと思っただけだけど・・・・・・。それはともかく、カイン君、いらっしゃい」

 考助は、既に何度もこの屋敷でカインの姿を見ているので、すっかり名前も覚えてしまっていた。

 

 ところが、いつもは真っ先に立ち上がって挨拶をしてくるカインが、なぜかこの時ばかりは無反応だった。

 すぐにカインの様子がおかしいことに気付いたセイヤが、目の前で右手をパタパタと振りながら声を掛ける。

「おーい。カイン先輩。どうしたんだ?」

 目の前で手を振られたカインは、さすがに気を戻したようで、ハッとした表情になりながら考助に頭を下げた。

「お、お邪魔しています! 失礼いたしました」

「ああ、いや、うん。それは別にいいんだけれどね」

 考助はそう言いながら、何も気づいていないふりをしながら首を左右に振った。

 

 カインが考助を目の前にしながら、なぜ言葉を失っていたのか、それは彼の視線の先を見ればすぐにわかった。

 その視線の先には、考助が連れてきていたミクがいたのだ。

 さすがにそれには、考助だけではなく、当事者の二人以外は全員気が付いている。

 カインにとって不幸だったのは、一番気付いてほしいはずのミクが、まったくカインには視線を向けなかったことだろう。


 さらにミクは、考助の袖を引っ張ってこう言ってきた。

「お父様、早く行こう」

「はいはい。わかったからそんなに強く引っ張らないでね」

「むー。そんなに引っ張ってない!」

 そう言って、頬を膨らませながら抗議して来たミクに、考助は軽く「ハイハイ」と受け流した。

 

 ミクに催促された考助は、セイヤたちに視線を向けた。

「それじゃあ、僕たちはこのまま街に出るから、ゆっくりして行ってね」

「はい!」

 考助に元気よく返答したカインだったが、それが誰に向けているのか、その場に残った全員が完璧に察していた。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 考助たちがいなくなった屋敷では、カインがバッとセイヤを見ていた。

「セ、セイヤ、あのお嬢様は?」

「お、お嬢様って!」

 ミクの実態を知っているセイヤは、思わず吹き出しそうになった口元を抑えながら、なんとかそう声を絞り出していた。

 カインが不思議そうな顔でセイヤの横を見れば、シアが同じように吹き出しそうになりながら横を見ている。

 

 ふたりの反応に首を傾げたカインだったが、めげずにもう一度問いかける。

「なあ、知っているんだろう? 一体、誰なんだ? あの方とはどういう関係なんだ?」

「はあー。やっと落ち着いた。まあ、カイン先輩、少し落ち着こうか」

 そう言いながら自身が落ち着くように深呼吸をしたセイヤは、勿体つけるように間を開けてからカインを見た。

「あの子はね。僕らの妹だよ。母親は違うけれど」

「そうそう。ひとつ下だから来年入学すると思うわよ?」

 セイヤとシアからの情報に、カインは「来年入学・・・・・・」などと呟いている。

 

 そんなカインに、セイヤは面白がりながら現実を突きつけることにした。

「カイン先輩。ひとつ言っておくけれど、ミクは辞めておいた方がいいと思うよ?」

「な、なな! いいい、一体、何の事?」

 盛大にどもりながら答えて来たカインに、セイヤはため息をつきつつ、気にしない方向で話を続けた。

「まあ、誤魔化すつもりならそれでいいけども。それより、ミクは『対人』に関しては、僕ら兄弟の中でも一、二を争うからね」

 セイヤが少しばかり声を潜めてそう言うと、カインは何を言われたのかわからないと言った表情になった。

 

 セイヤが言った『対人』というのは、業界的な用語で、所謂暗殺を含めたすべての人に対する技術のことを指す。

 敢えて対人戦と言わないのは、単に一対一で向き合ってヨーイドンでする戦闘行為以外のことも含んでいるからである。

 早い話が影の技術も含んでのことを対人と呼んでいる。

 一般的には知られていない用語なのだが、学園の生徒は時に暗殺を含めた襲撃なども行われる可能性があるので、教わっている。

 

 少しばかり遅れてセイヤの言葉の意味が頭に浸透してきたカインは、キョトンとした表情になったあとで、びっくりした顔になっていた。

「いやいや、何、それ。セイヤにしては冗談が過ぎると思うけれど?」

「いや、冗談じゃないから。本気も本気だよ。前に、リク兄さまに話を聞いたときには、『俺でも油断していれば寝首を掻かれるかもな』って言っていたから――」


 セイヤが少しばかり興奮した様子でさらに話を続けようとしていたそのとき、横で話を止めるべきか悩んでいたシアが、アッという表情になった。

 だが、残念ながらカインに話をすることに夢中になっているセイヤは、そのことに気付かなかった。

「――だから……フファイスルノデスカー」

 背後から伸びて来た手に両頬を思いっきりつままれたセイヤは、相手が誰だかわからずに、抗議の声を上げた。

 しかも、頬を抓っている力はかなりのもので、セイヤはその両手を振り払えずにいた。

 そして、背後から聞こえて来た声に、思わず背中をピシリと伸ばした。

「フフフ~。余計なことを言う口は、きちんと閉じないと駄目ですよ」

 セイヤの頬を抓っている犯人であるピーチは、笑顔を見せながら両手をパッと離した。

 

 そしてセイヤは、無事に両頬が解放されたにも関わらず、額に冷や汗を流しながらギギギと壊れたロボットのように振り返った。

「ピ、ピーチ母さま!?」

「はい。ピーチですよ~」

 いつの間に、とセイヤには言わせずに、ピーチはもう一度ニッコリと笑ってウフフと言いながらセイヤの腕を取った。

「約束を守れない悪い子は、きちんとお仕置きをしないと駄目ですからね~」

 そんなことを言いながらピーチは、嫌がるセイヤを引きずって行った。

 

 そのふたりの様子を呆然とした表情で見守っていたカインは、戸惑ったようにシアを見た。

「ええと? 助けなくてもいいのかい?」

「もしかしなくてもセイヤを? そんな自殺行為は、したくないわよ」

 首を振りながらそう言ったシアを見て、カインは珍しい物を見るような顔になった。

「シアがセイヤを庇わないのは、珍しいな」

 これまで何度もコレットの叱りから庇ってきた姿を見ているだけに、あっさりと諦めているシアを見て驚いているのだ。

 

 そんなカインに、シアはブルブルと首を勢いよく左右に振った。

「カインはピーチ母さんの怖さを知らないからそんなことが言えるのよ!」

「へー。あんな美人がねえ」

 正直に言えば、カインはピーチを見た瞬間、ミクを見たときの衝撃が吹き飛んでしまっていた。

 それほどまでに、ピーチの美しさは際立っていたのだ。

 

 少しだけ疑わしそうな顔になっているカインに、シアが秘密を告白するような声で続けた。

「あのね、カイン。ピーチ母様はね――」

「シア。それ以上続けると、貴方もセイヤと同じようなことになるわよ?」

 途中で呆れたように口をはさんできたコレットに、シアはピタリと口を閉じた。

 その様子を見たカインは、シアがよほどピーチのことを恐れていることを理解して、人は見かけによらないんだなと思った。

 ついでに、先ほどセイヤから聞いたことは、忘れることにすると、コレットに向かって宣言するのであった。

怒れるピーチでしたw


ちなみに、ミクの裏事情を漏らしていますが、そのこと自体はあまり重視していません。

ピーチが怒っているのは、あくまでも「秘密を漏らしてはいけない」という約束を破ったことにあります。


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