(4)対面後の話し合い
マクシム国王との対面は、十分ほどで終わった。
当人はもっと話したがっていたのだが、息子であるレオナルドが止めたのと、考助たちが辞退したのだ。
本人は苦しそうにはしていなかったので、もっと話してもよさそうな気もしたのだが、自分たちが来たことで体が興奮しているということもあり得る。
変に無理はさせない方がいいという判断だった。
そして、マクシム国王の私室を退出した考助たちは、先ほどの待機していた部屋へと戻った。
レオナルドも一緒に入って来たことから、最初からそのつもりだったということがうかがい知れる。
考助たちは、病人相手に十分程度しか会えなかったと怒るような人柄ではないのだが、王家側にも体面というものがある。
フローリアが要望した対面とはいえ、その程度の時間で帰してしまっては、外聞的によろしくないのである。
付け加えれば、レオナルドが長時間対応することで、マクシム国王の体調を隠す意味合いもある。
考助たちが通されている控室(?)は、マクシム国王の私室にほど近いところにあるので、そうした面でも適しているのだ。
そうした裏事情を察しつつ、考助たちは席に落ち着いてレオナルドと話し始めた。
まず最初に口火を切ったのは、マクシム国王の姪であり、レオナルドの従妹でもあるフローリアだった。
「随分と驚いたよ。こういっては何だが、思った以上に悪そうだった」
そのフローリアの口調は、王太子を相手にするものでも、ましてやラゼクアマミヤの前女王としてのものでもなかった。
病床に臥しているマクシム国王を見たことで、従兄としてのレオナルドの話している気分になっているのだ。
そして、レオナルドもそれを気にした様子もなく、小さく頷いた。
「ああ。そうだね」
その目は王太子のものというよりも、懐かしい従妹を見る目になっている。
フローリアの現在の心境に合わせて話していることが、考助にもわかった。
レオナルドの様子から、フローリアはため息をついてから続けた。
「あの様子では、随分前からだったのだろう? その割には、外にはあまり広まっていないのではないか?」
「ハハ。やっぱりそう思うかい? 私も最近までそう思っていたよ」
少しだけ寂しそうな顔で言ったレオナルドに、フローリアはまさかという顔になった。
「・・・・・・誰も気づいていなかったのか」
「ああ、そうだよ。信じられるかい? 周囲にいる侍女さえ気づいていなかったんだ」
そのフローリアの予想に、レオナルドはもう一度、今度は自嘲気味に頷いた。
マクシム国王の体調不良は、本当に最近になるまで誰も気づいていなかった。
医者の見立てであれば、少なくとも発覚する半年以上前には自覚症状が出ていたはずだという言葉に、医者本人もそのことに気付けなかったことを含めて驚いていた。
レオナルドは、マクシム国王の王になるための訓練だという言葉を信じて執務をこなしていたし、何よりもそれは側近中の側近である宰相が申し出たことであった。
その宰相もマクシム国王の体調には驚いていたのだ。
本当に、マクシム国王は、自身の病を一人で抱えていたということになる。
レオナルドがそのことを知ったときは、どうして教えてくれなかったのかという思いと、王になるということはそういうことかと悩んだほどだった。
レオナルドのそうした葛藤に気付きつつも、フローリアは女王という立場にあった経験から頷くだけにとどめた。
「・・・・・・そうか。流石はあのお爺様の息子というわけか」
「・・・・・・そうだね」
フローリアの言葉に、レオナルドは小さな笑顔を見せた。
前国王であるフィリップは、孫たちには最後の最後まで元気な姿を見せていたので、猶更そう思えるのだろう。
何となくしんみりとした空気になっていることで、考助とシルヴィアはふたりの会話には敢えて入ってはいなかった。
ここは、近しい者たちだけで話した方がいいだろうと考えていたのだ。
だが、ここでフローリアの言葉が途切れたと考えたのか、レオナルドが視線を考助に向けて来た。
「・・・・・・ご無沙汰しております。このたびは、わざわざ我が父の為に来ていただきありがとうございます」
そのレオナルドの考助に対する対応は、完全に現人神としてのものだった。
ただ、そこに懐かしさを感じたのは、考助の気のせいではないだろう。
そんなレオナルドに対して、考助も丁寧に頭を下げた。
「いえいえ。今回はフローリアの希望がありましたから」
「そうですか。それでも、現人神に会えて、父も喜んでいたと思います」
「そうですか。それならいいですけれどね」
このときの二人の会話は、外聞的にどうだとかを抜きにして行われている。
本来であれば、現人神が直接一国の王のもとを訪ねてきたとなれば、騒ぎにならないはずがないからだ。
とはいえ、今回の件は、一応限られた者たちにしか知られていない。
しかも、あくまでも知り合いを訪ねるという体になっているので、これで余計なしがらみが発生することはない・・・・・・はずである。
もっとも、発生したところで、考助たちに直接連絡を取るルートなどないので、なんの問題もないのだが。
レオナルドが考助に挨拶をしたことで、場の空気が変わったことを察して、それまで黙っていたシルヴィアがちょいと考助の腕をつついた。
「うん。わかっているよ」
シルヴィアの合図に考助は頷き、フローリアとレオナルドは、そのあからさまなやり取りに首を傾げた。
その二人の様子を見た考助は、少しだけ間をあけてから話し始めた。
「――これは、フローリアもレオナルド殿下も勘違いしないように聞いていただきたいのですが・・・・・・」
さらにもう一度言葉を区切って確認して来た考助に、レオナルドは頷き、フローリアは眉をひそめた。
考助が慎重な態度を取るのは珍しくはないが、今のフローリアにとっては、何となくいつもと違った感じを受けたのだ。
考助は、フローリアとレオナルドを交互に見ながら、ちらりとコウヒを見た。
その考助の意図を察したコウヒは、すぐにその場に小さめの結界を張った。
結界内に入っているのは、レオナルドと考助たち四人である。
一応、護衛の騎士たちは部屋の中にいたのだが、彼らは対象外になっている。
考助が現人神であり、従妹であるフローリアがいるということで、警備は簡易的なものになっているのだ。
その護衛たちは、コウヒが魔法を使ったことで動こうとしたが、彼女の正体を知っているレオナルドが止めたことで、すぐに近寄って来るのを止めていた。
ただし、そのレオナルドにしても、考助がコウヒに指示をしてまで結界を張った理由は分からなかったようだった。
「これは、隠匿の結界のようですが、わざわざこのようなことをする理由があるのですか?」
レオナルドは結界を確認するように周囲見ながら、警戒をしている。
フローリアにしても、考助がいきなりこんなことを始めた理由が分からずに首を傾げていた。
「コウスケ? 一体何があったのだ?」
考助が、わざわざコウヒを使ってまで、厳重に結界を張った以上、何かがあったということはフローリアにもわかる。
ただ、その理由が、シルヴィアにはわかっているようだが、自分には分からないということが不思議なのだ。
そのシルヴィアを見ながら、考助はマクシム国王と対面する前に感じたことをふたりに話した。
「国王がいるあの部屋だけれど、魔法的な何かが使われているみたいだね」
考助のその言葉に、フローリアとレオナルドの顔色が一瞬で変わるのであった。
色々と懐かしさを感じつつ、寂しさも匂わせるフローリアとレオナルド。
そして、思わせぶりな終わり方をした考助。
続きは次話で!w




